『…にしてもさ、紅頼雄斗が道場を開いてるなんてよく知ってたね』
私は今現在紅頼雄斗が運営してる男気道場へ歩いて向かってた。
その途中、ふと思った疑問を真白にぶつけてみると…。
「あ、俺ね、実は子供の頃からヒーローになりたくてさ、一時期本気でなろうと思って体を鍛えてたんだ」
凄く意外だった。真白って他のアルビノより体が弱くて外へ出れないイメージがあったのに。
「トレーニング中に倒れてさ、助けてくれたのが紅頼雄斗さん。その時話が盛り上がって、愛衣のおじさんのファンだって知ったんだよ」
『へぇ、全然知らなかったなぁ』
そう言うと、真白は気まずそうに頬を掻いた。
「愛衣に言うと絶対親父とお袋にバラすだろ?…それはちょっと困るから」
『でもそのせいで倒れたら意味ないよね?だって、真白の両親が忙しくて日中家にいないから私が真白の近くにいるんだし』
「ま、まぁそうだけどさ」
『私は子供の頃から両親と離れてるから一人暮らしに慣れてるけど、真白は外に出にくい体質なんだから無理しないでよ。真白のおばさん達が困るでしょ?』
「…うん、もうしない」
そう言って笑った真白の笑顔は何処か暗かった。
別に、私はヒーローになりたい願望なんてないし、ダーリンに近寄る女さえいなければいいんだから、それなら真白がヒーローになってもいいんだ。
だから、変われるものなら変わりたいけどこればかりは無理だよね。
『まぁ、そんなにヒーローが好きなら発明科とか経営科とかあるし』
「…ありがとうね、考えとく」
まだ真白の顔は暗いままで歯切れも悪かった。
たぶん、真白が欲しがってる言葉はこれじゃない。
私達は重たい空気のまま歩き続けて紅頼雄斗の道場にたどり着いてしまった。
眼の前にそびえ立つ日本家屋を見つめながら声を掛けたくてうずうずしてた。
…でも、何て言えばいいのか言葉が出ない。
ちらりと横目を見ると真白も同じ気持ちみたいで気まずそうに頬を掻きながら道場を見つめてる。
そんな時だった。
「よっ、お前等も紅頼雄斗さんの道場の門下生か?」
後ろから明るい男の子の声が聞こえてきたので振り返ると、そこには赤いツンツンヘアーの男の子が立っていた。
「おっ、入門する奴って女の子一人じゃなくて二人なのか?!」
そう言うと、真白は気まずそうに頬を掻いた。真白は慣れっ子だから怒ることも何もしない。
「いや、俺男だよ」
「えっ、そんなに可愛いのに?!そういえば髪も短ェな!悪い、俺の名前は切島鋭児郎だ!!宜しくな!!」
にっと明るく笑った切島くんは両手を出してきた。
「俺の名前は有栖真白。隣にいるのが橘愛衣。俺は愛衣の幼馴染でただの付き添いだ」
真白が笑いながら握手をした。私は…どうすればいいかわからなくてとりあえず会釈した。
本当に真白はコミュ力お化けだよね。病弱なところと無個性な所を除けばヒーロー向きだと思う。
「へぇ、そうなのか?!見学ならお前も一緒に鍛えようぜ!!」
「…うん、そうしたけど俺昔から体が弱くて」
「そんなの鍛えてりゃ吹っ飛ぶぜ!!それに倒れたら俺が病院まで運ぶから気にすんな!!」
俺に任せろ、と言って自分の胸を叩く切島くん。自信満々な様子を見ると凄く頼もしく感じる。
その言葉を聞いた瞬間、真白は目をキラキラと輝かせ嬉しそうに口元を緩ませた。すっっっごい可愛い笑顔、正に天使だ!!
「いいのか?!」
「お、おう!!もちろん男に二言はないぜ!!」
…明らかに照れて顔が赤くなってる切島くん。おーい、相手は男だよー?
男共が少女漫画さながらのラブコメを繰り広げる時だった。
「切島、よく言った!それでこそ漢だ!!」
いつの間にか近くまで来てたらしく、紅頼雄斗が大きく笑いながら立ってた。
自然に吹く風がコートを靡かせてまるでマントみたい。
「紅頼雄斗さん、今日から三ヶ月よろしくお願いします!!!」
「おら卵共、全員俺の後に着いて来い!」
「『「押忍!」』」
目をキラキラと輝かせる男共とは対照的に、完全に空気に飲まれた私は勢いだけで返事をしてた。
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