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「ねえ、メイア。レクレス王子の女性苦手体質って、どうにか治せないものかな?」
勤務時間が終わり、部屋のベッドで私が呟くと、傍らに黒子装備のメイアが姿を現した。
「存じません」
きっぱりとメイアは断言した。そう、メイアでもわからないのね――ベットに横たわったまま天井をを見上げる。
「体質です。こればかりはどうしようもございません!」
「何もそんな強調しなくても――」
ちら、とメイアを見れば、彼女が無表情で、とても冷めた目をしているように見えた。部屋の明かりはつけていないから、おぼろけだけど。
「そういえば、今回は調べないのね」
「もう調べましたから」
「本当に?」
私はメイアを見上げる。
「あなたにもわからないことはあるのね」
「わたくしは神ではございませんから」
「それもそうね。でも残念だわ。私はあなたを過大評価していたかもしれない」
「……」
「『お嬢様のためなら、何でもできます』そう豪語していたのが懐かしいわ。あれ、私はとても嬉しかったし、それをいうあなたを私はとても好きだった」
「お嬢様」
ねえ、メイア。私がわからないと思った? あなたは私の恋愛やら婚約関係の話になると非協力的になるのを。
沈黙が下りる。私は答えを待つ。いつものあなたなら、わからないことがあれば『お調べします』って言うのに。
本当にもう調べつくしてお手上げとでも言うのかしら? さすがに体質については無理難題過ぎたのかも。魔術に通じているメイアなら、魔法薬を作るように体質改善の……。
「体質改善」
「はい?」
「そうだ、メイア。レクレス王子の女性苦手体質を、魔法とか薬で治療できないかしら?」
「カエルに変えろというのなら、容易く実行いたしますが」
「何でカエル!?」
昔、王子様が悪い魔法使いに、カエルに変えられてしまい、お姫様のキスで元の姿に戻るとかいう童話を聞いたことはあるけれど……。
「魔法……」
「今度は何でございましょうか?」
「ねえ、メイア。魔法の世界には、呪いの類いが存在するわよね?」
「!」
暗がりの中でも、メイアの目が大きく開かれたのがわかった。私はメイアほど魔法に詳しくはないけれど、古い時代に存在した魔法は呪いから始まったと彼女から教わった。
「カエルで思い出したけど、そういう体質を変える魔法を応用できないかしら? 女性が平気になる呪いとか……」
発想の転換だ。一定効果を発揮する呪いは、現代の魔法に比べてかなり強力だったと聞いている。女性が平気になる呪いを掛ければ解決しないかしら?
「そんな都合のいい呪いはないかしら?」
「よろしいのですか? 王族に呪いを掛けても」
「もちろん不幸をもたらすのなら駄目だと思うわ。でも悪い状況から改善するためなら……駄目かしら?」
メイアは考える。再度の沈黙。私は期待してメイアの答えを待った。こういう時のメイアは必ずいい案を出してくれる。
「わかりました。調べておきます」
「お願い」
王都の大図書館などが近くにあれば、私も調べるのだけれど、グニーヴ城には残念ながらそんな調べ物をする設備もない。王子殿下付きだから、城を離れるわけにもいかない。
「メイアの知識と経験が頼りだよ」
「!」
「どうしたの、メイア?」
「いえ、お任せください、アンジェラお嬢様!」
できる時の調子でメイアは応えた。これで私も安心して眠れるわ。
もちろん、成果がある保証はない。やはりメイアが先に言った通り、どうにもならないのかもしれない。でも、やれることの検証もしないで諦めるわけにはいかない。レクレス王子は克服しようとしている。
それに私は、あの人の婚約者なのだから、何とかしよう思うのは自然だ。……ああもう、私自身、調べることができないのがもどかしい!
翌朝、起床した私は身嗜みを整えた後、王子付きの護衛と勤務する前に朝食を済ませようとしたのだが、ツァルトから伝言をもらった。
「朝食は、王子殿下と一緒にとれ」
はい? 当然、私は困惑した。
レクレス王子は騎士たちと同じ食堂でお食事をとられる。打ち合わせがあれば、その者――副団長や各隊長格と一緒ということはあるが、それがなければお一人だ。
今の私のような一般騎士と同じテーブルにはつかない。……いや本人はきっと、一緒もいいんだろうけど、一般騎士たちが王子様と同じテーブルを遠慮しているのだろう。何か殿下の前で粗相をしないか怖いから。
私が、王子と同じ一緒に食事……ということは、その皆が遠慮する席に私がつけということだ。
「なんで!?」
私は、ここでは一介の騎士――ということになっている。騎士になったつもりはないのだが、いつの間にか青狼騎士団に入っていた扱いだ。
侯爵令嬢の私ならともかく、騎士アンジェロとしては、恐れ多くて遠慮したいというのが本音である。
だが、ご指名である。諦めて、レクレス王子の元に参上し、支度をお手伝いしよう。女性苦手体質の結果、王子なのにお世話係がいないよね。
男性の従者も、今はいない。前任者は戦士の心得があったために、王子と共に前線で戦い戦死したそうだ。それ以来、人員不足も相まって補充なし。
王子の部屋の外で見張っているハルスに挨拶すると、「王子殿下はもう起きているみたいだよ」と教えてくれた。
ならば、ノックして入る。
『誰か?』
「アンジェロです」
『入れ』
「失礼致します」
扉を開けて、中へ。陽光差し込む窓のそば、上半身裸のレクレス王子が立っていた。
「おはよう、アンジェロ」
ふらっ、と私は目眩をおぼえた。引き締まった筋肉質なその体。服を着ているとわからないが、胸板も厚く、逞しい。
天使――!
私は一瞬、意識を失いかけた。