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20
あまね🍡💠
75
十五年前――。
東理病院。
救急車のサイレンが静かに止まる。
担架が慌ただしく運ばれていく。
「出血量が多い!」
「至急、手術室!」
詩織の姿は、そのまま手術室へ消えていった。
赤いランプが点灯する。
『手術中』
義一は、その文字をただ見つめていた。
-–
数分後。
蓬萊が息を切らしながら病院へ駆け込んできた。
「義一さん!」
義一はゆっくり振り返る。
その両手には、まだ乾ききっていない血が付いていた。
蓬萊は言葉を失う。
「詩織は……。」
義一は力なく答える。
「……まだ。」
「手術中です。」
沈黙。
ただ手術室のランプだけが光っている。
-–
そこへ。
イコル・ヤーレン博士も病院へ姿を現した。
重苦しい空気の中、博士は蓬萊へ近付く。
「蓬萊さん。」
「少し、お話があります。」
蓬萊は静かに頭を下げた。
「申し訳ありません。」
「今は……。」
「詩織のことだけを考えさせてください。」
博士は蓬萊の表情を見つめる。
そして、小さく頷いた。
「……分かりました。」
それ以上、何も言わなかった。
-–
待合室。
時計の針だけが静かに進む。
誰一人、口を開かない。
義一は俯いたままだった。
やがて。
小さく呟く。
「俺が……。」
「送っていれば。」
「こんなことには……。」
蓬萊が静かに言う。
「違います。」
「一人で帰らせた私にも責任があります。」
義一は勢いよく立ち上がった。
「違います!」
待合室に声が響く。
「俺は警備責任者です!」
「危険だと分かっていた!」
「なのに……。」
「守れなかった。」
義一の肩が震える。
「俺が付いていれば。」
「俺が送っていれば……。」
言葉が続かない。
蓬萊も何も返せなかった。
-–
数時間後。
手術室のランプが消えた。
医師が静かに現れる。
全員が立ち上がる。
医師は深く息を吐いた。
「手術は成功しました。」
義一たちの表情が少しだけ緩む。
しかし。
医師は続けた。
「命は助かる可能性があります。」
「ですが……。」
「意識が戻るかどうかは、まだ分かりません。」
再び沈黙。
希望と絶望が入り混じる。
-–
その頃。
テレビニュース。
『ZERO関係者襲撃』
『能力犯罪か』
『犯人逃走中』
山奥。
作業小屋。
中村一徳はニュースを見つめていた。
静かにテレビを消す。
「これで。」
「少しは考え直すだろ。」
その表情に後悔はない。
「俺は。」
「間違ってない。」
窓の外では木々が風に揺れていた。
-–
深夜。
東理病院。
義一は一人、洗面所にいた。
蛇口をひねる。
水が流れる。
両手を洗う。
赤い血が流れていく。
何度も。
何度も。
何度も。
洗う。
それでも。
義一は止めなかった。
鏡を見る。
震える自分の姿。
義一は小さく呟く。
「……落ちない。」
血は、もう落ちていた。
それでも義一には。
まだ手が赤く染まって見えた。
守れなかった記憶だけが、
心に焼き付いて離れない。
-–
病室の前。
義一は静かに座り込む。
ポケットへ手を入れる。
一本の缶コーヒー。
詩織へ渡そうと思って買っていたものだった。
まだ少しだけ温かい。
義一は缶を強く握り締めた。
涙が一滴。
床へ落ちる。
「俺が……。」
声が震える。
「俺が守れなかった……。」
「俺に……。」
「力がなかったからだ……。」
誰もいない廊下に、
義一の嗚咽だけが静かに響いていた――。
第66話へ続く
コメント
1件
第65話、読みました……。 「血が落ちない」って、もう手はきれいなのに、心の罪悪感でまだ赤く見えるっていう描写がすごく刺さりました。義一さんが缶コーヒーを握りしめて泣くシーン、私も胸が締め付けられました。詩織さんは命は助かったけど意識不明…希望と絶望が混ざる終わり方、続きが気になって仕方ないです。中村一徳の「間違ってない」ってセリフも、彼なりの正義があるんだろうけど、胸くそ悪い…。 鳳蓮荘さんの描く人間の心の闇の描写、本当に丁寧で尊敬してます。次回も静かに読ませてもらいます🌙