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20
あまね🍡💠
75
十五年前――。
東理病院。
朝日が静かに病室へ差し込む。
詩織は眠ったまま。
規則正しく鳴る心電図だけが、命の鼓動を知らせていた。
義一はベッドの横へ静かに腰を下ろす。
詩織の顔を見る。
「……ごめん。」
小さく呟いた。
返事はない。
義一はゆっくりと詩織の手を握る。
少し冷たい。
その温もりが胸を締め付ける。
「俺が守るって言ったのに。」
「約束……守れなかった。」
義一は目を閉じた。
「もう。」
「誰も失いたくない。」
「詩織。」
「お願いだから……。」
「戻ってきてくれ。」
静かな病室に、その声だけが響いた。
-–
義一はポケットへ手を入れる。
取り出したのは、小さなお守り。
警備の仕事を始めた日から、
毎日欠かさず持ち歩いてきたものだった。
義一はそれを見つめる。
「今まで。」
「俺を守ってくれてありがとう。」
そして。
詩織の枕元へ、そっと置いた。
「今度は。」
「俺の代わりに。」
「詩織を守ってください。」
義一は深く頭を下げた。
-–
病室を出る。
廊下。
蓬萊が壁にもたれ掛かっていた。
一晩中眠っていないのだろう。
疲れた表情だった。
義一は小さく頭を下げる。
蓬萊も静かに頷く。
言葉はない。
二人とも。
何を言えばいいのか分からなかった。
長い沈黙だけが流れる。
-–
その頃。
イコル・ヤーレン研究所。
博士は窓の外を見つめていた。
能力。
人を救う力。
人を傷付ける力。
紙一重。
その重さを誰より知っている。
静かに目を閉じる。
「私は……。」
「本当に正しかったのでしょうか。」
答えは返ってこない。
-–
昼過ぎ。
義一は一人、
病院の屋上へ出た。
街を見下ろす。
子どもたちが笑いながら歩いている。
家族。
恋人。
友人。
当たり前の日常。
義一は拳を握る。
「守りたかった。」
「ただ、それだけだった。」
「それなのに。」
「何もできなかった。」
風が吹く。
義一は空を見上げた。
「力があれば。」
その言葉を口にした瞬間、
自分で驚いた。
「……違う。」
首を振る。
「力が欲しいんじゃない。」
「守れる力が欲しい。」
その願いだけは、
誰にも嘘をつけなかった。
-–
夕方。
蓬萊は病室の前で立ち止まる。
中には眠る詩織。
その横には、
義一が置いた小さなお守り。
蓬萊は静かに微笑む。
「詩織。」
「待っています。」
「あなたの笑顔を。」
その声は届かない。
それでも、
蓬萊は信じ続けた。
-–
夜。
イコル・ヤーレン研究所。
研究室には博士が一人。
ガラスケースの中。
一本の薬が静かに置かれている。
博士はその薬を見つめた。
「力は。」
「人を傷付けるためのものではない。」
「救うためにある。」
研究室の扉が静かに開く。
博士は振り返る。
そこには蓬萊が立っていた。
二人は何も話さない。
ただ静かに見つめ合う。
研究室には重い沈黙だけが流れていた――。
第67話へ続く
コメント
1件
うわ、めっちゃ沁みた…。義一の「守れる力が欲しい」って言葉、めちゃくちゃ重かったわ。力そのものじゃなくて「守るため」って覚悟が、キャラの芯を感じさせてグッと来た。お守りを詩織の枕元に置くシーンとかもう、涙腺やばかった。蓬萊も無言で見守ってるのが逆に想いの強さ伝わってくるし。愛情が濃い回だったな。次回も楽しみにしてる🔥