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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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戻るなり血相を変えたクリスに案内され、フリッツがその部屋を開けた時に見たものは、およそ彼が想像すらしていなかったものだった。

主人であるアリシアが、ベッドに横たわっている。

ほとんど万能にさえ思える彼女がこのような姿になっている。


「え……?」


自然、呆然とした呟きが漏れた。


「アリシアさん?」


フリッツはその声を、我ながら情けないと思った。


「何という声を出しているのです」


一方、横のビットはそのフリッツに呆れた声をかけて、ベッドへと歩み寄る。


「アリシアさん。意識は?」

「……あるわよ」


ビットの声に、アリシアが即座に反応する。その声は、フリッツが初めて聞く、どこかふてくされたものだった。

イエスマンのはずのビットは容赦せず、言葉を続ける。


「それでは、どうでした?」


何が、などとは尋ねない。それでも二人は確実に意志を通じ合っているのがわかる。

キャラバンに参加してから、時折感じる疎外感。

それを今も感じて、フリッツはわずかに眼を逸らした。


「完敗だったわ。わたしのプライドを粉々にされるくらいには。こうして生きていることを、含めてね」


ぎり、と歯ぎしりの音さえ聞こえそうな、何かを押し殺した声が、アリシアから紡がれる。


「敵は、シウムよ。夢魔とのつながりはわからないけれど。それは調べればいいこと」


シウム。自分の背後を取った相手。

そのシウムは、アリシアをも打ち倒して、自分たちの敵となっている。

果たして自分で勝てるだろうか? フリッツの心に不安と緊張がざわめきとなって響き渡る。

思わず拳に力が入る。眼を閉じ、瞼の裏に浮かぶシウムに向けて、構えを取る。

そこで、フリッツは視線に気づいた。

にやにやと笑みを浮かべる二人と、何故か青ざめている一人の視線に。

その視線の意味がわからず、フリッツがきょとん、としているとそれぞれが口を開いた。


「闘気をむき出しにして、やる気充分ね」

「流石は荒事担当、頼もしいですね」

「というか、出す前に一言言いなさいよ! びっくりしたわ……」


言われて自分が何をしたのかをようやく理解し、フリッツは頬が熱くなるのを感じた。

どう考えても自分らしくないその状態を、慌てて取り繕うとする。


「いや、これは……」

「でも、その闘気はしまっておきなさい」


考えすらまとまっていない言い訳を口にしようとするが、それよりも早くアリシアが言葉をかぶせてきた。


「あの男への借りはわたしが返す。他でもない、わたし自身の、手でね」


いまだベッドに身体を預けながらも、力のあるその言葉。

フリッツは、初めて知った。

アリシアは、カリスマもあるし腕も立つ。そして、頭もよく、意志も強い。

それらを持ちあわせた商人が、彼女そのものだと思っていたが――

すべてフリッツの偶像にすぎない。

アリシアもまた、力を求める一人の人間であり。

自らの腕と意志によって商人を選び、立つ。

世界を旅する、自分となんら変わらない存在なのだと、初めて知った。


「癒しを、わたしに」


アリシアは言葉と共に自ら生み出した光で、自らを包んだ。

一瞬で光が消え、アリシアは立ち上がる。その姿は以前と変わらず、凛々しい。

だが、フリッツには少しだけ近くなった気がした。

もし、彼女を打ち倒したシウムを自分が、超えることができたなら――

もう少しだけ、彼女に近づけるかもしれない。それは、フリッツにはとても魅力的なことだった。

アリシアが見ているはずの、高みから見える景色を、見てみたいから。

いつの間にか、フリッツの口元には強い笑みが浮かんでいたが。

今度は誰も、茶化さなかった。

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