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「やってらんないわ….なんで私が宣伝….その上専門外のマジックなんて….」
すぐそばに置いてあるベンチに倒れ込むように座る。
私の名前は美冠(みかん)一応サーカスの座長よ。けれどまぁ….団員と言えるほど大層な実力も、業務もしていない。
元は猛獣使いとして、今も団員兼猛獣使いという立場なんだけどそれはいいわ。
私が座長となった経緯は、私のサーカスは元座長とその弟子で成り立っていたこのサーカスは、ある日その二人がサーカスから抜けてしまったの。
で、一番実力がマシな私が団員となった。
彼らが抜けた理由は思い出したくもないし、省略するわ。
先程、言葉に発した通り私は今サーカスの宣伝をしている。マジックのね。
「そこが気に入らないのよねぇ….きっと前までのサーカスの見せ場がマジックショーだったからって理由なんだけど。」
「けど….けど!そこまでして客を集めたいのかしら!今のサーカスではマジックショーなんてやってないし!」
詐欺紛いのことはしたくない。
それでも団員から押し付けられた以上、やるしか選択はなかったのだ。
それに私のマジックの実力なんて微々たるもの、基礎の基礎もいいところ。
頑張って空中で物を消すくらいだ。
怒りに身を任せポケットに入っていた人差し指と親指で円を作ったくらいの大きさのチョコレートを口に放り込む。
うん、甘いわ。
チョコレートを咀嚼しながら辺りを見回す。
雲ひとつない晴天から送られる陽の光で覆われたこの公園は私の怒りとは反対に穏やかな空気で溢れている。
すると一人のパーカーとスカートを履いた少女が見えた。多分私と同い年…16くらいの女の子だ。
「Hey!そこのお嬢さん!ショーでもいかが?」
ごくりとチョコレートを飲み込む。喉に絡みつくような甘い後味を無視して彼女に近ずく。
今の私は仕事モード、プロとして、座長として先程の怒りとは切り替えて決別すべきだ。
彼女は灰色の髪を揺らしこちらに振り向く。突如話しかけられたことに同様しているのか、大きく目を見開いてその吸い込まれるような暗い、赤の瞳でこちらを見つめた。
「マジック.. ?見る分には大丈夫ですが…暇ですし」
「ありがとう、感謝するわ!
コホン…それじゃ小さなマジックショーの開幕よ!」