「先生甘い物は食べられます?」
お茶を机の上に置く母。
「はい、大好きです」
口角を上げる萩谷に
母は良かった、と台所へ戻りカチャカチャと何かを準備し始める。
「足はもう大丈夫ですか?」
これから担任と母の長めの雑談(?)が始まるであろう展開から、いつ抜け出すかを考えていた颯太に考えもしない質問が飛んできた。
「エッ!?ぁっハイ!元気です!」
唐突過ぎて毎朝の健康チェックのような答えを出してしまい顔を赤らめる。
「くふっ、それは良かったです」
ポカンとした後少し変な笑い方をする萩谷。
「僕用事があるので失礼します!!
ありがとうございました!!!!!」
と定番でバレバレの嘘を言い、その場から逃げるようリビングから退出した。
静かな廊下で息をつき部屋に戻るため階段を登ろうとするが、
ふと何者かに手首を掴まれた。
「せ、、」
しぃっと人差し指を唇につける萩谷
そんな彼に颯太は戸惑いの表情を向ける。
しばらく颯太を見つめていた萩谷だが、それだけでは物足りないかったのか、長い腕をこちらに伸ばしてきた。
「ッ、!」
何をされるのか分からずギュッと唇を噛み締め目を閉じる颯太。
ふと、右頬に暖かい感触を感じた。
恐る恐る目を開けて見ると予想通り萩谷は自分の頬に触れている。
これ以上ない戸惑いの表情を浮かべていると頬から親指が流れきた。
まだ力のこもった唇に触れる。
髪と眼鏡のせいで萩谷の表情が全く見えず怖い。
押したり指を滑らせたりを繰り返し繰り返し続けている。
「ぁ、の…」
余りにもそれが長く、固く閉じていた唇をつい開けてしまった。
すると、それまで動いていた指がピタと止まる。
「せんせぇ…?」
「あは、すみません」
と頬と唇に触れていた手を離し、口角を上げる萩谷。
「それじゃあ明日学校で」
そう言い残し、またもや何事も無かったかのように母と菓子が待っているリビングへと消えて行った。
(…なんだあいつ!!)
自分の部屋に戻りながら唇を手の甲で何度も何度も拭き直す。
「気持ち悪、、っ」
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「萩谷先生、いい人ね」
晩ご飯中、ふと母がそんな一言をこぼした。
「……そう?」
と曖昧な返事を返し豆腐ハンバーグを箸でつつく。
「そうって、あんたねぇ」
呆れた表情を浮かべる母、
「わかんないよ。あの人、、」
繋ぐ言葉が見つからない。
今日されたことを母に言う訳にもいかない。
「…このハンバーグ美味しいね」
「でしょう!お母さんの自信作~♪」
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