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フレア、シンカ、イリスを伴って、魔王城の一室に転移した。
余とイリスが普段の住まいとしている区画である。
「……で、ここはどこなの? さっきも聞いたけど」
フレアが余に尋ねてくる。
「うむ。余の居城の一角だ。イリスとともに住んでおる」
「城ですって? ディノス、あなた変人だとは思っていたけど、もしかして私と同じ高位魔族なのかしら?」
フレアが驚いたようにそう言う。
「まあ、そんなところだ」
余が魔王というのはまだ秘密にしておこう。
魔王という肩書や権力に惹かれて寄ってこられても、つまらぬからな。
余は真実の愛を見つけ、リア充になるのだ。
「ふうん。なら、ちょっとは敬意を払ってあげようかしらね」
「ほう? ようやく、余に対してその態度を改める気になってきたか」
「別に今までだって、あなたのことを見下していたわけじゃないわよ。ただ、なんとなく上から目線な感じがしてイ
ラっとくることがあったから、そういう風に振る舞っていただけよ」
上から目線も何も、余は魔王なので実際に上なわけだが。
しかし余は身分を隠して学園に通っている。
フレアからすれば、余の態度は不愉快なものであったのかもしれない。
余も、まだまだそのあたりの配慮には疎い。
「なるほど。つまり、今は違うということか」
「ええ。これからは対等に話しましょう。よろしく、ディノス」
フレアがそう言って手を差し出してくる。
「ああ。こちらこそ、よろしく頼む」
余はフレアの手を握った。
これで彼女との仲も一歩進展か。
結局は、魔王という肩書を半分は使ったような形となったが。
魔王であること自体は伝えていないし、とりあえずヨシとしておこう。
「あの……。ディノス君?」
シンカがおずおずと声を上げる。
「どうした? シンカよ」
「君がこんなにお金持ちだとは思わなかったよ。それで相談なんだけど……」
「金の無心なら断るぞ」
「まだ言い終えていないうちに断らないでくれないかな!?」
「いや、何を言いたいのか想像がついただけだ」
シンカは金欠だと言っていたしな。
「じゃ、じゃあさ! 僕にできることはないかな? 何でもするよ!」
シンカが必死の形相でそう言ってくる。
「そもそも、なぜそんなに金が足りないのだ?」
「言っただろ? 学費と生活費のためさ」
「それだけでは説明がつかぬ。”流水の勇者”として得た大金はどこに消えた? あのメイド喫茶の給金も悪くないだろう? それにそもそも、余たちが通っている学園はそれほど学費が高いわけではない」
余はそう問い詰める。
あの学園は、世界各地から優秀な人材を集めるために補助金が設けられているのである。
シンカは”流水の勇者”の称号を持っているため、それなりに高額の補助が出ているはずだ。
「それは……、確かにそうなんだけれど……。でも……」
シンカが口ごもる。
「なに? 何か言えない事情でもあるの?」
フレアがそう問いかける。
「仕送りしているんだよ……。故郷の村、旅先でお世話になった街、それに困窮していた孤児院とかにね」
「……なんですって?」
フレアが目を丸くしながらそう呟く。
「立派な心がけだな」
余はそう呟く。
だが、妙だな?
余は魔王として、資金の配分には目を通してきた。
世界の格差を完全に是正することは困難だ。
また別の軋轢を生む。
しかし、明日をも知れない貧困層には優先的に資金を配分していたはずだ。
後で担当者に問い合わせておくか。
「立派なんてものじゃないよ。人類の未来のために当然のことさ」
シンカがそう言う。
まだ20歳にもなっていない少女が同族全体のことを考えている時点で、立派なものなのだが。
普通は、自分のことで精一杯な年頃だろう。
「シンカの思いはわかった。そういうことなら、余も手を貸してやろう」
「そうね。私も、お小遣いから回してあげなくもないわ」
余の言葉に被せて、フレアがそう言う。
彼女たちは今までいがみ合っていた仲だが、ここに来て進展をみせたようだ。
「本当かい? ありがとう、ディノス君、バーンクロス」
「ふん。あなたがどうしてもと言うから、仕方なくよ」
「フレアはツンデレだからな」
「誰がツンデレよ!!」
フレアが顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくる。
余たちはそんな風に、和気あいあいと話していた。
「ディノス陛下、それにフレアさん、シンカさん。皆さんが仲良くなられたようで何よりですね」
イリスが嬉しそうに微笑みながら、お茶の準備を始める。
「ああ。これも全部、お前のおかげだな」
余はイリスに向けてそう言う。
彼女のサポートがなければ、余の学園生活はもっとぎこちないものとなっただろう。
「いえ、私は何も。全ては、ディノス陛下の御心のままにです」
イリスは謙遜してそう答える。
「ねえ、ところでそのイリスっていう子、本当に魔族なの?」
フレアが不思議そうに尋ねてきた。
「うむ。そうだが?」
「嘘でしょう? だって、魔力の波長に違和感があるわ」
フレアはそう言って、ジッとイリスを見つめる。
「そうだね。僕も、少し不思議に思っていたんだ」
シンカまでもがそんなことを言い出す。
やはり、フレアとシンカは優秀だな。
イリスの正体を見破りかけている。
「ふふふ。さすがはフレアさんとシンカさん。その慧眼には感服いたします」
イリスがそう言って笑う。
しかし、この笑みにはどこか凄みがある。
「話すのか? イリス」
「ええ。この2人を取り込むいい機会でしょう。信用できますし」
「だが、万が一ということがある。それに、悪意を持った第三者が介入してくるリスクも……」
余はそう懸念を示す。
「問題ありません。わたしに考えがあります」
「……わかった。お前に任せよう」
「はい、ディノス陛下」
イリスがうやうやしく頭を下げる。
「それで? どういうことなのかしら?」
フレアが鋭い視線を向けてくる。
「ご想像の通りですよ。わたしは、魔族ではありません」
「やっぱりね。それなら、人族?」
フレアがそう問う。
「いや、人族でもないと思うけど……」
シンカが口を挟む。
「ええ。わたしは人族でもありません」
「魔族でも人族でもないだって? そんなバカなことが……」
シンカが驚きの声を上げる。
「百聞は一見にしかず。イリスよ、見せてやれ」
「かしこまりました」
そう言うと、イリスが目を閉じ、意識を集中させる。
すると次の瞬間、彼女の身体に異変が生じた。
彼女が真の姿を見せようとしているのだ。
余も、見るのは久しぶりである。