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#『彼』の行く末
鐘寺 実昼
375
#オリキャラ
霰❄️
61
79
#短編
QuartoMew
105
プロローグ
新しい生活にも慣れてくる、5月も中旬を過ぎようとしていた。
市内の女子高に通う高校生が一人。
無地の紫色のブレザーに、ブレザーと同じ色のチェック柄のスカート、赤い無地のネクタイを組み合わせた制服、白のルーズソックスという出で立ちで歩いている。
彼女の名前は花崎彩純(はなさき あずみ)。
焦げ茶色の長い髪、琥珀を連想させる薄茶色い瞳、濃く長いまつ毛が生え揃った大きな目、目鼻立ち整った美少女である。その身体はGカップもある胸を備え付けていた。
10歳の時から中学卒業までの間はボクシングジムに通っていたこともあり、周囲の女子生徒達よりは筋肉質で引き締まっている。
彩純は日頃から男からの性的な目線や誘いにはうんざりしていため、グラビアアイドルのスカウトを受けることがあっても、頑なに断っていた。
自己顕示欲はあまりないようで、写真を載せるSNSでは、ハンバーガーの写真ばかり載せるという有様だった。
他のことに関しては無精者で、年頃の女の子のように化粧はしないし、面倒くさいとやらで、アクセサリーの一つも着けていない。
そんな平凡な女子高生であった。
「あっずみ〜!今日も朝から乳が揺れてるね〜!」
通学途中の彩純に話しかけて来たのは、クラスメイトだった。
立川姫乃(たちかわ ひめの)。
黒く、ボブカットに姫カットを組み合わせた髪型の女の子だ。
彩純とは対照的に華奢で小さい胸の身体をしている。
身長は彩純より15cmほど低い。
無表情かしかめっ面が多い彩純とは対照的に、笑顔でいることが多く、どちらかというと子供っぽさが目立つ風体だ。
彩純とは中学時代からの親友であり、彩純が今の高校に通っているのも、この姫乃からの提案だった。
「彩純さぁ…金曜日に彩純の家で百物語やらない?」
「へ?百物語?怖い話をしてロウソク消していくあれ?」
「そうそう、彩純の家で夜にやらない?」
「別にいいけどさ…。」
彩純には両親がおらず、両親が遺した一軒家には彩純と、未成年後見人である叔母の二人で暮らしていた。
姫乃が泊まりになることは中学生時代からよくあることで、彩純の叔母も無関心であった。
姫乃もそれを承知して、自宅より気兼ねなく騒げることに味を占めていた。
「おいおい、二人だけか?一人で50話分のネタあるのかよ?」
二人に話しかけて来たのは、同じく彩純のクラスメイト。
玉見香宝(たまみ かほ)。
彩純とは高校入学してからの友達である。
馬のたてがみのように黒く艷やかで、長い髪をポニーテールに結んでいる。
目つきは狼のように鋭く、生まれついて持った金色の瞳と、雪のように白い肌が魅力的な女の子である。
彩純とは背の高さもさほど変わらない。
彩純とは妙に気が合うところがあり、入学してからすぐに仲良くなった。
香宝の父はフランス料理のシェフで、その影響で何かしら手料理を作っては、彩純の家に持ってくることが定番であった。
父から料理のことを教え込まれたと本人は言うが、香宝の味覚は信じられないぐらいの味音痴である。
少なくとも彩純と姫乃にとっては、香宝の作る料理一つで、百物語の10話分の恐怖があると言っても過言ではない。
「えー、玉見は来なくていいよ。」
「なんだよ立川?妬いてるのか?」
彩純を介して付き合いのある二人だが、犬猿の仲でもある。
二人とも彩純とは名前で呼び合うが、香宝と姫乃は苗字で呼び合う。
「はいはい、二人とも争わないの。じゃあ、金曜日に家でね。」
傍から見ればいつもの光景である。
* * *
金曜日の夜。
2階の彩純の部屋で、寝間着姿の女三人が、ロウソクの灯りで煌々と照らされた室内に座っていた。
さすがに広くもない部屋に百本のロウソクを用意するわけにもいかず、燃焼時間の長いロウソク3本を用意しただけだった。
彩純の叔母は1階でソファーに座り、ワインを飲みながら無表情で映画を見ていた。
彩純の叔母、春山優香(はるやま ゆうか)。
41歳。優香は彩純と瓜二つの顔をしていた。髪、目、瞳の色、まつ毛まで。
彩純と瓜二つなのも当然で、今は亡き彩純の母・麗奈(れいな)とは一卵性の双子である。
彩純と違うのは、左目の下に小さい突起のないホクロがあること。
筋肉質な彩純とは異なり、どちらかと言えば華奢で、彩純より色白な身体である。
しかし、胸は身体の割に大きく、男の目線を集めやすいところは一緒だった。
無表情でいることが殆どで、話し方も一言二言必要最低限の言葉を口にするぐらいであった。
ピンク色のシャツや下着に執着する彩純と対称的に、黒や紫等の地味な色の服を着てばかりいる。
共通しているところと言えば、普段からアクセサリーを一つも着けていないところぐらいか。
彩純が11歳の時に麗奈が亡くなり、それからは未成年後見人として彩純と二人で暮らしている。
男と交際することもなく、子供もおらず、独身のままで生きてきた。
そんな叔母の口から、彩純は恋愛に関する話題を聞いた試しがなかった。
2階の彩純の寝室で百物語を始める三人。
「百物語」と言うけれど、姫乃は雪の日に家の鍵を失くしただの、香宝は自分の手料理を食べた人が倒れただの、他愛もない話ばかりであった。
ところが、彩純は自分の番になると、暗い面持ちで話し始めた。
「実はさ…この前見ちゃったの…。」
姫乃はこの数日間、彩純はどことなく変というか元気がないというか……。
何かあるのだろうかと思っていた姫乃であったが、どうやら関係ありそうだと思い始める。
「二人とも知ってのとおり、私の両親はこの世にいなくて……。パパは3歳の時に、ママは11歳の時に亡くなった。」
「今一緒に住んでいるのは叔母さん……ママとは一卵性の双子で、妹になるらしいけど……。」
そのことも二人は知っていた。二人とも彩純の母とは面識はないが、どんな顔をしていたのかは彩純の叔母を見れば容易に想像できていた。
「叔母さんって無口であまり話さないの。彼氏は今も昔もいないし、結婚したこともないし、子供もいない。それだけは聞いていた。」
無言のまま聞き入る二人にかまわず彩純は続ける。
「叔母さんは子供心にも変に思う所があって、いつも……なぜか私に隠れて着替えるし、一緒にお風呂に入ったこともない。もちろん一緒に温泉に行ったこともない。時々プールに連れて行ってもらった時も、なぜか上半身は見られないように隠してたの……特に胴体部分を。」
それは、「タトゥーか古傷でも隠しているのでは?」と考える二人だったが、次に彩純から出た言葉でその疑念は吹き飛んだ。
「でもね、とうとうこの前見てしまったの……浴室で、叔母さんが服を脱いで鏡を見てた。それをドアの隙間から見てたんだ……。そしたらね、叔母さんのお腹……おヘソの下あたりに、何本か赤いヒビみたいな線があるのを見たんだ。」
「似たようなものを見たことがある気がして……そういえば、肉割れっていう肌に出来る傷があること思い出したんだ。」
「肉割れってなに?」
スポーツには無縁の姫乃が質問する。
「肉割れってのは、例えば筋トレを始めて急激に筋肉がついたりすると、肌の表面にひび割れみたいな、うっすらとした傷ができることなんだ。でも何か引っかかったの。」
「叔母さんってそんなに筋肉つけるようなスポーツしてたのかなって……。」
「…………。」
「…………。」
姫乃も香宝も黙ったまま「じゃあ、何で出来た傷なんだろうか?」と思った。
彩純は話を続ける。
「調べてみたらさ……女が下腹部に肉割れを起こす可能性は、妊娠してお腹が膨らんだ時に起こることが多い。しかも、痩せている人に起きやすいって。」
「それとさ……一卵性双生児ってDNAが同じって知ってた?探偵漫画読んでて知ったんだけどさ。」
「あ…………。」
「え…………?」
姫乃と香宝が同時にぽつりと声を出した。
もう彩純の次に言いたいことはわかったからである。
「私が11歳の時まで一緒に住んでいたのは本当にママなのかな?叔母さんは本当に”叔母”さんなのかな…?」
「う…………。」
普段はおちゃらけてばかりの姫乃も、さすがにふざける気にならなかった。
冗談にしてはなかなか重いというか、笑えないブラックジョークである。
「あ…ごめん、重い話しちゃった。もちろん、他の可能性もあるから、叔母さんが本当のことを話してくれないとわからないけど……。」
「そ、そうだよね……いや、なかなか面白いじゃん?」
とりあえず重い空気を和ませようとする姫乃だったが……。
その時、静かにドアが開く。
ロウソクの灯りに照らされて、徐々にドアを開ける人の顔が見えてきた。
ウィスキーが入ったグラスを片手に、彩純そっくりの顔をした中年女性が部屋に入ってきた。
その左目の下には小さいホクロがあった。
ロウソクの灯りが、三人を見つめる無表情な顔をぼんやりと照らす。
「そう……見られてたのね。」
「叔母さん……。」
「百物語……私も一つ話す。」
優香の、静かに、つぶやくような話し方。
「もう彩純に話してもいい頃ね…私達に何があったか……。」
優香は自分の過去のことを話し始めた。
つづく
コメント
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わあ、これは…プロローグからずっしり重いテーマが来ましたね。彩純が浴室で見てしまった「肉割れ」の話から、一卵性双生児のDNAが同じという知識に繋がる考察が、読んでいてゾクッとしました。優香さんが本当に“叔母”なのか…という疑問、最後の「私も一つ話す」で終わる構成が上手い。続きが気になりすぎます。双子の秘密、どんな過去が隠されているんでしょう。