テラーノベル
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米軍基地のブリーフィングルームは、妙に落ち着いていた。
緊急招集という言葉とは裏腹に、空気は張り詰めきってはいない。
「映像を再生する」
スクリーンが起動し、カナダ上空の衛星映像が映し出される。
雲を突き抜けるように進む、巨大な飛行船艦隊。
「……数が多いな」
「だが、形が……」
拡大された映像に、誰かが吹き出した。
飛行船の基部。
装甲と推進器に囲まれながらも、はっきりと分かる形状。
便器をそのまま巨大化したような構造。
「……トイレ?」
「本気で言ってるのか?」
失笑が広がる。
次は戦闘機編隊。
速度、編隊間隔、どれも軍事的に洗練されている。
しかし、機体の中心や下部には、
トイレを思わせる白い曲線パーツが組み込まれていた。
「デザインが完全に統一されてるな」
「悪趣味だが、挑発だろ」
地上部隊の映像も。
すべてに共通する、トイレ型の基部構造。
「ここまでやると、もはや芸術ね」
ミス・サークルが鼻で笑う。
「でも、見た目倒しよ。脅威とは言えない」
教官たちも同意する。
「世界最強の軍事力を前に、
こんなふざけた外見で来る連中がいるとは思えん」
その空気を裂くように、声が上がった。
「……違う」
ルビーだった。
「これは、冗談じゃない」
彼女はスクリーンを指す。
「数、配置、移動速度……
全部、戦争を前提にした設計」
「考えすぎだ」
教官が即座に切り捨てる。
次の瞬間、
ルビーは机の上の軍用タブレットを奪い取った。
「返しなさい!」
怒号を無視し、彼女は叫ぶ。
「退避して!
絶対に戦わないで!」
足元から、
黒い煙が噴き上がる。
「ルビー、待――」
煙が視界を覆い、
次の瞬間、彼女の姿は消えていた。
沈黙。
「……逃走か」
「規律違反だな」
だが、技術担当が言った。
「ルビーには監視カメラを装着していました。
映像、まだ生きています」
スクリーンが再び点灯する。
黒い煙の中を抜ける視界。
揺れる映像。
やがて煙が晴れ、映し出されたのは――
巨大な地下施設だった。
金属床。
壁一面のモニター。
アンテナと配線が縦横に走る。
「……軍事施設?」
「いや、構造が違う」
映像の端に、人影が映る。
スクリーンフェイスを持つ存在。
教官たちがざわつく。
その直後、ルビーの声。
「……お母さん」
映像の中で、
女性型のテレビマン――テレビウーマンが駆け寄る。
「ルビー!
信号が途切れかけていたわ」
ルビーはタブレットを差し出した。
「見て。
アストロが動いてる」
「……もう確認したの?」
「ええ。想定より早い」
「アストロ?」
米軍側が首をかしげる。
映像は、ルビーが見せたタブレット画面に切り替わる。
そこには、
トイレを基礎構造にした飛行船・戦闘機・地上部隊。
「……ふざけた外見ね」
テレビウーマンは言った。
「でも、間違いない。
これは“アストロ”」
「解析班を集めて」
サイエンティストテレビマンが言う。
「これは文明単位の軍事行動だ」
テレビダディが低く唸る。
「笑ってる場合じゃないな」
テレビマンたちが走り出し、
通信が一斉に始まる。
「各部隊へ警告!」
「アストロが本格侵攻準備に入った可能性あり!」
その中で、
ルビーはふと肩に触れた。
「……カメラ」
表情が変わる。
「追跡される」
「ここを見られたら危険」
テレビウーマンが即座に理解する。
「……判断は任せる」
一瞬の沈黙。
「ごめん、お母さん」
ルビーはカメラを掴み、
床に叩きつけた。
黒い煙が一点に集中し、
カメラは溶けるように消滅した。
――映像、断絶。
ブリーフィングルームに戻る。
「……切れたな」
「まあ、異世界施設に入ったなら仕方ない」
ミス・サークルは肩をすくめる。
「結局、トイレの軍隊がいた、それだけ」
「過剰反応よ」
笑いが戻る。
だが、オリバーは黙っていた。
「……近すぎた」
「何が?」
スカルが小声で聞く。
「ルビーの行き先」
オリバーは答える。
「最初から、
“知ってる側”だったみたいだった」
グレース曹長が言う。
「予定は変えない。
オリバー、スカル。
徒歩でニューヨークへ偵察に行け」
二人は静かに頷いた。
誰も、
この判断を疑わなかった。
世界はまだ、
アストロを“奇妙な軍隊”としか見ていない。
その代償を払うのが、
どれほど近い未来かも知らずに。
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