どうせその目に俺は映らないって知ってた。
「!前髪パイセン」
「おや、一ノ瀬君こんにちは」
いつも猫を被って、本性を見せようとしない。本性を見せれるほど信用も信頼もされてないのだろう。
「ちわっす!」
「元気ですね」
「今日は羅刹になんか用事でもあったん?」
その顔から逃げる様に目を逸らす。これ以上見つめれば至極単純な俺はきっと、平常を装うことが出来なくなりそうだから。
ただで斜め前を歩いている今さえも耳に響くほどにドクドクと心臓は鳴り続ける。
「いえ…ただの書類提出するだけですよ。」
「そっか!」
「一ノ瀬君」
その声で俺の名前を囁けば、平凡な事なのに特段嬉しく感じてしまう。
「ん?」
「いえ、なんでもないです」
「なんだよ〜、前髪パイセン」
「なんかあったかなってちょっとビビったわ」
少し膨れっ面になりながら文句を言う四季の顔は猫咲には見えない。
それが何処か不愉快だった。
つい、出来心だった。
その背中に触れようと手を伸ばしたのも、薄い顎を掴んだのも。
そして、壁に押さえつけたのも。
「っ!な、に?」
「前髪パイセン…俺怖いんだけど…」
「一回ぐらいちゃんと目見て話せ、クソガキ」
その深海のような深い紺を覗き込むように、猫のように跳ねた髪の状態で四季を壁に縫い付けた。
「なぁ?聞いてんのk…」
見下ろした顔は明らかに耳まで赤く染まって、大きな瞳が揺れている。はくはくと息を出すだけの口も震えている。
「!っ!!にゃ、にゃんだよその顔ッ!」
反射的に離れた瞬間に四季は、自分の顔を隠すように両手で頬を覆う。
「〜〜ッ!?なんでもないっ!」
「お、おれもう!行くからっ」
潤んだ瞳を猫咲に向けたまま四季は即座に走り出してしまった。四季の声で、嵐にように賑やかだった廊下は静かになっていて、猫咲の鼓動が響いているように感じた。
「うそ、だろ…//」
四季君からの想いに気付いて満更でも無い猫咲さん…
コメント
2件
尊すぎるッッ!! はくしきは最高です!! 今回もめっちゃ面白かったです!
!めっちゃいい✨️ はぐしき好きだから書いてくれてありがとう‼️