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※4月1日に投稿された📄の歌ってみたを元ネタに書いています。
※るむふぉが遊女、基本は 受け側になりますが場合によっては攻めにもなります。
※名前、口調は変えていませんので時代背景と合わない場合があります。
※捏造設定が多く含まれます。
※他、人によっては不があります。ご注意ください。
※時系列が入り組んでいます。
「あぅ、っ……あ、ぁ…ッ、…!」
控えめでありながら大胆な嬌声が楼閣の一角から聞こえる。
初めての行為からどれくらい経っただろうか、セラフはすっかり情事に慣れて馴染の客もたくさんできた。身丈は立派に伸び、いつの間にか格子女郎にまで登り詰めていた。
帰り際、とある客からカステラと桐箱を贈られた。客が帰ってから珍しい南蛮菓子を一口食べるとふわふわと柔らかく、仄かに甘かった。
食べながら合わせを正し、みっともなくないよう衣服や髪を整える。そして桐箱へ向き直る。
「俺もいよいよかぁ……。」
閉め切った障子戸から透ける月光に包まれ、セラフは身を休めた。
開け放たれた障子戸に足をかけ、アキラを見ると切なげに笑った彼はそのまま座敷へと踏み込む。
「…ひばり、なんで……?」
あんなひどいことをしたのにどうしてと問うと雲雀はまた笑って、アキラの前に跪く。手を取って、甲へ口付けをすると愛しそうに頬を撫でられる。
「そりゃ痛かったけど…だって、アキラ泣いてんだもん。
…行きたくないんやろ?じゃあ、一緒に逃げようぜ」
「でも、そんなことしたら、貴方は……」
雲雀はふるふると首を横へ振って、アキラの言葉を封じる。それでもいい、と言っているようにアキラには思えた。
「なぁ、行こう。」
月よりも強い光を湛えたその黄金の瞳は真っ直ぐにアキラを射抜く。
「雲雀、どうして、どうしてここまでするんですか?貴方と私はただの――」
言いかけたアキラの口が塞がれる。 近づいた紫の髪からはあの紫陽花の簪と同じ匂いがした。
「アキラ、好きだ。ずっと、ずっと前から。
……だから、どこへでも行けるんだよ、お前となら。」
雲雀は身軽に窓の縁へと飛び移り、その手をアキラへと差し出す。
この手を取れば、大好きな雲雀と一緒にどこへでも行ける。だが、その道は決して楽なものではないだろう。もし誰かに見つかってしまえば雲雀もアキラ自身も命が危ない。それを分からないほど雲雀も馬鹿ではないはず。
今なら誰にも気づかないと言い、もう一度名前を呼ばれる。どくどくと耳元で心臓が鳴る。
「貴方、本当にずるい人。……私の方が貴方のことが好きだったのに。」
アキラが雲雀へと手を伸ばすとしっかりと捕まれ、そのまま窓から2人で飛び降りた。
「ねぇ、奏斗〜」
「ん、なぁに?……って、こら !セラフ!」
わざと際どいところまで足を出し、奏斗の前に立つ。すると決まって稚児を叱るように怒っては裾を正してくれる。セラフにはそれが何故か嬉しかった。
「あのね、さっきの人、カステラと一緒にコレ置いてったぁ」
そう言って桐箱を奏斗へと渡す。奏斗はきょとんとして受け取ると、セラフに自室で待つように指示を出した。
客や食事を待つわけでもなく過ごす時間は退屈で、セラフは押し入れを漁ってみた。そこでに一束の紙があり、内容はちょうどセラフが来た頃に突然姿を消した座敷持の遊女と若衆の話だった。
人気絶頂で太夫になれると言われるほど器量も教養もあった聖来という遊女、食事や楽器弾き、宴会場の盛り上げなど多彩だった若衆の雲雀。おそらく職場内恋愛からの駆け落ちだろうと書かれているがその真偽は定かでない。
ただセラフはこれを読んで羨ましいと思っていた。というのも、セラフにとっては奏斗がまさしくソレに近しい存在だった。
ぽつり、と名を呼ぶと襖の向こうからその名を冠する人の声がした。驚きながらも、返事をする。
「セラフ、おめでとう!お前のこと、例の旦那様が身請けくれるってさ!」
「わぁっ!びっくりした〜。……やっぱり?」
「なんだ、分かってたんだ。じゃあ、いいや。7日後に迎えが来るからそれまでに荷物まとめといてね。」
よろしくと軽く言ってその場を離れた奏斗。遠ざかる背中に返事をしてセラフは練香へ火を付けた。
思い返すと最初の頃より奏斗と話す時間は減った。彼よりも背が高くなったせいで抱き上げてくれることもなくなった。
あの体に抱かれたのも随分前のように感じる。抱かれたといっても彼自身をこの身で受け入れた訳ではなかったが。
練香から甘い花の香りが漂よう。
それなりに楽しんでいた遊女としての生活も終わりを迎えようとしていた。