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病室で電話OKだと聞いてホッとした。右手に点滴、左手に裂傷の包帯でも通話ボタンぐらい押せる。と、思ったら、腕が曲げられない状態で、スマホの画面が見えない。
自分の状態が思っていたのと違う。
誰かに操作してもらってからハンズフリーで通話するしかない状況。
かと言って、将嗣に朝倉先生への通話をお願いするのは無神経な気がする。
考えあぐねた私は、担当編集さんに電話を掛ける事にした。
「ごめん、編集さんに電話したいんだけど、画面が見えないから通話できるようにしてくれる? ハンズフリーでね」
「スマホの電話帳開けていいのか?」
「うん、お願い」
電話帳の あいうえお順だとどう考えても上の方に朝倉先生の名前がある。
若干の抵抗はあったけれど、自分で画面が開けない以上どうしようもない。
スマホの操作をする将嗣は表情を変える事もなく出版社の名前を見つけ、タップするとコール音が聞こえ始めた。
将嗣は、スッと立ち上がり廊下へ移動してくれた。
事故に遭った事で、仕事の締め切りが難しくなってしまったお詫びをして、調整出来るものと調整の利かないものと振り分けをする手筈になった。
やっと、軌道に乗り始めた仕事が、他の人に回ってしまうのは、かなりの痛手だ。けれど、締め切りがあって自分が書けない以上どうしようもない。そして、担当さんに朝倉先生へ予定変更の連絡をお願いした。
朝倉先生の連絡は、後で一人の時に連絡をしようと思った。
「夏希、明日、面会時間になったら来るよ。適当に買い物してくるから」
「ありがとう。ごめんね。すごく助かる」
「いいよ。事故は俺の責任でもあるし、何でもするよ」
「事故は相手の信号無視だったんだから、避けようもないよ。ケガしたのが美優じゃなくて良かった」
「ん、美優ちゃんがケガをしなくて良かったけど、俺は夏希にもケガをさせたくなった」
満足に美優を抱くことも出来ない体をもどかしく思いながら、ケガをしたのが美優でなくて自分で良かったと思った。もしも座る位置が反対で美優の座っていた所に車が突っ込んでいたらと思うとゾっとした。
「将嗣よろしくね」
「ああ、明日な」
「うん、明日」
色々、不安や不満はあるけれど、明日を約束できた状況で良かったと思った。