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#文芸アクション
大正
4,228
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「翠子! いい加減に――」
「わかりました。いらしてください。責任をもってお世話します」
これ以上お店の前で騒がれても困ると思い、一旦、問題のご令嬢を引き取ることにした。
「佑里香さん!?」睦月君は驚いて私を見た。
「翠子さんは、私たちの生活を心配されていらっしゃるのよ。夫婦としてしっかり生活しているということを見ていただけるチャンスだと思うの」
「だからって……」
私は睦月君の耳元で囁いた。「納得してもらいましょう。婚約を諦めてもらうの。協力するから」
こうして成り行きでご令嬢をマンションで面倒見ることになった。
そして先ほどの顎でこき使われるターンに戻る、と。
「翠子。調子に乗ってない? 佑里香さんに迷惑かけないで」
偉そうに私に指図していたご令嬢――湯川翠子さんと名前を伺った――に言われたのがこれ。
「足が痛むんだから仕方ありませんことよ」
「文句があるなら直接僕に言ってよ! こんな風に佑里香さんを巻き込んだりして…ぜったい許さない」
睦月君が敵意むき出しに怒っている。翠子さんは睦月君との仲をなんとかしたいのだろうけれど、これでは逆効果だろう。
「許すもなにも、当然の権利を主張しているだけですわ。あぁ痛い」
お嬢様としては面白くないわよね。ぽっと出の庶民に婚約者を盗られたようなものだから。きっと難癖付けて離婚させたいんだと思う。そうはいかないわ。今、睦月君の奥様は私よ!
「翠子さん、明日病院へ送迎しますから、一緒に付き添わせてください」
「結構よ。家の者に付き添わせるから」
「いえ。怪我をさせてしまった責任は取りますから。送らせてください」
「不要だと言っているでしょう!」
分が悪いと思ったのか、ヒステリックに怒りだした。
「どうして不要なのですか? 送らせてください」
ここまで嫌がるってことは、もしかして大したことない…?
うすうすそうじゃないかと思っていたけれど、私に来られたら分が悪いことが判明するのを隠したいような気がした。
「……あなたは言われたことだけしていればいいのです!! わたくしに指図しないでちょうだい!」
なんて我儘な!
私は対抗することにした。
こうして押し問答が始まる。
「指図をしているわけではありませんよ。責任を取りたいと言っているだけです」
「結構だと言っているでしょうこのわからずや!」
「いくらお客様とはいえ、この家のルールがありますから。守れないようでしたら面倒は見られません」
「まぁぁぁ横柄な態度! それが怪我をさせた人が言うセリフですの?」
どっちが!
「ストーップ」
一触即発のところに割って入ってくれたのが睦月君だ。
「翠子。佑里香さんの手をこれ以上煩わせないで。君の望みはなに? どうせ大した怪我でもないのに、僕たちの新居に転がり込むなんてどうかしているよ」
「睦月様ひどいですわ…。わたくしはただ、あなたのお傍にいたいだけですのに」
ご令嬢はうるうるとした目で睦月君を見る。彼は盛大にため息をついた。
「わかった。僕が病院へは送っていくよ。そんなに痛むなら、今から救急病院でも行こうか?」
「結構ですわ。一泊こちらに泊まらせていただいて、それから病院へ行くことにします」
「は? この家に泊まるの? 冗談でしょ」
さすがの睦月君も顔が崩れた。ひくっと頬引きつらせている。
「いいえ冗談なんかじゃございませんわ。睦月様、わたくし、以前のように睦月様のお傍で眠りたいので」
「あのね、翠子。僕はもう結婚したの! 添い寝なんてできるわけないでしょ!!」
「添い寝?」ふっと翠子さんは鼻を鳴らした。「誰もそんなことは言っておりませんことよ。寝室を貸していただきたいだけですわ」
「寝室? 自分の家に帰ってよ」
「客人を泊めるのは、責任を負うという認識とみなしますわ」
「……いいだろう。僕の部屋を貸すよ。その代わりひとりで寝てもらう」
「もちろんですわ」
ご令嬢がニヤリとした。なにか企んでいるのかしら……。
結局ご令嬢を泊めることになったので、睦月君がいろいろ手配していた。
「ベッドは取り替えて。新品のパジャマやタオル用意して。とにかく粗相のないように。どんな難癖付けられるかわからないから」
てきぱきと給仕の方に連絡をして、あっという間に睦月君の寝室が新しいベッドになった。ベッドごと取り替えちゃうなんて…さすが!
「ごめんね。今日は佑里香さんの部屋で寝ようね」
ドキっとした。今度は私の部屋でふたり…。
胸を高鳴らせていると、翠子さんがやってきた。
「睦月様、なぜベッドを取り換えるのですか? 汚したりしませんことよ」
「僕と佑里香さんが眠っているベッドなんだ。君に使わせたくない。それだけだよ」
屈辱的な物言いをし、睦月君は様子を伺う。しかし翠子さんはあまり悔しそうにせず、わかりましたわ、と引き下がった。
「パジャマなんかは用意させたから好きに使って。あと、ボディーチェックはさせてもらうからね」
「ボディーチェック? どういう意味ですの」
「寝室にカメラや盗聴器なんかを仕掛けられたら困るからね。僕の寝室を指定するなんて、変じゃないか」
「わたくしはそんなつもりありませんことよ。まあでも、潔白を証明するためにも受けますわ」
お嬢様はやけにあっさりボディーチェックにも承諾し、結果なにもなかったので、睦月君の寝室で眠ることになった。
コメント
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ああ、今回も面白かったです……! 佑里香さんが「今、睦月君の奥様は私よ!」って心の中で宣言するシーン、じんと来ましたね。立場は弱いかもしれないけど、彼女なりの覚悟と愛が感じられて。翠子さんもただの面倒な元婚約者じゃなくて、なにか企んでそうな気配がして目が離せません。ふたりで睦月君の寝室を使うことになる展開、ドキドキしちゃいました。続きがすごく気になります!