あれから何週間か経った頃、大学での生活も忙しくなってきた。
相変わらずバイトとの往復で、ゆっくり休む時間さえまともに取れてはいない。
講義の合間、授業の準備をしていると後ろに座る生徒がコソコソと何かを話しているのが聞こえてくる。
どうやらとある先輩の話らしい。
生徒A 「なーなー、あの噂聞いたか?」
生徒B 「あのってどのだよ?」
生徒A 「あれだよ、一個上の先輩にすげー頭良いのに遊びまくってる先輩がいるって噂!」
生徒B 「は?そんなん腐るほど居るだろ。」
生徒A 「いや、そうなんだけど!違くて!なんか◯◯教授の研究室入ってるぐらい賢いのに、見た目派手な金髪でさ!」
生徒B 「◯◯教授の⁉︎1番入るの難しい先生のとこじゃん!てか、派手な金髪って確か…きりやん?って呼ばれてる人じゃね?」
生徒A 「そうそう!遊びまくってるって言ってもヤバいのは、…喰われてんのが男ってこと!」
生徒B 「ぇ‼︎マジで?いや、でも今の時代あんま珍しいことじゃなくね?」
生徒A 「そうなんだけど、噂になってんのは一緒に居る先輩含めて数がやべーんだって。なんでも、男が女の子に手出してて引く数らしいぞ。」
生徒B 「マジかよ…。それ1人単位何人引っ掛けてんの…?」
生徒A 「知るかよそんなん!ーーーー」
うっすら聞こえてきた名前は確かに“きりやん”と言っていた。
どうりで。
どうりで慣れているはずだ。
俺を触る手も、俺にかける言葉も、するすると口から出ていた。
日頃から男を喰っているならあんなこと日常茶飯事なのかもしれないな。
いや、寧ろラッキーじゃないか?
何人も相手にしているなら俺のことなんて記憶に残ってはいないだろう。振り返れば恥ずかしさが込み上げてくる出来事も、相手が覚えていないとなれば別だ。
これからは気楽に過ごせるだろう。
それから何度かキャンパス内で先輩を見かけることがあった。あんな噂が立っていても先輩の周りには人がたくさん集まっていて。
あの噂が本当かは分からないけど、あれだけ人が集まるくらい彼には人徳があるということ。
やはり俺とは違う世界に住む人なんだ。
そんな人の連絡先を持ってるくらいで、
自惚れて彼に話しかける行動力なんて無い。
ましてやそんな気力さえも。
あの出来事もまるで夢だったのではないかと思うぐらい、目紛しい日常にかき消されてゆく。
ただ名前の分からない、
それでも確かに芽生えた劣情だけを残して。