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子供の時から鳥が好きだった。
海を鏡で写したような深い青地を滑るそれは、小さい子供にはとても自由なように見えた。
大人になり、自由と責任を手に入れ、鳥になりたかった、と思っても後の祭り。今更そんなことを思う暇なんてない。
そう、僕の夢は鳥になる事だった。いつも家の側にある木に止まっては飛んでいく白い鳥。あれがいい。あれになりたい。といえば、皆口をそろえて「変なやつだな、」と嘲笑う。
いつも通りの日常だった。
ある日、白い鳥が地面に突っ伏して死んでいた。鳥の寿命は短いがそうではない。胸元や羽から緋色の傷をのぞかせるその鳥は白い綺麗な羽を少しずつ赤く染めていく。
カラスか何かにやられたのだろうか。
人にやられたのだろうか。
何にせよ、このままでは可哀想であったために「せめて、見晴らしの良い所に、」と家の近くの丘に埋め墓を作った。
丘から見る光景は、良いものだった。青く染め上げられた空には良く飛行機が飛び、鳥の群れが通り、偶に白い鳥が飛んでいる。
丘の下は崖で、柵は無い。そんな危険な場所であったがために親は行ってはいけないと言って聞かない。
私はそこに座り数時間の間その光景を見ていた。家に帰りたくなかった。この鳥と一緒に過ごしたくて、ずっとそこにいた。
そんな思い出がある。
その墓は翌日掘り返されていた。同級生が掘り返していた。鳥を殺したのもきっと彼らだ。けれども誰も彼らを咎めない。
それはきっと、何処かの偉い人が、彼らを許してしまうから。
世界が彼らを許してしまうから。
寿命、他殺、自殺、全て変わりゆく世界が悪い。鳥は、変化する世界に殺された。
それでいい、そうすれば、誰かにバツをつける意味も無い。彼らと僕とで見る世界が違う、というだけで問題はすむ。
そう思い適当な木の棒に糸をつけただけの物を意味も無く緋色の川に垂らす。
時刻は夕方。けれどその川は夕日が反射しているのではない。肉塊や油が所々を流れている紅い普通の川。
魚釣りなんて意味はないけど、普通じゃないことが普通になる前から趣味としてやっていたものだからついつい糸を垂らしてしまう。
これから魚は食べれるだろうか。食べるならサーモンがいい。
サーモンが食べたい。