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フランは、彼これ半刻は走り回っている。テオドールが行きそうな場所を見て回るが何処にもいない。だが、ここで諦める訳にはいかない。何しろヴィオラに約束してしまったのだ。テオドールを連れてくると。
息は苦しくなり、走るのも辛いが、あの天使の様な笑顔のヴィオラの為に頑張ろうと、フランは奮起していた。
◆◆◆
その頃、テオドールは書庫の扉を開けた。息が少し切れている。部屋を出たテオドールは、ヴィオラを探し回っていた様だ。
「ヴィオラ!良かった、此処にいたんだね」
テオドールは書庫の椅子に腰掛け、お茶やら焼菓子やらを頬張っていたヴィオラを見て、安堵した。
フランが書庫を飛び出して行った後、ヴィオラは、ブロルが用意してくれたお茶と菓子を食べながら、フランがテオドールを連れて来るのを待っていた。だが、いつになってもフランは戻らず、代わりに当人のテオドールが先に現れた。
ヴィオラは、テオドールの登場に驚き、少し戸惑いながらも、微笑んだ。
「ヴィオラ」
テオドールは、ヴィオラに駆け寄ると勢いよく抱きしめた、が直ぐに我に返り離れる。
「テオドール様?」
「ご、ごめん、また、僕は……」
また、やってしまった、とテオドールは項垂れた。少し前に、暴走してヴィオラを押し倒し、怯えさせてしまったばかりだというのに……そんな相手から抱き締められたら嫌に決まっている。
「ごめんね、ヴィオラ。最近の僕はどうかしているんだ。君を怖がらせたい訳じゃない」
そう言って額に手を当てながら、テオドールは苦悩した表情を浮かべた。
「テオドール様……」
ヴィオラは、立ち上がるとそっとテオドールの頬に触れた。瞬間テオドールの身体はビクッとする。
「テオドール様は、優しい人です。怖くなんて、ありません。だから、そんな顔しないで……下さい」
ヴィオラの言葉に、テオドールは頬に触れられている手に、自身の手を重ねた。
温かくて、優しい……そう感じる。
「ヴィオラ……」
暫し見つめ合う2人だったが。
「ホッホ、仲直りは出来ましたか」
その声にヴィオラも、テオドールも驚き心臓が跳ねる。互いに顔を真っ赤に染めて距離を取った。
ブロルの存在をすっかり忘れていた……ヴィオラにお茶と菓子を用意した後、ブロルは仕事があるからと、書庫の奥へと姿を消していた。ついでにいうなら、ヴィオラはすっかり、フランの事も忘れている。
「仲直り?」
テオドールは、ヴィオラを見遣る。すると、ヴィオラは、おずおずとブロルに聞こえない様に小声で、事の経緯を話し始めた。
テオドールは、……自分でした事といえど確かに、あんな事他人に言える筈がないと思った。申し訳ないやら、自分が情けない。
「ブロル、手間を掛けさせた。ありがとう」
テオドールがブロルにそう声を掛けると、ヴィオラも丁寧にブロルにお礼を言ってお辞儀をした。
ブロルもその様子に、優しく笑うとお辞儀を返す。
そして、2人は書庫を後にした。
◆◆◆
一方、フランはまだ城内を駆けずり回っていた。
「一体、どこに……」
フランは、へとへとになりながらも、ヴィオラの為にと、頑張った。後、数刻はこのままの状態が続いた。
その後、フランが諦めて書庫に戻った時には既にヴィオラの姿はなく……ブロルから話を聞いた瞬間、ショックでその場にへたり込んだ。