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夕焼けが、屋上をゆっくりと飲み込んでいく。
沈みかけた光の中で、四人の影が長く伸びていた。
風が吹く。
フェンスが、カタカタと鳴る。
沈黙を破ったのは――つかさだった。
「ねえ、にう」
軽い声。
でもその奥に、どこか興味深そうな色がある。
「君さ、“壊すの得意でしょ”」
にうは一瞬きょとんとして、それから嬉しそうに笑う。
「うん、得意だよ」
あっさりとした返答。
「でもね」
首をかしげる。
「自分は“笑わせたい”だけなんだ」
狐のお面が、わずかに揺れる。
「壊れるのは、その結果」
その言い方はあまりにも無邪気で。
あまりにも歪んでいた。
つかさは、ふっと笑う。
「いいよね、それ」
一歩、にうへ近づく。
「楽しそう」
その笑みは、さっきまでよりも深い。
どこか“同類”を見る目。
「じゃあさ」
つかさが言う。
「一緒にやらない?」
空気が止まる。
ゆうなが息を呑む。
「……は?」
思わず声が漏れる。
にうも少しだけ目を丸くする。
「一緒に?」
つかさはうなずく。
「そ」
「どうせ一人でやるより、面白いよ」
にうはしばらく黙って――
それから、くすっと笑う。
「いいよ」
あまりにも軽く、答えた。
「楽しそうだし」
その瞬間。
空気が、変わる。
屋上の空が一瞬だけ“深く”なる。
まるで、何かが噛み合ったみたいに。
「……っ」
ゆうなの背筋に寒気が走る。
(ダメだ……これ……)
(こいつら、組んだら……)
直感が警鐘を鳴らす。
つかさは満足そうに笑う。
「決まり」
軽く手を差し出す。
にうはその手を見て――
少しだけ考えてから、ぽんっと重ねた。
その瞬間。
狐のお面に、ひびのような模様が一瞬浮かぶ。
そして――消える。
風が止む。
静寂。
「……これで」
にうが言う。
「仲間だね」
つかさはにやりと笑う。
「うん、仲間」
その言葉は、妙に重かった。
まるで“契約”みたいに。
ゆうなは一歩後ずさる。
「……お前ら……」
声が震える。
「何する気だよ……」
つかさが振り向く。
その目が、少しだけ冷たい。
「別に?」
「楽しいこと」
にうも笑う。
「悲しい子、いっぱい笑わせるの」
その“笑わせる”が、どんな意味か。
もう、ゆうなにはわかっている。
「……やめろよ……」
絞り出す声。
そのとき。
「――そこまで」
静かな声が、空気を切った。
ゆうなが振り向く。
屋上の入口。
そこに立っているのは――
花子くん。
白い帽子。
黒い制服。
そして、どこか底知れない目。
「それ以上やると、さすがに見過ごせないな」
落ち着いた声。
でも、その奥に確かな圧がある。
つかさが嬉しそうに笑う。
「あ、来た」
にうも手を振る。
「こんばんは、七番」
花子くんは二人を見て、小さくため息をつく。
「……厄介な組み合わせだね」
そして視線を、ゆうなへ向ける。
「君」
ゆうなはビクッとする。
「……は、はい……」
「こっちに来な」
短く言う。
「そっちにいると、ろくなことにならない」
つかさがすぐに口を挟む。
「えー、なにそれ」
「もう友達だよ?」
ゆうなを見る。
「ね?」
その視線が、妙に重い。
縛るような。
引き込むような。
ゆうなの頭の中に、さっきの“つながり”がよぎる。
(……このままだと……)
(飲まれる)
花子くんが一歩前に出る。
「選びな」
静かな声。
「そっちに行くか」
「こっちに来るか」
シンプルな言葉。
でも。
逃げ場はない。
にうがくすっと笑う。
「どっちでもいいよ」
「自分は、どっちでも笑わせるから」
つかさは楽しそうに見ている。
まるでゲームみたいに。
「さあ、どうする?」
心臓がうるさい。
ドクン、ドクンと響く。
ゆうなは拳を握る。
そして――
ゆっくりと、花子くんの方へ歩き出す。
「……俺は……」
喉が震える。
それでも。
「……ちゃんとしたやつがいい」
その一言で。
空気が、ピシッと割れる。
つかさの笑みが、ほんの少しだけ変わる。
にうは楽しそうに目を細める。
花子くんは小さくうなずく。
「いい判断だ」
ゆうながその隣に立つ。
その瞬間。
ふっと、身体が軽くなる。
(……楽だ……)
さっきまでの圧が、消えていく。
つかさがため息をつく。
「つまんないの」
でも、すぐに笑う。
「ま、いっか」
にうを見る。
「ね、やろっか」
にうは元気よくうなずく。
「うん!」
狐のお面が、夕闇の中で不気味に光る。
「いっぱい笑わせよう」
花子くんの目が細くなる。
「……やっぱり止めないとだめだね」
ゆうなを見る。
「君、巻き込まれるよ」
「覚悟はいい?」
ゆうなは少しだけ震えながらも、うなずく。
「……もう、巻き込まれてるし……」
苦笑のような顔。
花子くんは少しだけ笑う。
「確かにね」
そして、前を見る。
つかさとにう。
二人並んで立っている。
まるで鏡みたいに似た“危うさ”。
「じゃあ」
花子くんが言う。
「ここからは、七番としての仕事だ」
その瞬間。
屋上の空気が一変する。
結界の気配。
境界が重なる。
にうの目が楽しそうに細まる。
「いいよ、楽しそう」
「遊びじゃなくなるね」
つかさが笑う。
「それが楽しいんじゃん」
風が強く吹く。
夜が、完全に落ちる。
そして――
この学校の“九番目”と“八番目”、そして“七番目”がぶつかる。
その中心に――
ゆうながいる。
物語は、もう戻れないところまで進んでいた。