テラーノベル
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梅雨の晴れ間を見計らい、私は母と父と待ち合わせをした。花斗のランドセルを見に行くのだ。
今日は壱月はフライトだから、私と花斗だけだ。
デパートのある駅前に着くと、先に来ていた父母が私たちに手を振った。
「すっかり大きくなったわねぇ」
母に言われて、花斗は得意げに背筋を伸ばす。
「もうすぐ、小学生だもんなぁ」
父が感慨深そうに言って、花斗の頭を撫でた。
すると、花斗は繋いでいた私の手をきゅっと握る。まだ少し、〝じいじ〟の前では緊張するようだ。
それから、デパートの子ども服売り場の隅にある、特設会場へやってきた。
色とりどりのランドセルが、私たちを出迎える。
「うわぁ」
花斗はもじもじしながらも、目の前のそれらに目を輝かせた。
あの後もカタログをめくり、タブレットでよさそうなものを探した。
けれどなかなか決まらず、今日、こうして実物を見に来たのだ。
「花斗くんは、どれが好きかなあ」
母がそう言って、花斗の手を引く。男の子用のランドセルが並ぶ場所まで、花斗を先導してくれているのだ。
「みずいろとか、あおとか。パパのひこうきと、おなじいろがいい!」
その言葉に、私の笑顔は引きつった。
花斗は、飛行機のランドセルという選択肢を捨てきれていないらしい。
「そうね、青色はかっこいいものね」
相変わらず笑顔のまま、母が花斗の顔を覗く。
すると花斗は、目の前にある黒色のものと紺色のものをじっと見つめた。
「これ、かっこいい」
花斗が指を差した先にあったのは、NALJの旅客機のようなはっきりとした青ではなく、紺色のランドセルだ。
あれ、と私は首をかしげる。すると、花斗がこちらを振り向いた。
「ママ、これ、あおかな。むらさきじゃ、ない?」
花斗はもう一度ランドセルのほうを向き、うーんと悩み始める。
その姿を見て、はっとした。
花斗は〝飛行機のランドセル〟だからいいわけではなかったのかもしれないと、気づいたのだ。
〝飛行機の色〟というのは、色のたとえの話だったのかもしれない。
花斗自身が色を間違えないように、自分の思った色と周りの色との差異がないようにするための。
花斗は自分の色の見え方が、他と違うとわかっている。
私たちと同じ色味を共有しようとして、飛行機の色を提示しただけなのかもしれない。
花斗は私が思っているよりもずっと、彼なりに折り合いをつけられているのかもしれない。
花斗は花斗なりに、飛行機の形の鋲に釘付けになっていたあの日を、ちゃんと消化しているのだろう。
「これは濃い青色よ」
なにも言えないでいた私の代わりに、母がそう言う。
すると花斗は嬉しそうに、「これがいい!」とランドセルに手を伸ばす。
「飛行機の青よりも、暗い色だよ?」
そう言ったが、花斗は「わかってるよ!」と答え、そっとランドセルに触れる。
父は私の隣で、腕組みをしたまま笑みを浮かべていた。
店員さんに頼み、試着してみることにした。
花斗が、紺色のランドセルを背負う。
背負うというより、背負われているような大きさだ。
「どう? ぼく、かっこいい?」
肩ひもに手をかけ、首をひねって背中にあるランドセルを必死に見ようとしながら、花斗が言う。
「似合ってる……かな、まだ大きいかも」
私が言うと、花斗はぶうっと頬を膨らませた。
花斗はその後、自分がランドセルを背負っている姿を、鏡で何度も確認した。だがそれでも、花斗はずっと背負っていたいと言う。
しかし、ずっと背負っているわけにもいかない。これは見本だからと花斗に告げ、ランドセルを一度下ろしてもらう。
その時、持ったランドセルの軽さに驚いた。
「今のランドセルって、こんなに軽いの!?」
すると、店員さんがこちらに近づいてくる。
「こちらは最新の軽量設計で、今販売している中では一番軽いんですよ」
「へえ」
「今は教科書ノートに加えて、タブレット端末を持ち歩きますからね。軽いほうが良いというお客様が、圧倒的に多いです」
なるほど、と首を縦に振る。
「こちらの商品は裁縫もしっかりしていて、丈夫ですよ。このメーカーは6年保証もついていますし、当店でも一番のおすすめです!」
店員さんは太鼓判を押すように、このランドセルを勧めてくる。
「ママ、ぼく、これがいい!」
シンプルなデザインは申し分ないと思う。
それで、私は決めた。
もしも、花斗がこれがいいと言うのであれば。
「花斗、ランドセルは小学生の間はずっと使うの。六年間、大事に使える?」
しゃがみ込み、もう一度ランドセルを背負った花斗に問いかける。
「うん、だいじにする! ぜったいぜったい、だいじにする!」
その心意気と、真っ直ぐな瞳に「うん」と頷く。
「花斗のランドセル、これにしようと思う」
母と父にそう言うと、花斗は「やったー!」と懐かしの踊りを披露した。昔、唐揚げの時によくやっていたような。
会計は母がすると申し出てくれた。それはありがたかったのだが、会計が終わるまでの間中、花斗は謎の踊りをひたすら踊り続けていた。
それで私は、「恥ずかしいからもう終わりにして」と、花斗に苦笑をこぼすことになった。
コメント
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うわあ、ランドセル選びのエピソード、すごく温かかったです。花斗くんが「飛行機の色」っていう言葉を色の認識の共通言語として使ってたんだなって気づいたところで、じーんとしました。自分なりに折り合いをつけてるんだなあって。あと、ランドセル背負って踊る姿が目に浮かんで思わずほっこり。朝永さんの優しい視点が詰まった回でした。