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【注意】
※ 桃青要素を含みます。
※キャラ崩壊や口調等の違いがございます。自衛お願いします。
※ 当作品は二次創作なため、実際の個人団体と一切の関係はございません。
『ねえねえ、知ってる? 例の生徒会の噂』
『なにそれ、どんな噂なの?』
『実は……生徒会長と副会長が――』
——
「なぁなぁ、最近流行ってる噂知ってる?」
生徒会室で書類を整理していると、不意に猫宮いふが話しかけてきた。
「……噂?」
「そう、俺たちが付き合ってるってやつ」
手を止めて彼の顔を見た。黒縁眼鏡の奥の目が、面白がるように細められている。
「は?」
「いや、だから。俺たちが”そういう関係”らしいって話」
「は?」
大事なことなので二回聞いた。
「まじで知らなかったん?」
「知らんしそんなくだらん噂には興味ありません!」
「へえ〜」
いふはいかにも楽しそうに頬杖をつく。
「ま、とんだ迷惑やな」
「……そりゃねえ」
俺は呆れながらため息をついた。まったく、誰がそんな馬鹿げた話を広めたのか。
俺たちは確かにいつも一緒にいる。生徒会長と副会長という立場上、行動を共にすることが多いのは当然だ。しかし、それだけで恋愛関係に結びつけるのは、あまりに短絡的ではないか?
「でもさ、最近の生徒たちの反応、やばくない?」
別の声が割って入る。
「なぁなぁ、ないちゃん!実際のところどうなん?」
「……は?」
顔を上げると、いつの間にか生徒会メンバーが集まってきていた。
「だってさ、こないだ購買に一緒に行ってたとき、まろちゃんの分までパン買ってたやん?」
「いや、それは別に普通でしょ」
「あと、部活の助っ人に呼ばれたときも、めちゃくちゃ息ピッタリだったし」
「そもそもいつも二人でおるしなー」
「いや、生徒会の仕事だろ」
「まぁまぁ〜、正直に言ってくれてもいいんですよ?」
ニヤニヤしながら詰め寄ってくる生徒会メンバーに、俺は無言で書類を渡す。
「これ、今日中に片付けてね」
「えっ、うそ、めっちゃあるんだけど!? てか話逸らした!? ねぇ!」
「さっさとやれ」
メンバーが不満そうに書類を抱えて自席に戻るのを見届けて、ふっとため息をつく。
「やれやれ……」
「人気者はつらいね、ないこたん?」
「……は?」
「会長こわーい」
猫宮が肩をすくめる。そのとき突然
ガラッ
「お前ら、生徒会室にいたか!」
教室のドアが開き、担任の先生が顔を覗かせる。
「先生?」
「ちょっと急ぎの仕事がある。急で悪いが、職員室で資料の整理を手伝ってくれ」
「えぇ〜、マジっすか」
「ないこといふはこのまま残ってていいぞ。お前らには別件で頼みたいことがあるからな」
そう言って、先生は生徒会メンバーを連れて行ってしまった。
残されたのは、俺といふの二人だけ。
「ふぅ、やっと落ち着いた」
そう口にするも、“そういう関係”なんて噂話をした後だ。何となく空気が気まずくなり、二人とも口を閉ざす。
カサッ……
書類をめくる音だけが静かに響く。どうにも落ち着かず、俺は作業を進めようと机に向かう。
「さっきの話……どう思う?」
「だから迷惑だって」
何度もそう言ってるだろ、と付け足す。
「ふーん……」
いふは書類を手にしながら、どこか考え込むように視線を落とした。普段の冷静な表情とは違い、少し含みのある顔だ。
「けどさ、ないこって意外と否定しないよな?」
「は?」
「いや、普通こういう噂されたら、“絶対違う!”って全力で否定するやん?」
肘をつきながら、いふがニヤリと笑う。その表情が妙にイラつく。
「……いや、俺は何度も否定してるけど?」
「でも、なんかこう……本気で否定してる感じしないっていうか?」
「お前な……」
こいつ、確実に楽しんでやがる。
「………ないこはさ、もし俺が本気で”付き合ってみる?“って言ったら、どうする?」
いふが何気ない調子でそう言った瞬間、ないこの手が止まる。
「は?」
猫宮は、いたずらっぽく微笑んでいる。
「冗談で言ってる?」
「どう思う?」
「……」
俺は目をそらし、無言のまま書類整理に戻った。
いや、待て。
なんで急にそんなこと言い出すんだ?
どうするも何も、別に何とも思わないはずだろ。
……なのに、なんで俺はこんなに戸惑ってる?
意識するな。気にするな。そう思うのに、モヤモヤが消えない。
なんか、ムカつく。
普段は俺が翻弄する側なのに、気づけば押されてる。
しかも、こいつはまるで俺の反応を楽しんでいるみたいで──
それが、気に食わない。
ふと視線を戻すと、猫宮はいまだに余裕の笑みを浮かべてこちらを見ていた。
そんなに言うなら試してみるか?
「……本気でいいんだな?」
ぽつりと零した言葉に、猫宮が一瞬きょとんとする。
「え、ちょっ――」
次の瞬間、空気が変わった。
ガタッ!
いふが反応するより早く、ないこが彼の肩を掴み、勢いよく机へ押し倒す。
「っ……!?」
目の前には、驚いた表情のいふ。普段冷静な彼が、完全に虚を突かれた顔をしているのが、妙に愉快だった。
「お前さ……あんまり俺をからかってると、こういうことになるんだよ」
低く囁かれた声に、いふの喉がひくりと震える。
冗談──のつもりだった。でも、目の前のないこは本気のように見えた。
「ま、待っ……」
言葉が終わる前に、ふわりと唇に柔らかな感触が落ちる。
一瞬、いふの思考が止まった。
近すぎる距離。熱を帯びた息づかい。
触れた場所だけが、じんわりと熱を持っていく。
触れるだけの、軽いキス。
それだけなのに、いふの顔は一気に真っ赤になった。
「~~~~っ!!」
見たことのないほど動揺した表情を浮かべ、目を泳がせる。普段の冷静な姿はどこへやら、完全に固まってしまっている。
ないこは満足げに頷き、いふの頬を指でつつく。
ないこが口元を歪めて笑う。
「へえ、まろ、意外とこういうのに弱いんだ?」
「っ……!」
いふはさらに顔を赤くし、パクパクと口を開閉する。だが、言葉が出てこない。
「な、ないこっ、ふ、不意打ちはずるいやん……!」
「まろが言い出したんでしょ」
「そ、それは……そうやけど!」
言い返せないのが悔しかったのかいふはばっと手を伸ばし、ないこの肩を押し返そうとする──が、その瞬間、教室のドアが勢いよく開いた。
「おいないこー! 次の会議の──」
「……」
「……」
入ってきた生徒会メンバーが、固まった。
ないこに押し倒され、顔を真っ赤にしたいふ。
まるで時が止まったかのような沈黙。
「…………」
「…………」
「ええええええええええ!!!!????」
バサバサバサッ!!!!(資料をばら撒く音)
「な、な、な、何やってんだお前らあああああああああ!!!!」
「えっ、えっ!? まさかマジで!?」
生徒会メンバーの叫びが、生徒会室中に響き渡った。
「ち、違っ……! これは、その、ないこが……!!」
必死に弁解しようとするが、声が裏返ってしまい、逆に誤魔化しきれていない。
ないこを見ると、彼は 「ほぉ?」 とでも言いたげに余裕の笑みを浮かべていて――
「~~~~っ!!! ないこ、お前、後で覚えてろ!!」
真っ赤になりながら叫ぶのが精一杯だった。
そんなこんなで、「生徒会長と副会長、マジで付き合ってるらしい」という噂は瞬く間に全校へ広がっていくのだった──。