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夜中に、臭いで目が覚めた。

処理し損ねた尿瓶……。男しかいない城に女性用の便所などあるはずもなく……いや、一応あったのだが、今は男性用になっている。ともあれ性別バレを回避するため、騎士の目につかないところするしかない。

うっかり処理を忘れると部屋の中が臭うわけだ。ああ、もう……。一度、気になるともう駄目だ。虫が寄ってくると最悪だから、処分しよう。


部屋の外に出るのであれば、胸にさらしを巻いて、髪も束ねておく。見回りや、深夜に用を足しに出た騎士とばったり出くわす可能性がある限り、面倒でも格好は整えておかなくてはならない。

性別バレを避けるために、部屋でしているのに、処分しに出てバレては本末転倒なのだ。


欠伸が出る。尿瓶片手に、便所へ行くなんて格好がつかない。誰もいないとさっさと済むのだけれど。

部屋の外に出る。今日は満月かしら。夜なのに明るい。石壁に月の光が反射してよく見える。これなら照明はいらないわね。

通路を進み、何の気もなしに、レクレス王子の部屋のある通路へと目をやる。夜間担当のハルスが立っていて――


「?」


立っていない。倒れてる……?


「え?」


直属の警備兵が倒れているなんて、冗談じゃなかった。私は慌てて、レクレス王子の部屋の前に走ったのだった。






「おや、起きてしまったかい? 王子様」

「なっ!?」


重みを感じて目を開けた時、そこに半裸の女がいた。

途端にオレの心臓が貫かれたような痛みを発した。全身に鳥肌が走り、息が苦しくなる。


「魔の森からお迎えだよ、レクレス王子様?」

「だ……誰――」


声がうまく出ない。女がいる。そいつの手がオレの胸に触れた。

どうしてここに女がいる? 何故、ベッドの上のオレにのし掛かっている? 警備のハルスはどうした!?


「哀れなモンだねぇ、王子様」


ねっとりとした女の声。赤い髪の女だ。しかしその目は魔物の如く黄色く光っていて、あからさまに人外だ。

ぬるっとしたものが過る。それは蛇のような、しかし太く、巨大だ。


「まさ――か――」


体の震えが止まらない。目の前の醜悪な化け物ではなく、女が苦手な体質のほうが拒否反応を示しているのだ。


「ワタシはお前に呪いを掛けにきたのさ」


上半身は女、下半身が巨大な蛇――その魔物はラミアだ。その蛇の下半身がオレの動かない体を捕らえる。

くそっ、体が動かない。目眩がする。苦しい。


「抵抗できないとは情けないねぇ。まあ、いいさ。さっさと呪いを刻んで――」


ラミアの上半身がオレの上半身に触れる。ぞわっとした寒気が駆け抜ける。これは駄目だ。ラミアが抱きつくように密着し、その手で首筋、そして背中へと伸びる。


「……ここらあたりかね」


やめ――


その瞬間、バンっと扉が開いた。ラミアが振り返る。


「なっ!?」


何かが飛んできて、ラミアが慌てた。冷たい水のようなものが飛んできたような――目がかすんでよく見えない。


「殿下!?」


……ああ、この声、アンジェロか……。






部屋で物音がしたから踏み込んだら、ベッドの上でレクレス王子が蛇の化け物に体を巻きつけられていた。

私はとっさに手にした尿瓶を投げていた。尿瓶は化け物に当たり、中の液体をぶちまけた。


「ギャッ!」


蛇の魔物かと思ったら、女の上半身がついていた。月明かりの反射で詳細なディテールは見えないが、その形は知名度がそこそこあるラミアに違いない。

そのラミアが怯んでいるうちに、壁に掛けられている槍を取る。


「殿下から離れろ!」

「ぐっ……!」


ラミアはあっさりと王子を解放した。窓へと逃走したのだ。くっ、こっちが王子の身を最優先することがわかって。

窓をするりと抜けて消えるラミア。ここ三階なんだけど!


「殿下! ご無事ですか!?」

「……っ」


体が震えていた。きっと女が苦手な体質のせいだ。ラミアは魔物だが上半身は、美人のそれ。しかも肌面積が広かったから直截肌が触れたのだろう。


「殿下!」


治癒魔法が役に立つかはわからないけど、気休めにでもなれば。

レクレス王子の呼吸が荒い。前へ傾く彼が倒れないように、とっさに抱きとめる。ガタガタと震えているのが、直接伝わる。


「殿下……大丈夫です。もう大丈夫ですからね」


寒いかしら? 私はレクレス王子の背中をさすってあげる。自身の体を抱きしめるようにしている王子の呼吸が少しずつ緩やかになっていく。


「アンジェロ……」

「はい。ここにいます」


まるで凍えている人を暖めている気分になる。


「……すまない」

「いいんです。ご無事でよかった」

「無事なものか……」


自嘲するようにレクレス王子は言った。


「……ところで、さっきあの化け物に何をかけた……?」

「あれは……」


言いかけ、私は途端に羞恥をおぼえた。ラミアめがけて投げた尿瓶。その中身など、言わずもがな。それ以外のものが入っているわけがない。ラミアを狙ったが、密着していたから、少し……ほんの少し王子にかかってしまったかも。


「あれは……あれは、聖水です! 魔物除けです!」


恐れ多くも王族に嘘をつきました。

婚約者の王子は女嫌い? 真相を確かめるため私は男装した。男装令嬢と呪われ王子

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