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私の名前はジャッキー=ニシムラ(♂)、アメリカ合衆国異星人対策室に属する職員の一人だ。名前から分かる通り、日系三世だ。日本へ行ったことはないけどね。
幼い頃からなんでも出来て神童なんて言われたが、私からすれば世界は空虚なものだった。全ての物事に理屈が付きまとい、様々なことが数式で表現できる世界。お零れを狙う自称友人連中。更に皆が身勝手な願望を私に押し付けてきて、自由すらなかった。ゆくゆくは大統領何て言われながらの学生生活だったが、そんな私を虜にしたのが宇宙だ。
地球の常識が全く通じない途方もないスケールの世界、未知の塊に私が夢中になるのは当然と言えた。当然周りは猛反対した。特に両親はね。
だが、私はそれらの声を完全に無視して天文学に夢中となり最後は家を飛び出して統合宇宙開発局へと入局。そこで私は素晴らしい人物に出会えた。
彼の名前はジョン=ケラー。
中年の彼は、私から見ても飛び抜けた善性の持ち主だ。彼は自己評価が非常に低く無能と称しているが、とんでもない。私など霞む程の才人だ。なのに所謂窓際族の立場に居るのは、その性格ゆえだ。
若い者の面倒を見るのが好きで部下の失敗は全て庇い、また自分の功績も部下に譲るのだ。“自分のような中年より若い君達の未来のほうが大切だ”と言ってね。普通ならば何らかの裏を怪しむものだが、彼に関しては完全な善意で打算は一切無い。となれば、当然慕われる。
私もケラー室長には何度も助けられてお世話になった。人に助けて貰うと言うのは良いものだ。気が付けばすっかり心酔していた。悔いはない。
だが当然と言うべきか、彼の善意を利用して踏み台のように扱う人間も居る。残念ながらそれが現実だ。連中は感謝するどころか、譲られた功績で出世してミスを全て室長へ押し付けた。
巧妙にやる奴も居るし、露骨にやるバカも居たな。共通点は恩知らずの恥知らずってところか。
もちろん室長には何度か忠言したんだが、彼は笑顔で許した。彼をバカと言う人間も居るし、私としても些かお人好しが過ぎるとは思うが……彼に救われたのも事実だし、その人柄に惹かれているのもまた事実。ならば彼の代わりに私が、いや私たちが裁こうではないか。
私を含めケラー室長に心酔する者達はあの手この手で恥知らず共に報復した。もちろん危害は加えていない。隠していた不祥事の類いがちょっと露見する程度だ。例外無く失脚して統合宇宙開発局を去っていったよ。
そんな日々の中、ケラー室長に光明が現れた。異星人ティナ嬢の来訪である。あの日の出来事はまさに地球史に残る衝撃だったな。ケラー室長は歴史に名を刻み、新設された異星人対策室の室長に抜擢された。
人員の策定に際し、私も人事部に強く配属を希望した。ゆくゆくは統合宇宙開発局の上級幹部と期待されていたらしく随分と粘られたが、伝手を使って強引に認めさせた。上層部にも室長の世話になった人物は居るのだ。
斯くして私は遂に念願叶いジョン=ケラー直属の部下となれたのである。多忙を極めて室長には数多の困難が降りかかるが、それでも笑顔が絶えない職場だ。当然だな、構成員は皆彼を慕うものばかりなのだから。
私はようやく居場所を見付けたのだ。
「ちょっと良いか?」
おっと、ポリスメンだ。
「なにかな?お巡りさん」
「いや、不審者が居るとの通報を受けてな。話を聞かせて貰おうか」
「誤解があるようだ。私は不審者ではないよ」
「ゴスロリ着たレスラーみたいな男が公園のど真ん中で仁王立ちしてれば、誰でも通報するだろうが!」
「待ってくれ、お巡りさん。私に邪な考えはない!この曇り無い眼を見てくれ!」
「瞳孔全開じゃねぇか!怖ぇよ!ほらっ!こっちに来い!」
むう、拉致されてしまった。
翌日の昼前、お巡りさんとの熱い語り合いで誤解は無事に解けた。彼はノンケだったが、美味だったよ。何がとは言わないが。
やれやれと異星人対策室の本部へ出勤した私は、手早く仕事着に着替えて職場に復帰した。ティナ嬢が来訪中だからな、正午が近い職場は混迷を極めていた。誰もが慌ただしく走り回り書類と怒号が飛び交う素敵な空間だ。
無理もない。我々に与えられた権限は非常に大きいが、同時に人員が致命的に足りん。私も泊まり込むとしようか。
職員用の宿直室も完備されているし、内装も豪華だ。部下にしっかりと休んでほしいと言う室長の希望だ。いやはや、何処までも好い人だ。
ふと中庭へ視線を向けると、ミスター朝霧と学者さん達が居るな。
「ふぅぅぅぅぅっっ!!!はぁあああああああーーーーッッッ!!!!!」
「フォオオオオオオーーーッッ!!!」
ミスター朝霧が目からビームを出して学者先生達が発狂しているな。うん、今日も平和だ。
「ジャッキー!」
おっと、室長が御呼びだ。焦りがあるな。
「何かありましたか?室長」
「出勤早々申し訳ないが、車を回してくれ。今朝から発生している郊外の事件を知っているかな?」
「スーパーマーケットですな」
なにもこんな時期に強盗などしなくても良いだろうに。いや、警戒が手薄な郊外だから狙い目だと考えたのか?
「その事件にティナが介入したんだ。フェルが飛び出していったし、直ぐに我々も後を追わねばならん」
おや、ティナ嬢らしいエピソードがまた増えたな。AIのアリアだったかな?彼女の気持ちは少しだけ分かるぞ。とは言え、事は一刻を争うな。
「ならば室長は直ぐに向かってください。車を回すより早いはずだ。ティナ嬢に万が一があれば、フェル嬢が何をするか分かりませんぞ。私は皆を纏めて出来るだけ早く向かいます」
フェル嬢からは私と同じ匂いを感じた。ティナ嬢に万が一があれば手段は選ばんだろう。
「わかった、済まんが任せるよ!」
「お任せを。現地で落ち合いましょう」
飛び出していく室長を見送り、直ぐに準備を始める。医療機関に連絡して、警察にも連絡を。メディア辺りの対処は政府に任せよう。
ティナの善性は室長と同じで非常に好ましいが、周りは大変だ。まあ、悪いことではないがね。
ジャッキー=ニシムラ(クラシックメイド服装備)は新たな事態に対処すべく装着している猫耳カチューシャを絞め直すのだった。