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人通りの少ない道を一人で歩いている。未兎ちゃんの言葉を思い出しながら、一般人か〜などと思う。そうは言っても一般人って…。なんか実感わかねぇんだよなぁ〜。って、もう22:00か、早く帰らんと明日朝起きれん。急ごう。
朝5:09日差しが俺の目覚めを邪魔している。適当に朝食を口に運び…いや、腹に入れ、さっさとスーツを着て家の扉を出る。鍵を閉めてから前髪のチェックを忘れたことに気がついた。まあ、髪の毛に気を遣う必要などないがな。
「梣崎君、この子君の担当の子ね」
「あ、よろしくお願いします」
…ぽっちゃり目、憎めない系の男性だ。眼鏡はしてないしガリガリでもない。予想外れとさらに、期待外れも重なって真面目に教える気起きねぇ〜。ま、とりあえず教えるけど、基礎は。
お昼だ。まあこの機会だし、読者にさっき入社した男の詳細をざっくり説明しよう。
名前「吉野 幻斗」21歳。見た目はぽっちゃりのちょい坊主。友達多そう性格、悪くはない。物分り悪いのが目立つ。好きな事は野球観戦らしく、中学と高校では草野球チームに所属していたとか何とか。確か名前は……【熱盛!!鴨ミール】なんか草野球チームって名前特殊だよな。
お昼を終え、自分のデスクに戻る途中部長に声を掛けられた。
「あの、吉野君いるでしょ。」
「はい。」
「ちょっと手違いで部署を間違えたっぽくて」
「え、じゃあ後輩は…」
まさか…仕事減るんじゃね。うっしゃ、これでちょっとは楽に_
「あぁ、後輩は間違えたもう一個の部署の後輩 と入れ替え制になるから。」
「え。」
「梣崎君は、その子の先輩。」
「あ…わっ…かりました……。」
仕事は減らんか。残念。まためんどくなりそう
「乗り気じゃないみたいだね?」
「い、いえ…」
「その子、女性なんだけど…?」
部長は俺の背後でそっと声を漏らした。俺には部長のその声が背中を押すように感じた。高校入学前の背中を押すそよ風のように。気分が上がりきった俺はデスクに戻り、思った。「女性」と、言ったな。つまり、決して可愛いという訳でもないし、若いかどうかも分からん。これは騙された。俺はまたもやる気が落ちてしまった。
「あ、梣崎っ…梣崎さん、ですか?」
「ん?あ〜新入の……」
そこに居たのは、桃色髪の小柄な女の子。しかも、女神みたいに可愛い。そう、そこに居たのは唯一の場所の未兎ちゃんだった。
「え!?未兎ちゃん…?」
「あぁー!!あんまり大きな声出さないで!」
「す、すみません…。」
「梣崎君がいるなんて思わなかったよ…」
「僕もです。就職するってこの会社の事だった んですね…」
「うん。ここだった」
「おい藤咲!敬語は?」
上司がキレてきた。今覚えばいつもの感覚で話してたから忘れてた。
「お前もだ梣崎!注意しろ。」
「あー!!すみません!気をつけます!」
「忘れてましたね…」
「そうだねっ……」
「そうですね…!」
「ほら!梣崎”先輩”も!タメ語で話しくださ い!」
「…えっと、じゃあ未兎ちゃん。パソコンの使 い方から説明するね…?」
「…ふっ『するね』ってなんですかそれ〜」
「 あと、私未兎じゃないですよ!」
「あ、そっか名前は?」
「…初めまして私、藤咲 菜晴って言います!よろしくお願いします!」
「藤咲さんね、よろしく。俺は梣崎 春恵」
「はぁい、梣崎さんよろしくお願いします」
といった会話を交わし、仕事内容をざっくり話した。
お昼休憩の時間になった。俺は適当にコンビニの弁当でも食べて過ごそうと思う。作業中の仕事を中断してから、そそくさとオフィスを出てコンビニに買いに行こうとした。その時、袖をクイっと引っ張られる感覚がした。
「ちょっと待ってください!」
未兎ちゃん……いや、藤咲さんに呼び止められた。
「ん?なにか用事?」
「いや…お昼、一緒にどうですか?」
少し下を向いて、声を細めながら俺に訊いてきた。
「い、良いけど…」
「え!ありがとうございます!!」
藤咲さんは美人が故に成り立つ究極の笑顔を、こんな男だらけの会社に齎らしてくれた。これぞ一輪の花というやつか。
昼食は適当にコンビニ弁当でやり過ごすつもりだったが、藤咲さんがいるんだしそれじゃダメか…。
「何食べるんです?」
「えっと…何食べたい?」
「え、私が決めちゃっていいんですか?」
「べ、別にいいけど…」
「じゃあ…」
未兎ちゃんが選んだのは
「真島の食卓」
という名の家系ラーメン屋。これぞギャップ萌えかもしれん。
「ずっと来たかったんですけど、 1人じゃ怖くて…」
「そ、まあそんな身構えることないよ」
店の扉を開けた。すると厨房に立つのは店主。その店主はただの店主じゃない…。
ま、俺の幼馴染ってだけなんだけど、
「おー!春恵じゃん、久しぶり」
「和泉 旬」このラーメン屋で働いてる、俺の幼稚園からの友達。最近は仕事だのなんだので会う時間なんてなかったけど、この店に来れば大体会えるし、懐かしい気などしないが、嬉しくないわけじゃない。いや嬉しい。
「久しぶり。豚骨の柔らかめ、濃いめ、多め頼む」
「へいって……」
「そっちの子は?何する?」
あ、完全に藤咲さんのことを忘れてしまっていた。いつもの癖でいってたから忘れてた。
「え、えっと……」
何が起きてるのか?って感じの表情と焦り具合が初々しくて可愛い…。
「麺の硬さ、スープの濃さ、油の多さの順で
頼むんだよ」
藤咲さんは、目を光らせペコペコと頷きながら口を開いた。
「じゃ…豚骨の、硬め濃いめ多めで!」
「へ、へい!」
藤咲さんは自信満々にふふんっといった表情で俺を見てきた。何が伝えたいのだろう。多分、家系ラーメンと聞いたら、この語呂がいい頼み方を連想して、これを頼めばカッコイイだろ?みたいな感じかな…。スープ濃いめで油多めはまだしも、麺が硬いのは俺も苦手なんだよな…
数分後、注文したやつがカウンターに置かれた。
「け、結構多いですね…」
藤咲さんは麺を啜る。が、弾力のある麺のせいで食べる速度は尋常じゃなく遅い。思ったより硬かったんだろう。後、スープも濃いし油も多いときたら、半分くらいで満腹になってしまうだろう。ましてや、小柄な女性となれば尚更。ちょっと苦しそうになってきた藤咲さんを前に
和泉はある言葉を添えた。
「…お残しは許しませんよー」
…旬、お前流石にサイコパス過ぎるぞ。これは可哀想。藤咲さんはその言葉にビクッとなり、さっきよりも更に汗をかき始めた。
「藤咲さん、大丈夫?」
一応訊いてみた。多分大丈夫じゃないけどな。
「…だ、大丈夫です!」
加えて途中の硬麺を噛みちぎって、こっちに顔を向け、必死な表情のまま大丈夫と答える藤咲さんは何やら、心の奥がくすぐられるように、いつもとは違う可愛さがそこにはあった。これを何と例えるべきか…。もう一度あの顔を拝みたい。目の前のものに必死に食らいつく表情を
数分後経ってやっと3分の1食べ終わったみたいだ。でも、藤咲さんの胃袋はもう満たされていた。客が少なくなり暇になった合間を見計らって旬と駄べったり、餃子も追加で頼んだりしていたが、藤咲さんにとってこの注文はやっぱハードすぎたんだろう。少しずつ食べていた藤咲さんの手が止まった。水を1口…。箸は持ったまま止まっている。1回加えたけど、
無理だと思ってスープに戻した。
「藤咲さん……残り食べましょうか?」
そう訊いた途端、藤咲さんはこちらをおもむろに向き、目が潤んだままアイコンタクトでお願いしますって言ってる。しょうがない…。
硬めの麺はどんなものかな、っ…やっぱ俺は、柔らかめの麺が好きだな。そう実感した。
ってか、あれ…?この麺、さっき藤咲さん加えてなかったけ。