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#ラブコメ
奏多
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車は道で優しく揺れていた。
灰色の舗装路が前方へ逃げ去り、地平線で空と溶け合っていた。窓の外を、畑が、まばらな木々が、赤い瓦屋根の一軒家が流れていった。ゲンゾは後部座席に座り、額をガラスに押しつけていた。隣の席には古いアルミニウムの松葉杖が立っていた。すり減ったゴムの先端が、彼がまだ完全に回復していないことを思い出させた。しかし、それはどうでもよかった。大事なのは、彼が家に帰る途中だということだった。戻る途中だ。
母は落ち着いて、集中して車を運転していた。ラジオもつけず、余計な言葉も発さなかった。ただ道を見つめ、時折バックミラーに素早い視線を投げて、ゲンゾがまだそこにいることを確かめていた。生きて。無事で。自分と一緒に。
「足はどう?」と母は振り返らずに尋ねた。
「うずくよ」とゲンゾは答えた。「でも我慢できる。」
「医者は一ヶ月でギプスを外せると言っていたわ。」
「覚えてる。」
「普通に歩けるようになる。約束する。」
ゲンゾは何も答えなかった。ただ窓の外を見つめていた。ガラスの向こうを畑、木々、赤い屋根の小さな村々が過ぎ去っていった。どこか遠くに、もう街が始まっていた。そして街の向こうに空港が。そして空港の向こうに、日本が。家が。
母はウインカーを出した。車は空港へ向かう高速道路へ滑らかに曲がった。道は広くなり、車も増えた。ゲンゾはガソリンスタンド、モーテル、広告看板を横目に通り過ぎるのを見ていた。
「何か考えてるの?」と母が尋ねた。
「いろんなことを」とゲンゾは答えた。
「例えば?」
「人生がどれだけ不思議にできているかということ。君は一つの道を歩いていると思っているのに、それがただの迂回路だったとわかる。そして本当の道は今ようやく始まるんだ。」
母は微笑んだ。
「賢いわね。」
「違うよ」とゲンゾは首を振った。「ただ、何かを理解しているふりをするのに疲れただけだ。」
「じゃあ、何を理解したの?」
ゲンゾは考え込んだ。外を、柱が、木々の梢を揺らす風が、同じ方向に流れる雲が流れていくのを見つめながら。
「僕たちは自分の痛みを選べないってことだ」と彼はようやく言った。「選べるのは、それとどう生きるかだけだ。重い荷物のように自分の中に抱え込むこともできる。捨てようとすることもできる。ただ…それが存在することを認めて、それと戦うのをやめることもできる。」
「それは賢明ね」と母は言った。
「それは愚かさだよ」とゲンゾは苦笑した。「賢明さとは、答えを知っていることだ。僕には質問しかない。」
「質問も大事よ。」
「かもしれない。」
二人は黙った。窓の外で小雨が降り始めた。小さく、まばらで、ほとんど気づかない雨だった。雫がガラスに落ち、重い粒になってゆっくりと下へ流れ、濁った筋を残していった。
「一つ、あなたに言いたいことがあるの」と母が言った。
「何?」
「あなたは強くある必要はないの。みんなが期待するような人でいる必要もない。ただあなたであるだけで十分よ。」
ゲンゾは母を見た。疲れているが優しい顔を。世界で唯一の支えであるかのようにハンドルを握る手を。
「わかってる」と彼は言った。「ただ、いつもそれができてるわけじゃない。」
「できるようになるわ。」
「そう思う?」
「知ってる。」
ゲンゾは微笑んだ。大きくはない、口の端だけの微笑みだった。でも微笑んだ。
彼は電話を取り出した。画面が点灯した。数件の不在着信とメッセージがあった。彼はレンジとのチャットを開いた。
レンジ:「もう出発した?」
レンジ:「いつ着く?」
レンジ:「待ってる。我慢できない。本当に。どれだけ待ってるか想像もつかないよ。みかん買った。たくさん。箱いっぱい。アヤは多すぎるって言ったけど、聞かなかった。君、みかん好きだろ。覚えてる。」
ゲンゾは微笑んだ。指が画面を走った。
ゲンゾ:「向かってる。もうすぐ着く。みかんはいいけど、十キロ以上はダメだよ。破裂する。」
レンジ:「君はいつも痩せてるんだから、二十キロがちょうどいい。」
ゲンゾ:「お前、頭おかしいな。」
レンジ:「かもしれない。でも幸せだ。」
ゲンゾ:「もうすぐ会おう。本当に。今度こそ消えない。」
レンジ:「待ってるよ。ずっと。」
ゲンゾは電話をポケットに戻した。松葉杖に手を這わせた。冷たい金属、すり減ったゴム。それらはもう彼の一部になっていた。過去の一部に。しかしもうすぐ、それらはただの思い出になるだろう。
車は空港の駐車場に入った。ゲンゾは松葉杖を取り、支えにしてゆっくりと降りた。足はまだ痛かったが、歩けた。動けた。生きられた。
母が彼の腕を取った。
「大丈夫?」
「普通。」
「痛かったら言いなさい。」
「わかってる。」
二人は空港の入り口へ向かった。風が顔に吹きつけ、温かく柔らかく、ガソリンと自由の匂いがした。ゲンゾは空を見上げた。青く澄んで、無限だった。約束のように。
二人はチェックインをし、荷物を預け、セキュリティを通過した。ゲンゾは松葉杖に寄りかかりながら歩き、一歩ごとに内側で何かが解けていくのを感じた。まるで古い皮膚を脱いでいくように。
待合室は賑やかだった。人々、子供たち、アナウンス。ゲンゾは窓際の席に座り、松葉杖を横に置いた。母が隣に座り、彼の手を取った。
「緊張してる?」と母が聞いた。
「少し」とゲンゾは認めた。「変だな。家に帰るのに、まるで未知のところへ行くような気分だ。」
「それは普通よ。家とは場所じゃない。人よ。あなたはあなたを待っている人たちのところへ行くの。」
ゲンゾは母を見た。
「母さんも僕を待ってた?」
「いつもよ」と彼女は言った。「あなたが遠くにいても。連絡をくれなくても。生きているのかわからない時でさえ。私はいつも待っていた。」
ゲンゾは言葉が見つからなかった。ただ母の手を握り返した。
飛行機は一時間後に離陸した。ゲンゾは窓際の席に座り、大地が下へ遠ざかり、家々が小さくなり、川が銀色の糸になるのを見ていた。彼は人生で何度も飛び上がり、落ちてきたことを考えた。そして今、再び飛び上がっている。でも今回は落ちるためではなく、待ってくれている場所に着地するためだと。
彼は目を閉じた。そして微笑んだ。
東京に着陸した時、太陽はすでに沈みかけていた。ゲンゾは松葉杖に支えられて飛行機を降り、深く息を吸った。空気は違っていた。湿っていて温かく、海と街の匂いがした。
「私たち、家に着いたわ」と母が言った。
「家に着いた」とゲンゾは繰り返した。
二人はアパートまでタクシーに乗った。道中、ゲンゾは見慣れた通り、家々、木々を見ていた。すべてが変わっていた。そして何も変わっていなかった。街は同じだった。でも彼は違っていた。
アパートに着き、母がドアを開け、ゲンゾが入った。すべてが以前のままだった。古いソファ、埃っぽい本、彼女の香水の匂い。彼はソファに座り、松葉杖を横に置いた。
「疲れた?」と母が聞いた。
「少し。」
「休んでて。夕食作るわ。」
ゲンゾは頷いた。彼女がキッチンへ行き、明かりがつき、食器の音が聞こえるのを見つめていた。そして奇妙な落ち着きを感じた。
彼はソファに横になり、目を閉じた。考えは自然と過去へ流れていった。
二年前。
太陽が明るく輝いていたが、暑くはなかった。
空気は山の渓流の水のように透明で、花の匂いがした。学校の庭のどこかでライラックの茂みが咲いていた。風は軽く、ほとんど感じられず、誰かの冷たい掌のように顔に触れた。
ゲンゾは道を歩いていた。
それは学生時代だった。
あの頃、彼はまだ本当の痛みを知らなかった。折れた骨や折れた鼻がどんなものかも知らなかった。ただ道を歩き、空から注ぐ光を見て、今日はいい日だと思った。ただいい日だ。理由もなく。
彼は急いでいなかった。歩調は均等で、呼吸は落ち着いていた。真剣なことは何も考えず、ただ歩きながら、太陽の光の斑点が舗装路を跳ねるのを見ていた。
通りの終わりに人影が見えた。
少女だった。
彼女はこちらへ向かって歩いてきて、足取りは彼と同じように均等だった。彼女は周りを見ていなかった。真っ直ぐ前を見つめていて、目には喜びも悲しみもなく、ただ虚無があった。茶色の髪が肩に落ちていた。ゲンゾは彼女を知っていた。カオル。一度も話したことはなかった。ただ同じクラスだと知っているだけだった。
二人は並んだ。
そして偶然、肩がぶつかった。
痛くはなかった。強くもなかった。ただ、二人が互いを見ず、自分の考えを見つめていた時に起こる軽い接触だった。ゲンゾの本が揺れたが落ちなかった。
その後、カオルは一歩前へ出て、彼に寄りかかった。
それは奇妙だった。予想外だった。ほとんど気まずかった。ゲンゾは凍りつき、どうしていいかわからなかった。彼女の体が震えているのを感じた。彼女が息を荒く、不規則にしているのを感じた。それともそれは息ではなかったのか?ただの反射か?
彼にはわからなかった。
彼は動かず立っていた。押し返さず。ただ立っていた。
数秒が過ぎた。もしかすると一分。彼女は離れた。
「私を怖がらないの?」と彼女は聞いた。
声はくぐもっていて、ほとんど無音だった。
ゲンゾは彼女を見た。
「いや」と彼は言った。
「どうして?」
「君が誰かなんて、どうでもいいから。」
カオルは苦笑した。楽しくはなく。悪くもなく。ただ苦笑した。
「変な奴」と彼女は言った。
「知ってる。」
彼女は向きを変えて歩き去った。ゲンゾは彼女の後ろ姿を見送った。彼女は振り返らなかった。そして彼には、それが何だったのかわからなかった。
彼は歩き続けた。
二日後、彼女の方から彼を見つけた。
放課後だった。ゲンゾは校庭のベンチに座り、空を見上げ、鳥の声を聞いていた。突然、隣に誰かが座った。彼が顔を向けると、カオルだった。彼女は座って前を見つめ、顔はいつもと同じように虚ろだった。
「聞いてこなかったわね」と彼女は言った。
「何を?」
「どうしてあなたに寄りかかったのか。」
「話したくなかったんだろ。」
「今は話したい。」
ゲンゾは彼女に向き直った。
「じゃあ話せよ。」
彼女は長く黙っていた。木々を、空を、雲を見つめていた。そして話し始めた。声は落ち着いていて、ほとんど無関心だった。
「私の父は私が五歳の時に死んだ。ほとんど覚えていない。ただタバコの匂いと笑い声だけ。母は死んだ。レイプされて、死体を辱められて、溝に捨てられた。」
ゲンゾは黙って聞いていた。
「その後、私は殴られた。苦しめられた。犯された。動物にすらしないことを毎日された。私は息ができなかった。泣けなかった。考えることすらできなかった。ただ終わってほしいと思った。私はあまりにも早く人間性を失った。」
彼女は黙った。草の上に手を這わせた。
ゲンゾは彼女を見ていた。膝の上に無力に置かれた手を見ていた。何も表現しない顔を見ていた。
「それは君のせいじゃない」と彼は言った。
「わかってる。」
「君はそんなことを経験するべきじゃなかった。」
「……」
「君は違う人間になれる。」
彼女は彼に向き直った。初めて目に何か生きているものが現れた。痛みか。怒りか。それとも何か他か。
「どうやって?」と彼女は聞いた。「どうやって違う人間になればいいの?自分がどんな人間かわからないのに?覚えているのが痛みと虚無だけなのに?」
ゲンゾは答えられなかった。
「私は人をいじめていた」と彼女は突然言った。「抵抗できない人たちを。私は彼らを傷つけた。もう痛みを感じないから、後悔できないから。私は自分を超えた。」
「なんでそんなことを僕に話すんだ?」
「あなたが私を、変われるみたいに見つめるから。私は変われないのに。」
ゲンゾは長く黙っていた。そして言った。
「変われるよ。ただ、すぐには無理だけど。」
彼女は苦笑した。楽しくはなく。
「あなたはあまりにも純粋すぎるわ、ゲンゾ。それはいつかあなたを殺す。」
「かもしれない」と彼は言った。「でも今日は違う。」
彼女は彼を長く見た。そして彼女の目に何か閃いた。彼には理解できない何か。本当の残酷さか?それとも何か?
彼女は立ち上がった。数歩歩いた。そして振り返らずに止まった。
「善い者、悪い者、良い者、悪い者、そんなものはもうずっと前に、本当に起こっていることの向こう側に置き去りにされた。善でも悪でも、内なる底なしの魂を打ち負かすことは決してない。神の希望や、それより高い何かを超えた者の。神の道徳的原則などではない。すべてにおいて神を超える者になれる。」
そして彼女は去った。
ゲンゾはベンチに残り、空が暗くなり始めたのを見ながら、世界がどれだけ不思議にできているか考えた。人々がどれだけ奇妙なものを抱えていられるか。そして時々、ただそばにいるだけでいい。ただ聞くだけでいい。何も言わなくていい。
彼はまだ長く座って空を見つめていた。
そして立ち上がり、家へ歩き出した。
ゲンゾは目を開けた。
彼は東京のアパートのソファに横たわっていた。窓の外はすでに暗くなっていた。母がキッチンで食器を鳴らしていた。遠くに街の音が聞こえた。
彼はあくびをした。
思い出は温かかった。奇妙だった。でも温かかった。
カオルがどうなったかは知らなかった。二人はもう二度と交わらなかった。でも彼は彼女の視線を覚えていた。そして彼女が言った言葉を。「変な奴」。「純粋すぎる」。
もしかすると彼女は正しかったのかもしれない。
しかしゲンゾは一つだけ知っていた。どんな暗い虚無の中でも、光は決して見つからない。ただ誰かの目が、君の人生を無関心に見つめているだけだ。
彼は立ち上がった。松葉杖を取った。母が食卓を整えているキッチンへ向かった。
「何か夢でも見たの?」と母は彼を見て聞いた。
「いや」とゲンゾは言った。「ちょっと昔のことを思い出した。」
「いいこと?」
「わからない。でも大事なこと。」
彼はテーブルに座り、箸を取った。
コメント
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えっと、もう、まず言いたいのは…この第57話、読み終わってしばらく動けなかったよ…😭💦 ゲンゾが家に帰る道すがら、母との会話とか、松葉杖の重みとか、一つ一つの描写が胸に刺さるの。特に「痛みを選べないけど、どう生きるかは選べる」って台詞、すごく響いた。そしてラストの回想で出てくるカオル…彼女の過去が重すぎて、でもゲンゾがただ「そばにいる」っていうスタンスなのが切なくて温かかった。 最後の「誰かの目が君の人生を無関心に見つめているだけ」ってフレーズ、何度も反芻しちゃう。この静かで深い余韻、癖になる…!次の話も楽しみにしてるね、エージェント67さん✨