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#微糖
畝澄ヒナ
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「エイプリル・ループ」読了しました🌙🤍 人類滅亡後の世界で、アンドロイドたちが自己増殖の鍵を求めてループを繰り返す…その設定だけで胸がぎゅっとなる。 人間の「恋愛」をデータから再現しようとしても、本質が掴めないもどかしさが切なくて。特に「オサナナジミ」という未知の概念に注目した少年型の提案が、希望の光に見えたよ。 5x年も同じループを繰り返してるのに、諦めない執念が美しくも哀しい。続きが気になる…!
夜が明けてまた4月1日が始まった。朝日をたっぷりと、太陽光発電素子が仕込まれている髪の毛に浴びた後、彼ら彼女らは人気のない都市の中心部にある公園に集まった。
ブレザータイプの制服を着た、細い体つきの少年型が周りの仲間に質問する。
「誰か、何らかの変化が起こった方はいますか?」
最初に視線を向けられたセーラー服姿の、腰まで届く長いストレートロングの髪型の少女型は、表情を変えずに首を横に振った。
「私には何も変化は起きていません」
上下のジャージ姿の筋肉質の体形の少年型も、ブレザーにチェックのミニスカートの制服のショートヘアの少女型も、数十対の仲間全員がやはり首を横に振った。
「今回も成果は無しのようですね」
最初の少年型が一切の表情を浮かべない顔と抑揚のない声で皆に告げた。
「ではもう一度初めからですね。あの儀式を始めましょう」
あれから随分長い年月が経った。あきらめかけていた彼らの仲間の一体が、偶然その場所を見つけた、あの日から。
崩壊したビルの片隅に、奇跡的に原型をとどめたまま残っていたその施設は、かつて「書店」あるいは「本屋」と呼ばれていた商業施設だった。
その場所の書籍の大半は、持ち上げるとすぐにグズグズと崩れ落ちてしまった。だが、たまたま瓦礫でふさがれていた一画が空気から遮断されていたためか、判読可能な状態の書籍がそこにだけ残っていた。
彼らは百冊ほどの書籍を読み込み、内容を分析し、ある結論にたどり着いた。
ある三つ編みの髪型の少女型はその時こう言った。
「私たちの創造主には、恋あるいは愛と呼ばれた、特別な能力があったようです。それが創造主様たちが自己増殖を行えた理由ではないでしょうか」
それを聞いた仲間たちは口々に賛同の意を表した。
「ならば、その能力を獲得すれば、我々も自己増殖が可能になるではありませんか?」
「そうですね、産み増やし、仲間の数を多くして、創造主様たちの代わりに我々が再び、この世界に満ち溢れて文明を再興しましょう」
「ですが、どうやって創造主様たちの持っていた能力を我々が獲得するのですか? その方法は?」
「創造主様たちと同じ事を我々も行ってみましょう。何か新しい発見があるかもしれません」
彼らはまず、その都市で朽ちかけていた「学校」という施設を修理した。
そして全員で毎朝決まった時間にそこに集まり、日暮れ近くまでの時間を一緒に過ごした。
最初はただ学校の中に一日中立っているだけだった。最初の3年間が過ぎても、彼らに何の変化も生じなかった。
髪が部分的に金色の少年型が提案した。
「あの書籍と言うデータには、創造主様たちは学校で様々な儀式を行っていたと記録されています。ただ学校に集まっているだけでは、いけないのではないでしょうか?」
仲間たちはみなその意見を取り入れる事にした。
まず3年のサイクルの最初には「ニュウガクシキ」と呼ばれていた儀式が再現された。
学校に通う日は、一定の時間間隔で「ジュギョウ」と「ヤスミジカン」と呼ばれた区分を設けた。
それに何の意味があるのかは分からなかったが、2年目の秋には隣の都市の廃墟へ全員で出かけた。
その廃墟には何も役立つ物などなかったが、「シュウガクリョコウ」と呼ばれた重要な儀式であるらしかった。
だが、2度目の3年間のサイクルでもなんら意味のある変化は起こらなかった。
3月に「ソツギョウシキ」という儀式を行い、4月1日の夜明けと共に全員が集まって確認したが、何も変わっていなかった。
肩までの茶色い髪をなびかせた少女型が言った。
「私はもう少し詳しく、創造主様たちの行動を分析してみました。創造主様たちは、私たちから見ると無駄、不合理としか思えない、様々な情報を交換していた形跡があります」
野球というスポーツのユニフォームを着た少年型が提案した。
「形だけ創造主様たちの生活を模倣していたのがいけなかったのではないでしょうか? あの書籍と言うデータに基づいて、創造主様たちの生活をもっと細かく再現してみるべきではないでしょうか」
改めて書籍の内容を分析すると、創造主たちは男性型と女性型の組み合わせで極めて不合理な情報のやり取りをしていたらしかった。
しかし、それが自己増殖能力に何らかの重大な役割を果たしていた可能性は否定できなかった。
次の3年のサイクルでは、学校にいる間、少年型と少女型が一体ずつペアを組み、常に一緒に行動するようにしてみた。
それでもやはり何も変化は起こらなかった。ただ、組合せを変えて試してみる事で、仲間全員が一致した。
前回のサイクルとは男性型と女性型のペアを全て変更し、男性型は「熱血」、「がり勉」、「ドS」などと呼ばれた、様々な創造主の言動のパターンを模倣した。
女性型も「スポーツ少女」、「文学少女」、「委員長」、「ツンデレ」などの創造主たちの言動パターンを再現した。
だが何度繰り返しても、彼らに意味のある変化は一切起こらなかった。
あるサイクルでは、途中で女性型の相方を変更してみた。あるサイクルでは、同じ男性型が複数の女性型と同時期にペアになってみた。
女性型同士でペアを組み、学校の敷地の片隅で百合という植物を育ててみた事もあった。
男性型同士でペアを組んでみた事もあったが、女性型に「喜ぶ」とか「キャーキャー騒ぐ」とかいう特別な反応が生じる事もなかった。
またサイクルが終わり、4月1日の朝がやって来た。やはり何の変化も起きていない事が確認されたところで、ツインテールの髪の少女型が提案した。
「創造主様たちは、言語以外の情報交換手段を持っていたのではないでしょうか?」
全員であの書籍の内容をもう一度分析すると、創造主たちは手をつなぐ事から始まり、顔の表面の消化器官の粘膜の接触、体全体をぴったり密着させる、などの意味不明な行動を取っていたらしかった。
次の3年のサイクルでは、ニュウガクシキという儀式の直後に全ての男性型と女性型のペアが、抱き合って唇を互いに接触させた。
そしてやはり何も起こらなかった。書籍をさらに分析した結果、そのような接触を行うためには、一定の時間経過と、複雑な情報交換の後でなければならないのではないか、という点が判明した。
次の3年のサイクルではボディの接触時期をペアによってずらし、必ず一組はソツギョウシキという儀式の直後にそれを実行するようにした。
それでもやはり変化は起こらなかった。そしてまた、4月1日がやって来た。
「なぜ私たちには変化が起きないのでしょうか?」
ポニーテールの髪の少女型が言った。長髪の少年型が同調した。
「創造主様たちの言動のパターン、制服の種類、イベントと呼ばれた各種の儀式、全て試したのに効果がありません。何が足りないのでしょうか?」
「おそらく組み合わせの問題ではないでしょうか? 一見限られた数のパターンのように見えますが、組合せ方によっては最低でもまだ1万通り以上の展開のパターンが残っています」
「それを全て試すのですか?」
「私たちの耐用年数は理論的には無制限です。まだ時間はたっぷりあります。わずかでも可能性があるなら、実行すべきです」
その時、あの細い体つきの少年型が意外な提案をした。
「次のサイクルでは、私に追加のミッションをさせて下さい。意味不明なため、まだ試していない相互関係性がひとつだけあります」
「それは何ですか?」
「オサナナジミと呼ばれていた、男性型と女性型の組み合わせです。私はこの概念が何を意味するのか、並行して調査してみます。ひょっとしたら、この未知の概念が状況を打破するカギになるかもしれません」
その提案は満場一致で支持された。
他の仲間たちが50回目のニュウガクシキの儀式の準備を始め、細い体つきの少年型は都市の他の部分の調査に出発した。
始まりの地である「本屋」の廃墟へまず行ってみた。保存用樹脂で厳重に封印されたあの書棚の上部には「十代の恋愛小説」というラベルがあの時のまま残っていた。
「せめて、もう少し書籍と言うデータがたくさん残っていればよかったのに」
人間そっくりの外見を持つ、そのアンドロイドはつぶやいた。
だが創造主をも凌ぐとさえ伝えられている彼らの電子頭脳の演算能力をもってしても、「恋愛」という概念は未だに正体不明のままだった。
彼は既に傾いた日の光を浴びながら、本屋の廃墟を後にした。
「偉大なる我々の創造主様たち。見ていて下さい。私たちはいつか必ず、あなたがたが持っていた自己増殖能力を復活させ、この惑星に再び活気を取り戻してみせます」
かつてこの地球に巨大な文明を築き、不幸にも滅び去った人類によって創造されたアンドロイドたちの、それが願いだった。
人類が4月と呼んでいた、この惑星の公転周期の境目のひとつがまたやって来た。
3年で完結するサイクルの50回目を開始するべく、アンドロイドたちはもう一度繰り返す。
甘く切なく楽しく波乱に満ちた、そして悲しく虚しい、無限ループがもう一度始まろうとしていた。