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「じゃあな悠真、また来いよ」
亮が玄関先まで見送りに来る。
「おう、またな」
悠真が靴を履きながら答える。
その横に立っていた咲は、胸の鼓動を必死に抑えながら、ふと声をかけた。
「……あの、また来てくださいね」
悠真が顔を上げる。
意外だったのか、少し驚いたように目を見開いてから、柔らかく笑った。
「……ああ。妹ちゃんにそう言われたら、ちゃんと来るよ」
「……っ」
言葉を返そうとしたのに、胸が熱くなって声にならなかった。
悠真は靴ひもを結び終えると、ふっと真剣な表情になり、低い声で続けた。
「……受験もあるし、無理しすぎんなよ。俺でよければ、また話し相手くらいになるから」
「……はい」
小さく返事をしながら、視線を逸らせずにいた。
亮がわざとらしく咳払いをして、空気を遮る。
「ほら悠真、風邪ひくぞ。さっさと帰れ」
「はいはい」
悠真は苦笑しながら立ち上がり、軽く頭を下げてドアの向こうへ消えていった。
――その背中を見送る咲の胸は、もう静まらなかった。