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私は、身震いして頭を振った。寒さに関係なくガタガタと足が鳴る。今はこの悪夢から家であるボロアパートへ帰り、何事も無かったかのように布団で寝ることを考えなければならない。
体がどうしても寒さではないもので震えてしまうが、腹に無理に力を入れた。勇気を振り絞る。もしかすると、呉林たちがいるかも知れない。そうでなければ、こんな場所に何日もいられない。気が狂ってしまうだろう。そこで、散乱している机から、椅子をどかしながら調べてみた。すると、一番大きい机の中から鍵を見つけられた。
それは通路の鉄格子の鍵で、「通路正面入り口鉄格子」と鍵に書かれている。これで、恐くてしょうがないが、刑務所の奥へと行ける。
いろいろと不安を抱きながら通路正面の鉄格子を鍵で開け、薄暗い通路を歩くことにした。刑務所はかなり広く、真っ直ぐ歩いても幾許か時間が掛かった。厚手のジャンパーの襟を立て、ポケットの中に入っていた煙草に火を点ける。そうして、しばらく歩くと、正面に丁字路が現れた。壁に簡易地図があり正面から右、囚人房、右奥、懲罰房、医務室、運動場。左、調理室、左奥、大風呂、処刑場、作業場。と書かれてある。どうやら、この刑務所は長方形の形をしているらしい。例えば、右へ行くと囚人房がずらりと並んでいて、奥に懲罰房があるといった感じだ。そして、左奥と右奥は通路で繋がっている。二階はない。
私は、右の囚人房へと向かった。単に処刑場が怖かったのだ。また、裸電球だけの通路をしばらく歩くことになる。
本当に呉林たちか誰か人が居てくれればいい。生来の根性なしの私は心の底からそう願っていた。
薄暗い囚人房に着いた。囚人房は通路の奥の突き当りまで、頑丈そうな扉で無数にあった。私はそこでジャンパーの中にあった鍵束をだし、死に物狂いで手当たりしだいに出たり入ったりしたが、どこも蛻の殻であった。誰もいないやとずいぶん奥で諦めかけた時、歌が聞こえた。
その歌は男性の声で、実に清々しい風を感じるような歌と声だった。私は歌には疎いが、その歌を聴くと何故か気分が落ち着いてくる。
「やった! 人がいるぞ!」
私は一瞬、歓喜したがこれが悪い夢だとしたら、恐ろしい死刑囚が歌を歌っているのかも。