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その歌は一番奥の囚人房から聞こえてきた。一番薄暗い場所なので、怖くてまだ調べていない部屋だ。私は声に耳を傾けながらその部屋の前に立った。
その時、
「赤羽さーん!」
今度は女性の声だ。それも一度聞いた事のある知っている声、呉林である。
理知的と捉えられるスカイブルーの上下の寝間着姿の呉林が今来たところから走ってきた。
「あなたもここに。あれ、髪型……床屋に行ったのね」
「そうだ! なあ、ここって何所なんだ! 俺のアパートにはエレベーターが付いていた!」
呉林にいろいろと疑問をぶつけるが。呉林は落ち着き払って、
「知らないわ!でも、ここはとても危険なのよ。……私には感じるの」
呉林は鳥肌のたった腕を見せた。
「また、それか」
私は体の震えを隠し、呉林の顔をまじまじと覗いた。少し青くなっているが私程ではない。それにしても知っている人がいる。心細さが消え、混乱した頭に安定感が出てきた。
また、歌声が聞こえる。今度は呉林にも聞こえたようで、顔に緊張が走った。
「他にも人がいるのね。早くここから出ないといけないわ。連れていって協力をしてもらいましょ」
呉林はそういうと、緊張した顔のまま一番奥の囚人房へとスタスタと歩き出す。
「どうして、また感じるとか?」
私は呉林を追いかけながら問いかけた。
今は胡散臭い気持ちよりも、強い不安な気持ちが勝り呉林の言うことを信じることにしていた。
「そう、でも今度のはもっと悪い……胸騒ぎがするわ」
私はそれを聞いて、情けないことに震えを隠せられなくなった。どうしても、あの普通列車より恐ろしい体験は御免だった。足がガクガクと震え、矛盾してしまうが、呉林の直感が違っていればと本気で祈った。
「早くここから出ないと。そういえば、安浦は?」
頭を軽く振って、自然に力が込もった私の眼差しに呉林は少し首を振り、
「解らないわ。ここにはいないのかも知れない。それとも、いるのかも知れない、もうこうなったら、訳が解らなくても前進するしかないわ」
呉林は背筋に力を入れ、まったく動じていないかのように歩きだした。
「怖いけど開けてみましょうよ。赤羽さん」
呉林は歌の聞こえる囚人房の前に立つと私に言った。
「解った」