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事件から数ヶ月の月日が流れた。
あれから、それぞれの生活は大きく変わっていった。
惇也は若頭から降格し、心を入れ替えて一から八旗組の為に昼夜を問わず動き回っているという話を理仁から聞いた真彩。
それには、八旗組組長の娘の存在が大きかったという。
惇也は組長の娘と以前から恋仲だった事もあって組長からも目を掛けて貰えていた。
今回の事件を起こし、惇也は八旗の元を去るつもりでいたようなのだが、娘に止められ説得されて、一から頑張る決意を固めたとの事。
そして、その娘というのはバツイチ子持ちで、その子供が莉奈だった。
今は組長の娘と莉奈の為、心を入れ替えて頑張っている。
そんな彼は、悠真の事は当初の話し合い通り、これから先も関わらない事を約束した。
心を入れ替えて頑張っているという惇也が今度こそ道を踏み外す事なく、大切な人と心穏やかに暮らせればいいなと、真彩は密かに願っていた。
それから復讐の為に理仁を殺そうとして真彩を撃ってしまった作馬はというと、惇也同様八旗組で一からやり直すと言っていたらしいのだが、突如姿を消して以降、消息は不明だという。
風の噂では、西の方の組織に彼に似た男が居るとか居ないとか。
そして、理仁と真彩はというと――
「理仁さん、お疲れ様です。あの、少しお話があるんですけど、いいですか?」
「ああ、いいぞ。どうかしたのか?」
「あの、例の話を、そろそろ悠真にしてみようかなと思うんですけど……」
「そうか……そうだな、そろそろ良い頃合いかもしれねぇな。しかし、本当に悠真は受け入れてくれるのか?」
「それはもう、心配ないと思います」
「そういうものか? いやしかし、やはり拒絶されたら……」
「もう、理仁さんって結構心配性ですよね?」
「いや、それはお前や悠真の事に限るんだよ……喜んで貰えなかったら、立ち直れねぇぞ、俺は……」
「絶対に大丈夫ですよ」
二人が話をしている『例の話』というのは、二人が籍を入れるという事。
あの日から正式に交際を始めた二人は、忙しい合間を縫っては時間を取って少しずつ愛を育んでいた。
休日には悠真と三人で様々な場所へと出掛けたり、時には朔太郎や翔太郎に悠真を任せて二人きりで出掛けたり、これまで以上に共に過ごす時間を大切にしてきていた。
二人の愛は揺るぎないもので、籍も早めに入れようかと話はしていたものの、悠真の事を思うと時間をかけた方がいいのかと悩み、常にタイミングを窺っていた。
幼稚園にも慣れて最近では朔太郎と過ごすよりも友達と過ごす時間が増えた悠真。
それと同時に友達が父親と出掛けたり、遊んだという話を聞くと羨ましく思う反面寂しい思いが勝るようで、『ゆうまにもパパがいたらよかったな』と口にする事が増えつつあり、そんな悠真を見ていた真彩は今ならきっと喜んでくれるのではないかと思い理仁に話を持ちかけたのだが、理仁は悠真が喜んでくれるかどうにも不安のようだった。
「悠真、お友達がお父さんとお出かけしたとか遊んで貰った話を聞く度、自分にも父親がいたら良かったって話す事が増えたんです。それを聞くと、私申し訳無い気持ちで……」
「まだ幼いからな、そういう風に思うのも仕方ねぇよ。周りが羨ましく見えるんだろうな」
「だから、やっぱり早く父親という存在を悠真に与えてあげたいんです。理仁さんの事が大好きだから、絶対大丈夫ですよ」
「……しかし俺は、朔太郎に負けてる気がするんだよな」
「あー、それは多分、理仁さんだけじゃないですよ。朔太郎くんには母親の私ですら勝てなさそうですもの」
「そんな事はねぇと思うがな……」
「でも、朔太郎くんの事は『父親』よりも『お兄ちゃん』という感覚が強いと思いますから。ね? だから、明日遊園地に行った時、話をしても良いでしょうか?」
「……そうだな、話をしてみるか」
「はい!」
明日は休日で悠真が行きたがっていた遊園地へと遊びに行く約束をしていた事もあり、その時に話をするという段取りに決まったのだった。
「わーい! ゆうえんち! はやくのりもののりたい!」
翌日、遊園地へやって来た悠真は入るなり乗り物に乗りたいとはしゃいでいる。
「乗り物を逃げねぇから、少し落ち着け悠真」
「りひと、ゆうま、あれのりたい!」
「あれは悠真にはまだ無理だ。あっちの子供用のコースターなら乗れるぞ」
「あっちがいい」
「あのな悠真、あのコースターはもう少し大きくならないと乗れねぇんだ。今回は我慢しような。乗れるようになったら、また連れて来てやるから」
「……わかった」
悠真が乗りたいと指さした乗り物は身長がある程度ないと乗れない物なので小学生以上とされているが、そんな事をすぐに理解出来ない悠真は渋っていたものの、理仁の説得によって子供も乗れるコースターを乗る事になった。
その様子を眺めていた真彩は、理仁ならば悠真にとって素敵な父親になってくれると改めて確信していた。
途中昼食を挟んだり、おやつを食べるために休憩をしたりしながらアトラクションやショーを楽しんだ真彩たち。
陽も暮れかけた夕暮れどき、話をする為にも落ち着いたアトラクションで締めようと観覧車に乗る事にした。
「うわー! たかい! すごい!」
最近高い所が好きな悠真は観覧車に乗れてテンションが上がっていた。窓の外を眺めている悠真を横目に、真彩と理仁は目配せをしながら話すタイミング探っている。
「ねぇ悠真、ちょっといいかな?」
「なあに?」
「悠真はさ、パパがいなくて、やっぱり寂しい?」
「……うん。おともだちはみんなパパがいて、たのしそうだから」
「そっか。あのね、もしも……これから悠真にパパが出来たらどうする?」
「え? ゆうまのパパ?」
「そう、悠真のパパ」
「うれしい! パパどこにいるの?」
血が繋がっていないという事は幼い悠真に話しても理解出来ないだろうと省く事にして、ただ、パパが出来たら嬉しいかという事だけを尋ねると、物凄く喜ぶ悠真。
そんな悠真を前に再度顔を見合せた真彩と理仁。ひと呼吸おいて話しを続けたのは理仁で、
「――俺が、悠真のパパになると言ったら、嬉しいか?」
少し遠慮がちに悠真に問い掛けた。