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🫧想美🎐🍏
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#だけなんだ
だけなんだ
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だけなんだ
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鈴木の呼吸が止まる。
会場の音が遠くなった。
拍手。
笑い声。
フラッシュ。
全部、分厚い膜の向こう側みたいにぼやける。
ステージの上。
ルージュは微笑んだままだった。
完璧な笑顔。
綺麗な姿勢。
柔らかい声。
誰が見ても、“優しい人”にしか見えない。
昔と何も変わらない。
なのに。
鈴木には少し違って見えた。
笑顔の角度。
瞬きのタイミング。
視線の流し方。
全部が、“作られている”ように見える。
会場へ向かって手を振るルージュ。
指先まで綺麗だった。
白くて細い手。
昔、凛子と手を繋いで笑っていた手。
だけど。
鈴木だけが知っている。
あの手が、凛子を突き落としたことを。
『今日は、“心を整えること”についてお話しできればと思います』
会場が静かに聞き入る。
誰も疑わない。
誰も知らない。
ルージュは穏やかに笑った。
『人って、過去に縛られると苦しくなるんです』
鈴木の奥歯が軋む。
耳の奥で、崖の日の雨音が蘇る。
霧矢の声がイヤホン越しに聞こえた。
『鈴木クン、顔』
「……」
『今めちゃくちゃ酷い顔してるッスよ』
冬橋も低く言う。
『抑えろ』
鈴木は拳を握った。
爪が掌へ食い込む。
痛みで、ギリギリ理性を繋ぎ止める。
ステージの上で ルージュは変わらず話し続ける。
『自分を許すことも、とても大事なんですよ』
その瞬間。
鈴木の中で、何かが切れかけた。
ふざけるな。
お前が。
お前がそれを言うのか。
ルージュが、不意にこちらを見る。
真っ直ぐ。
笑顔のまま。
まるで最初から気づいていたみたいに。
そして。
『——では、少し休憩に入りましょう』
拍手。
照明が落ちる。
スタッフが動き始める。
会場がざわめく。
鈴木が反射的に歩き出そうとした瞬間。
肩を掴まれた。
霧矢だった。
「待って」
「離せ」
「今行ったら終わる」
珍しく、笑っていなかった。
声が静かだった。
鈴木は低く吐き捨てる。
「目、合った」
「うん」
「気づいてる」
「うん」
霧矢は数秒、鈴木を見る。
その目は、いつもの観察する目と少し違った。
試すみたいな冷たさが薄い。
代わりに、何かを警戒しているみたいだった。
「来るよ、多分」
「……は?」
その時だった。
黒服のスタッフが近づいてくる。
「失礼します」
丁寧な声。
営業用の笑顔。
「鈴木様、でよろしいでしょうか」
空気が凍る。
鈴木の肩が強張る。
霧矢の目が細くなる。
冬橋の声がイヤホン越しに低く響く。
『警戒しろ』
スタッフは微笑んだまま続けた。
「口紅様がお会いしたいと」
鈴木の心臓が、大きく鳴った。
まるで。
“チョモ”だった頃の自分を、向こうがまだ覚えているみたいで。
ーーーーーーーー
ホテルの奥。
関係者用ラウンジ。
高級そうなソファ。
薄暗い照明。
静かなジャズ。
甘い香水の匂い。
綺麗すぎる空間だった。
だから余計に、鈴木は吐き気がした。
鈴木は無言で立っていた。
霧矢も一緒だ。
冬橋は外で待機している。
扉が開く。
ヒールの音。
規則正しく、ゆっくり近づいてくる。
そして。
「久しぶり」
ルージュが入ってきた。
近くで見ると、昔よりずっと綺麗だった。
大人の女性の顔。
洗練された笑い方。
柔らかい香水。
でも。
笑う口元だけ、あの頃と変わらない。
鈴木は睨む。
「……ルー」
ルージュは少しだけ目を細めた。
「その呼び方するの、チョモくらい」
その瞬間。
昔の記憶が一気に蘇る。
『ルー!』
『チョモうるさーい』
浜辺で笑っていた声。
駄菓子を分け合った帰り道。
何でもなかった日々。
鈴木の拳が震える。
ルージュはそれに気づいていた。
でも動じない。
ただ静かに椅子へ座る。
脚を組む仕草まで綺麗だった。
「座れば?」
「ふざけんな」
ルージュは小さく笑った。
「相変わらずだね」
その声が。
昔と同じすぎて、鈴木は余計に苦しくなる。
変わってしまったのは、こっちだけみたいで。
霧矢が壁際で眺めていた。
笑っていない。
観察するみたいな目。
ルージュは霧矢を見る。
「あなたが霧矢くん?」
「そうッス」
「合六さんのところの」
空気が少し変わる。
霧矢は笑った。
「有名人ッスねオレ」
笑っている。
でも。
その目は、ルージュの奥を探るみたいに静かだった。
ルージュも笑う。
だが。
目だけが冷たい。
互いに笑っているのに、空気が冷え切っていた。
鈴木は低く言った。
「なんで凛子を殺した」
静寂。
ジャズだけが流れている。
ルージュは数秒、鈴木を見ていた。
その目は不思議なくらい穏やかだった。
怯えもない。
罪悪感もない。
それが余計に恐ろしい。
やがて。
「単刀直入だね」
「答えろ」
「……」
ルージュは視線を落とす。
長い睫毛が影を落とす。
そして。
「しょうがなかったの」
静かな声。
言い訳する声じゃない。
本当に、“どうしようもなかった”と思っている人間の声だった。
鈴木の奥で、怒りが跳ねる。
「は?」
「私、生き残りたかったから」
その言葉に。
鈴木は一瞬、何も言えなくなった。
ルージュは淡々と続ける。
「チョモも見てたでしょ」
穏やかな声。
「大人たち、凛子ばっか見てた」
『凛子ちゃん可愛い〜!』
『ほぼふるはうすでいずだね!』
『口紅ちゃんより好き!』
コメントの文字が脳裏へ蘇る。
あの頃。
数字が全てだった。
再生数。
人気。
大人の視線。
愛される順番。
その全てをルージュは知っていた。
鈴木は知らなかった。
ルージュは笑った。
でも。
その笑顔は少し歪んでいた。
「私ね」
静かな声。
「捨てられるのが怖かったの」
鈴木は息を呑む。
ルージュはソファにもたれた。
「大人ってさ、価値がなくなった瞬間いなくなるじゃない」
その言葉だけ、妙に実感がこもっていた。
霧矢が、少しだけ目を細める。
ルージュは続ける。
「だから必死だったの」
「……だから殺したのか」
「うん」
即答だった。
躊躇が一切ない。
鈴木の頭が真っ白になる。
ルージュは悪びれもしない。
後悔している顔もしない。
ただ。
昔話をするみたいに穏やかだった。
「崖なら事故になると思ったの」
「実際、あの件は事故として処理されたしね」
鈴木の視界が揺れる。
拳が震える。
息が苦しい。
なのに。
ルージュは平然としていた。
まるで、“必要なことをしただけ”みたいに。
霧矢だけが、静かにルージュを見ていた。
その目は妙に冷静だった。
嫌悪でもない。
共感でもない。
ただ、“理解”している目。
「へぇ」
ぽつりと呟く。
「アンタ、結構オレ側なんスね」
ルージュが笑う。
「失礼」
「でもわかる」
ルージュは霧矢を見る。
「霧矢くんの言いたいこと」
霧矢は相変わらずへらへらしている。
でも。
笑顔の奥だけが静かだった。
ルージュは続ける。
「生き残るためなら、人って案外なんでもするし」
鈴木が怒鳴った。
「一緒にすんな!!」
空気が震える。
ジャズが途切れそうなほど、声が響いた。
鈴木はルージュを睨む。
「凛子は、お前の友達だっただろ」
ルージュは少し黙った。
ほんの一瞬だけ。
その目が揺れた気がした。
そして。
「友達だから、邪魔だった」
その瞬間。
鈴木の中で、何かが完全に切れた。
コメント
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**リオン** この話、すごく重かった……。ルージュが「しょうがなかった」って本当に悪びれずに言い切った瞬間、背筋が冷えたよ。しかも霧矢が「わかる」って反応したのも気になる——彼とルージュ、何か根本の思考回路が似てるのかな。鈴木の「一緒にすんな!」の叫びが痛いほど響いた。