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おお……これは重い。でも刺さったわ。 鈴木がルージュを殴っても倒れないシーン、あの「痛い」が他人事みたいな温度のなさ、めっちゃ怖かった。そして「私より愛されてたから」。たった一言で凛子が死んだ理由が静かに炸裂して、胸が締め付けられた。ルージュも鈴木も、結局同じ場所から来てるのに、そこで「お前とだけは違う」って言い切った鈴木、カッコよかった。最後の敵対組織登場でまた波乱の予感……続き気になるわ🔥
鈴木の拳が、ルージュの頬を殴り抜いた。
乾いた音が、静かなラウンジに鋭く響く。
殴った瞬間、鈴木自身の腕にまで痺れが走った。
ルージュの顔が横へ流れる。
長い髪がふわりと揺れ、赤い雫が床へ落ちた。
周囲のスタッフがざわつく。
誰かが息を呑む。
誰かが「止めろ」と小さく叫ぶ。
それでも。
ルージュは倒れなかった。
ゆっくりと顔を戻す。
切れた口元から血が滲む。
白い指でそれを拭い、赤く染まった指先を眺める。
「……痛い」
まるで。
他人が殴られた話でもしているみたいだった。
その温度のなさが、鈴木の怒りをさらに煽る。
いや、怒りだけじゃない。
殴ったはずなのに、少しも崩れない相手を前にして、鈴木の中で何かが嫌な音を立てた。
こいつは、何なんだ。
何を考えてる。
何を隠してる。
鈴木は肩で息をした。
「ふざけんな……!」
もう一度殴ろうと踏み込んだ瞬間。
後ろから腕を掴まれた。
霧矢だった。
「鈴木クン」
「離せ!!」
「今ここでやるのはッ……」
「うるせぇ!!」
鈴木は力任せに振り払おうとする。
だが。
霧矢の細い腕は、信じられないほど動かなかった。
骨みたいに細いのに。
鉄にでも掴まれているみたいだった。
その感触が、鈴木の熱を少しだけ冷ます。
冷めたぶんだけ、胸の奥に別のものが浮かび上がる。
怖い。
自分が、怖い。
殴ったことが怖いんじゃない。
殴っても止まらなかった自分が、怖かった。
ルージュはその様子を見て、小さく笑う。
「昔と変わんないね」
その一言だけで。
頭の奥が弾けた。
『チョモまた泣いてる〜!』
『かわいー!』
『凛子ちゃん助けてあげて!』
『またチョモ負けた〜!』
笑い声。
コメント。
カメラのシャッター音。
眩しいフラッシュ。
全部が一気に蘇る。
鈴木は叫んだ。
「なんで凛子だったんだよ!!」
声が掠れる。
喉が裂けそうだった。
怒鳴りながら、鈴木は自分でも気づいていた。
本当は、答えなんて聞きたくない。
聞けば、何かが決定的に壊れる気がした。
ルージュは数秒黙っていた。
笑顔が、ほんの少しだけ揺れる。
そして。
「私より愛されてたから」
掠れた、小さな声だった。
静かすぎて。
逆に耳へ突き刺さる。
鈴木は息を止める。
そんな理由で。
たった、それだけで。
凛子は死んだのか。
いや、違う。
そんな簡単な言葉で片づけられるはずがない。
そう思うのに、思いたいのに、ルージュの口から出たその一言があまりにも軽くて、鈴木の中の怒りを別のものへ変えていく。
嫌悪だ。
理解したくない。
理解したくないのに、少しだけ分かってしまう自分がいる。
ルージュはソファへ座り直す。
血を指で拭いながら、静かに言った。
「チョモはさ」
「……」
「凛子ちゃんのことが好きだったよね」
空気が止まる。
霧矢の視線が鈴木へ向く。
鈴木は何も言えない。
喉が動かない。
昔。
まだ何も失っていなかった頃。
『チョモ、凛子ちゃん好きなのー?』
ルーが笑いながら茶化してきた。
『顔見ればわかるよぉ』
あの日の笑い声まで蘇る。
鈴木は奥歯を噛み締めた。
好きだった。
そんな言葉で済ませたくないくらい、ずっと大事だった。
だからこそ、嫌だった。
だからこそ、ここまで来た。
その事実が、今さら鈴木の足元をぐらつかせる。
ルージュは窓の外を見る。
夜景。
ネオン。
街は今日も何事もなかったみたいに輝いている。
「羨ましかったな」
ぽつり、と呟く。
「凛子ちゃんって、何もしなくても愛されるから」
その声には怒りはない。
嫉妬もない。
もっと長い年月をかけて腐り続けた感情だけが残っていた。
「私は頑張らないとダメだった」
ルージュは笑う。
どこか寂しそうに。
「空気読んで、媚びて、笑って」
「欲しくもないこと言って」
「泣きたくない時に泣いて」
「大人が喜ぶ子を演じ続けて」
鈴木は眉を寄せる。
ルージュは続けた。
「チョモだって見てたでしょ?」
静かな声。
「大人って、使える子しか好きじゃない」
鈴木の喉が詰まる。
反論できなかった。
ルーは昔から、生き残る方法を知っていた。
カメラの前で笑う方法。
泣くタイミング。
甘える相手。
全部。
子どもの頃から覚えてしまっていた。
鈴木は、子供のときそれを知らなかった。
「だから怖かったの」
ルージュは小さく息を吐く。
「凛子がいたら、私は捨てられるって」
「で、殺した」
霧矢が壁にもたれたまま言う。
「うん」
迷いのない返事だった。
霧矢は少しだけ笑う。
「潔いッスね」
鈴木が睨む。
「お前もおかしいだろ……!」
霧矢は瞬きをした。
「そう?」
「なんで平気なんだよ!」
鈴木の声が震える。
「人が……死んでんだぞ!!」
ルージュも。
霧矢も。
あまりにも平然としている。
それが怖かった。
自分だけが、まだ何かを失いきれていないみたいで。
すると。
霧矢が少し考えるみたいに首を傾げる。
「でも鈴木クンも、結構こっち側来てるよ」
「……っ」
「普通の人ってさ」
霧矢は笑う。
「復讐のために裏社会に来たりしないよ」
その言葉が、胸の奥へ深く刺さる。
鈴木は反射的に否定しかけた。
違う。
俺は違う。
そう叫びたかった。
でも。
喉まで出かかった言葉は、途中で潰れた。
違わない。
少なくとも、ここにいる理由は。
凛子を失って、怒って、許せなくて、取り返したくて。
そのために、鈴木はもう普通の場所には戻れなくなっていた。
自分でも分かっていた。
分かっていたからこそ、認めたくなかった。
ルージュが静かに鈴木を見る。
「チョモ」
昔の呼び方。
それだけで、胸が締め付けられる。
「私ね」
ルージュは微笑む。
「チョモならわかってくれると思ってた」
「……は?」
「だってチョモも、“使われる側”だったじゃん」
鈴木の呼吸が止まる。
その通りだった。
否定できない。
見世物にされて、笑われて、都合よく転がされて。
僕はずっと、誰かの都合で動かされてきた。
だからこそ、今は違うと思っていた。
今度こそ、自分の意思で動いていると。
でも、その先にあるのが復讐なら。
それはもう、同じ穴の底じゃないのか。
鈴木の中で、怒りが形を変える。
ルージュへの怒り。
自分への怒り。
そして、そんな自分を見抜かれたことへの怒り。
ルージュは立ち上がる。
ヒールの音だけが響く。
一歩。
また一歩。
鈴木の目の前で止まる。
霧矢は止めない。
ただ黙って見ていた。
ルージュは鈴木を見上げる。
「私たち、似てるよ」
その瞬間。
鈴木は吐き気がした。
心の底から。
似てる。
その言葉が、いちばん嫌だった。
似ているのは、傷ついたことじゃない。
使われたことでもない。
失ったものを抱えたまま、復讐の側へ落ちてきたことだ。
鈴木はもう、その場所に立っている。
だからこそ。
だからこそ、こいつと一緒にされるのだけは耐えられない。
「一緒にすんなッ!」
叫び声が部屋を震わせる。
「どうして?」
ルージュは首を傾げる。
本気で不思議そうに。
「チョモだって、ずっと誰かを憎んで生きてたのに」
鈴木の拳が震える。
否定したい。
違うと言いたい。
でも、違わない部分があることも分かってしまっている。
その事実が、余計に腹立たしかった。
ルージュは優しく笑う。
「復讐って気持ちいいでしょ?」
その言葉を聞いた瞬間。
鈴木の中で、凛子の声が蘇った。
『チョモ』
夏の海。
潮風。
小さな手。
太陽みたいな笑顔。
『だいじょうぶだよ』
その記憶だけが。
鈴木を、ぎりぎり人間側へ引き止めていた。
だからこそ、ここで折れたくなかった。
復讐に飲まれて、あの笑顔まで汚したくなかった。
鈴木はゆっくりルージュを睨む。
涙も。
怒りも。
全部飲み込んで。
自分がもう、復讐の側に立っていることを認めたうえで。
それでも。
「お前とだけは違う」
低く。
はっきりと言った。
その一言だけは。
何にも揺らがなかった。
ルージュの笑顔が、ほんの少しだけ消える。
ほんの一瞬。
彼女の目に、寂しさにも似た影が落ちた。
その時だった。
イヤホンから冬橋の低い声が響く。
『直斗』
霧矢の表情が変わる。
笑顔が、音もなく消えた。
『組織の連中が来てる』
空気が一変する。
さっきまでの感情のぶつかり合いとは別の緊張が、部屋を満たした。
霧矢が短く小さな声で問う。
「……誰の?」
冬橋の声がさらに低くなる。
『こちら側じゃない』
一拍置いて。
『敵対組織だ』