テラーノベル
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“君がすっきりできないのは、勝手にこうだろうと結果づけて、確かめようとしないからだ”
思い出すのは、深山さんの言葉。
もしかして、私をここに出向させたのは、こんなふうに社長と二人きりにさせるためだったのかしら。
でも出向命令は遠田社長が出したはずだ。だとしたら社長も私と話すつもりがあった?
さっぱり分からない。私は、どうすればいいの。
「えっと、咲坂さんだっけ。お湯湧いているけど」
「えっ」
社員さんに声をかけられて、私はようやくやかんがカタカタと揺れているのに気付いた。
「すみません。ぼーっとしちゃって」
「いいえ。俺、亀田って言います。困ったら何でも聞いて下さい」
「あ、じゃあ、煎茶ってありますか? 年配の社長さんだからコーヒーよりお茶のほうがって思ったんですけど」
「ありますよー。こっちの棚です」
高めの位置にあるシンク上の棚から茶葉を取り出し、手渡してくれる。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
亀田さんは微笑み、自分のコーヒーを入れて自席へと戻っていく。
たしかに、人に聞けば、物事は動く。それがいいほうに動くか悪いほうに動くかはその時次第だけれど。
少なくとも立ち止まっているよりは変化があるんじゃないの?
「どっちにしろ、もう逃げられない」
遠田社長は、ひとりでここに来たんだ。それは、普段会社では誰に聞かれるか分からない話をするためなのだと、信じるしかない。
意を決して、応接室に戻った。
社長は座ってはおらず、壁にかけられた絵画を眺めていた。モダンアートというのだろうか、抽象化された立体物は具体的に何とは言いづらい。ただ、カラフルで目を惹く絵ではある。
私は、声をかけるタイミングを逃して、とりあえず席にお茶を置き、「粗茶ですが、よろしければ」とだけ言った。
彼は顔を半分だけこちらに向けてほほ笑んだ。でもそれだけ。訪れた沈黙が気まずくて逃げ出したいとさえ思う。
鷹槻れん

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コメント
1件
うわ、深山さんの言葉がここで効いてくるんですね……「立ち止まってるより変化がある」って亀田さんとのやり取りから自分の中で消化していくの、すごくリアルでした。応接室に戻ってからの社長との沈黙、逃げ出したくなる気持ち、すごく分かります。でも自分から「もう逃げられない」って覚悟した姿、かっこよかったです。咲坂さんの一歩、ちゃんと見届けたいなって思いました🥀