テラーノベル
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「佳穂、健二、お前ら……」
と、横合いから今まで無言だった修太郎さんの驚いた声がした。
どうやら修太郎さんもお二人のことはご存知なかったみたいで、呆然とつぶやかれたそのお声に私も驚く。
あぁ、そういうことだったのか、と修太郎さんが合点がいったように独り言を吐き出されたのをお聞きして、私はやっと声を出すことが出来るようになった。
「あ、あの……」
私はお二人のキスを見て、何故か照れてしまって――多分それは日頃は余裕綽々な健二さんの照れる姿を目の当たりにしてしまったことも影響していると思う――、声を発してはみたものの、しどろもどろになってしまう。
やっとしぼり出した呼びかけにしても、健二さんへ向けたものなのか、佳穂さんへ向けたものなのか自分でも分からなくて……。言いさしたまま、次の句がつげなくて止まってしまう。
「日織ちゃん、修太郎。私と健二はね、ご覧の通り付き合ってるの」
言葉足らずな私の意図を汲まれたように、健二さんの腕にご自身のそれを絡めると、佳穂さんは「お似合いの二人でしょう?」と胸をお張りになる。
佳穂さんに腕を捕らえられた健二さんが困り顔をなさっているのが印象的で。
でも、すぐに諦めたように溜め息混じりに「前に日織さんにも話したと思うんですけど、俺、はっきりした女が好きなんです」と苦笑なさる。
(そういえば、前に電話でそのようなことをおっしゃられていたのですっ!)
と思い出した私は、
(あれは……佳穂さんのことだったのですね)
今更のように健二さんの言葉の真意を知ることになった。
「外野の目論見なんて知ったこっちゃないわ。大体私と修太郎を……っていうのだって、その方が年齢が釣り合って見えるからってだけの理由に違いないんだもの。そんな風にしか私たちを見られない人たちの言いなりになってたまるかってね、そう思ったの。――その思いは健二や修太郎も同じはずよ? だから……」
そこで佳穂さんは私を正面からひたと見据えられた。
「だからね、日織ちゃん、貴女も自分の気持ちに正直になればいいの」
今までも散々いろんな方々から言われてきた言葉。
ここにきて、すべてが繋がった気がした。
ただひとつ。
(でも……じゃあ、何故……? 何故健二さんはお嫁さんにもらう気もなかったはずの私を、市役所に入れてまで変えようとなさったの?)
とりあえず食事をしながら話しましょう、ということになって、私は目の前のご馳走に視線を転じる。
パンもスープも鴨肉もみんな美味しそうで。
ついでに言うと、よく冷えた炭酸水もとても美味しかった。
「あ、あの、修太郎さん。グラス……」
そこでふとグラスが手許にないのを思い出した私は、お水が飲みたいです、と先程取り上げられたままのグラスを指差す。修太郎さんは私の言葉を受けて「あ」という顔をなさった。
「ごめんなさい」
私にグラスを返してくださいながら、申し訳なさそうにしゅんとなさるのがとても愛しい。
愛しいと思ってもいいのだと……その気持ちを隠さなくてもいいのだと言われたことがとても嬉しくて……。
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私は思わず笑みを浮かべてしまった。
「日織さん?」
修太郎さんがそんな私の笑顔を目ざとく見付けて声をかけて下さるから、私は彼のほうへ唇を寄せて「修太郎さんのこと、大好きだなって思って……。それを隠さなくてもいいんだって気が付いたら、凄く凄く幸せな気持ちになってしまったのです」と耳打ちする。
私の言葉をお聞きになった修太郎さんが、照れたように微笑まれてから、「僕も大好きです」と返してくださった。
「兄さんはずっと日織さん一筋でしたから」
私たちの様子をご覧になられていた健二さんが、意味深な笑みを浮かべて口を開かれた。
コメント
2件
健二さんとかほさんはそういう。 なるほどー。 それはさておきちょいちょい長いこと、みたいに言われるけど修太郎さんのひおりちゃんへの思いはひおりちゃんが思ってるよりもっと前から?
いやー、やっと来ましたね、佳穂さんと健二さんの正体!「はっきりした女が好き」って伏線、あの電話のときの台詞がここで効いてくるとは…。日織さんが修太郎さんに「大好き」と素直に伝えたシーン、それに対して修太郎さんも同じ言葉を返すという流れがもう尊すぎて。健二さんの「ずっと日織さん一筋でしたから」、この一言で修太郎さんの長年の想いも全部腑に落ちました。温かい空気に包まれた良い回でした。