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拓也が必死にこはるを守り、アメリカ兵の前に立ちはだかったとき、兵士は少しだけ黙り込んだ。その後、視線を落とし、ため息をつくように言った。
「すまない。こんなことをして」
拓也は兵士を睨みつけたが、兵士は続けた。
「君の妹さんに似ていたんだ…故郷の妹に…」
こはるは驚いてその言葉を聞いた。
兵士は一瞬、遠い目をして、何かを思い出すように視線を上げた。
「妹は、あの戦争の中で……」
彼の声は途切れ、言葉にならなかった。
こはるの目の前に、ただ静かな空気が流れる。
「だから、無理にでも連れてきてしまった。君がどんな状況か分からないけど、俺のせいだ」
拓也は少し沈黙した後、ついに口を開く。
「妹を失って、戦争の中で何もかもが崩れていく中、ただ何かに頼りたかったんだろうな。けど、それが間違いだったって分かっている」
兵士は深く頭を下げた。
拓也もその姿を見て、何も言えなかった。
こはるはそのまま立ち尽くし、ただその場の空気を感じていた。
「でも……どうして、私たちを……」
こはるの小さな声に、兵士は顔を上げ、静かに答えた。
「君たちが無事でいてほしい。俺も、誰かを守ることで、少しでも自分を許せる気がするから」
その言葉は、こはるの心にじわりと染み込んでいった。
戦争の中で人々が抱える痛みや葛藤、そしてどこかで誰かを守りたいという気持ち。それらが交差し、こはるの目の前に立つ兵士をただの敵ではなく、一人の人間として見つめることができた。
拓也は少し怒りを感じつつも、こはるを抱きしめるようにしてその兵士を睨んだが、しばらく黙って立ちすくんでいた。
その後、兵士はゆっくりと後退り、広場に向かって歩き始めた。
「もう、君たちには手を出さない…ただ、元気でいてくれ」
その言葉を最後に、兵士は振り返ることなく、静かに去っていった。
拓也はこはるの手をしっかりと握り、目を閉じた。
「もう、戦争なんて怖いものはない……だろう?」
こはるは力なく頷きながらも、その胸の中に芽生えた不安を、きっとこの先も抱え続けることになる