テラーノベル
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その日の深夜。
離宮の自室。
机の上には、一通の白い手紙が広げられている。
かつてセドリックが届けてくれた、父王からの直筆の手紙だ。
王家の光魔法を流した時だけ、文字が鮮やかに浮かび上がる仕掛けになっている。
『レオン』
『私は、お前を愛していなかったことなど一度もない』
その一文を、レオンは何度も、何度も読み返していた。
手紙を受け取ったあの日から、どれだけ瞳に焼き付けても、胸の奥が鈍く痛み続ける。
『だが、お前を少しでも気にかければ、王妃とマレフィカ侯爵家は必ずお前を手にかけただろう』
『お前の母を奪ったように』
『だから私は、無関心を演じるしか、お前を守る術がなかった』
『……それでも、お前を孤独に置き去りにした私の罪は消えない』
「……今さらそんなことを言われたって、遅いよ、父上」
ぽつりと、言葉がこぼれた。
手紙の先に綴られていたのは、あまりにも深い王宮の闇だった。
王妃カサンドラには、婚姻前から深く想い合う者がいたこと。
その相手は、王弟大公家の血を引き、神殿へ入った傍系王族の神官だったこと。
そして――その神官が、何者かによって暗殺されたこと。
父王は、その首謀者をマレフィカ侯爵家だと疑っていた。
けれど王妃は、国王である父が命じたのだと信じ込み、憎しみを募らせている。
さらに、現在の王太子ユリウスが、父王の実子ではないという事実まで。
『これを公に暴けば、間違いなく内戦に発展するだろう』
『私の再婚に際しても、マレフィカ侯爵家は隣国と手を組み、応じなければ王都を戦火に沈めると圧力をかけてきた』
『民を守るため、私は沈黙を選ばざるを得なかった』
『もしお前に、この国の頂点に立つ覚悟があるなら……この者たちを頼りなさい』
手紙の最後に並んでいたのは、王妃派に対抗し得る家門の名だった。
ジュール男爵家。
エルベルト公爵家。
ベルシュタイン公爵家。
かつて前王妃に恩を受けた伯爵家。
マレフィカ侯爵家に不当に領地を奪われた子爵家。
そして、ユリウスの魔力の少なさを指摘したことで大神官を殺され、神殿内で静かに怒りを燃やす者たち。
(……この家門の長たちには、すでに魔獣のソルを使って密書を送ってあるけれど)
レオンは、静かに手紙を折りたたんだ。
(今さら父上に会って、僕はどんな顔をすればいいんだろう?)
怒ればいいのか。
責めればいいのか。
なぜ、もっと早く教えてくれなかったのだと言えばいいのか。
それとも。
(……それでも、ただ、一目会いたかった)
ずっと。
ずっと長い間、たった一人の血の繋がった家族に、ただ「父上」と呼びかけることすら叶わなかったのだから。
――その時だった。
トン、トーン、トン、トン。
壁の向こうから音が響いた。
隠し通路からの合図。
「……入って」
本棚の奥の隠し扉が、静かに開く。
そこに立っていたセドリックの姿を見て、レオンは息を止めた。
いつもなら、髪一本の乱れも、衣服の皺一つも許さない男だ。
その侍従服が、ひどく乱れている。
なりふり構わず走ってきたのだろう。
肩は激しく上下し、顔は死人のように青ざめていた。
「王子様……っ」
「……じいや? どうしたの、そんなに慌てて」
セドリックは、震える唇をかすかに開いた。
「陛下が……先ほど、崩御なさいました……!」
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コメント
1件
ああ……この展開、来てほしくなかったなあ。 レオンがようやく父王の想いを知って、手紙を握りしめながら「一目会いたかった」って思った瞬間に、この知らせ。あまりにもやりきれないです。セドリックが髪も服も乱して伝えに来た描写が、どれだけ緊急で衝撃的な出来事か物語ってて苦しい。もう“会いたい人”には会えないんだって現実を突きつけられましたね……😢 ひよりさん、また胸を抉る回をありがとうございます。