テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
レオンは、しばらく動けなかった。
やっと。ようやく。あの手紙の真意を、父の口から直接聞けるかもしれなかったのに。
「……王妃の仕業だね」
ぽつりと落とした声に、セドリックは答えなかった。
ただ、無言のまま懐へ手を入れ、一つの小さな魔石を取り出す。
「王子様。こちらを」
手渡されたのは、親指ほどの大きさの魔石だった。青白く濁ったそれは、微かに波打つような魔力を帯びている。
「エレナが持ち出した映像魔石にございます」
「エレナは?」
「無事です。今は身を隠しております」
「……そう」
ほんの少しだけ、肩から力が抜けた。
「よかった」
魔石を受け取と、空中にぼんやりと映像が浮かび上がった。
激しく揺れる映像。
エレナが袖口か衣服の隙間に隠して、記録したのだろう。
映し出されたのは、国王の寝室だった。
ベッドの上には、生気のない父王が横たわっている。
その傍らで、王妃派の医師が薬湯の器へ白い粉を入れた。
さらに、別の紙包みを開き、黒ずんだ粉を混ぜる。
『睡眠草の濃縮粉に、魔力封じの薬まで……』
医師の手は震えていた。
『この量では、とても陛下のお身体が持ちません……!』
ひどく穏やかな女の声が響いた。映像に、その顔は映っていないが、聞き間違えるはずがなかった。
『……何か、勘違いなさっているようね?』
王妃カサンドラの声だ。医師の肩が、びくりと跳ねる。
『病人には、永遠に眠っていただきましょう。それとも……まだ何か言いたいことでも?』
『い、いえ……っ!』
映像が大きく乱れ、一度暗転する。次に映し出されたのは――。
「……っ」
白い布を顔にかけられた、物言わぬ父王の姿だった。 息をすることさえ忘れたように、その姿を見つめていた。
「……父上」
かすかな声が落ちる。
映像の中では、先ほどの医師が震える手で革袋を受け取っていた。
――チャリッ。金属音が鳴る。
おそらく、金貨が入っているのだろう。
革袋の表面には、黒百合をかたどった紋章。マレフィカ侯爵家のものだった。
『陛下の崩御は、くれぐれも当面の間は伏せておきなさい』
カサンドラは、何事もなかったかのように扇を仰いでいる。
『医師は、陛下のお身体に保存処置を』
『は……はい』
『それから』
傍らに控えていた書記官へ、視線を向ける。
『明朝の勅書朗読は、予定通りに執り行います』
『し、しかし……!』
書記官の声が震えた。
『陛下のご署名がないままでは……』
『心配はいりません』
扇を、ぱちりと閉じる。
『陛下も、ご病臥の間は、わたくしが政を預かることをお望みでしょう。王太子が成人するまで、この国には確かな導き手が必要ですもの』
『……は、はっ。承知いたしました』
『よろしい』
そこで、映像は、ぷつりと途切れた。
部屋に、重い沈黙が落ちる。
何も言えなかった。ただ、映像魔石を握る指先だけが、血の気を失って白い。
「……王子様」
かすれた声とともに、二つの小さな薬包紙が差し出された。
「こちらも、エレナが現場から持ち出したものにございます」
「これは……?」
「陛下の寝室の床に落ちていたものです。王妃派の医師が立ち去った直後、彼女が密かに拾い集めました」
二つの薬包紙。一方には、白い粉。もう一方には、黒ずんだ粒がわずかに残っている。しばらくそれを見つめていた。
「……父上を眠らせていた薬を……今度は、確実に仕留めるための量に変えたわけだね」
柊トワ
2,494
#ロマンスファンタジー
百はな🍑
658
#ロマンスファンタジー
Jasmine
749
#ギャップ
ひより
1,966
コメント
1件
うわ……これは重い。レオンが父王の真実を目の当たりにする瞬間、ただその場に立ち尽くすしかなかった心情がひしひしと伝わってきました。映像魔石という仕掛けで王妃の犯行を記録する展開、とても巧いですね。エレナが命がけで持ち出した証拠——睡眠草と魔力封じの薬の併用、金貨の入ったマレフィカ家の紋章入り革袋。すべてが有機的に繋がる。伏線が回収される快感と、知りたくなかった真実を知ってしまった痛みが同時に来る、素晴らしい構成でした。