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カフェのカウンター席、テーブルに置かれたカップからほのかな湯気が立ち上る
いつものようにコーヒー豆を挽(ひ)きながら、テーブル席の方に視線を向ける
シ《…楽しそう》
胸の奥がざわつく。ビターは誰にでも優しいから
{姉弟以上なんて、絶対にありえない}そう自分に言い聞かせる
けど、ふとした瞬間に見せる笑顔が、チクリと心に刺さる
言葉にできない想いを抱えたまま、視界の端でビターの動きをぼんやりと捉える
窓から差し込む柔らかい光が、カフェのテーブルを照らしている
ーー
シ「ねぇビター、今日は午後で店を閉めましょうか」
ビ「…どうしたの?体調悪い?」
シ「いえ、、」
ビ「本当?無理しないでね」
シ「…えぇ」
自分を心配する声に、ちょっと罪悪感が湧く
「本当はあなたと2人きりでいたい」なんて、言えるわけがない
ビターは人の気持ちを探るようなことはしないから、私が壁を作れば作るほど、少しづつ遠くなって行くような気がする
ーー
ビ「ショコラはもう休んでて?僕がコーヒー入れるから」
シ「ありがとう」
ビターがカウンターに向かってから、私は店の奥の居間にある部屋に向かった
そこにあるソファに腰を下ろし、考える
シ《このままでいいのかしら》
ビターが私のことを大切に思ってくれているのは分かってる
だからこそ、この気持ちを伝えたら、きっとあの子を困らせる
怖い。失いたくない。ビターに 嫌われたくない
ーー
室内にコーヒーの香りが漂(ただよ)う
ビターが差し出したカップを受け取った
シ「ありがとう、ビター」
少し、声が掠(かす)れた気がした
ビターは柔らかく微笑んで、何も言わずに隣に腰を下ろした
きっと、私にその気がないからこれだけ近くに居てくれるのね
そうよ、姉弟だもの
私なんて、眼中にないわよね
それとも、ビターは恋愛に興味がないだけかしら
シ《羨ましい…》
この先彼からの愛を1番近くで貰える誰かを少し憎んだ
考えれば考えるほど、答えは見つからない
ビ「ショコラ?」
隣からの呼び掛けにハッとした
シ「なに?」
ビ「…いや、なんでもない」
シ「、?」
そういえば、ビターは今の生活が楽しいって言ってたわね
きっと今の距離感がこの子にとってはいいのかもしれないわ
ビターが気づいていないのなら、気づかないままが1番なのかもしれない
ーー
昼過ぎ、ビターが常連のお客さんと話している
眉を下げ、優しく笑いかけている
シ「ビ….」
思わず呼びかけそうになるのを飲み込み、目をそらした
シ《…ビターって、好きな人いるのかしら》
ーー
シ「あの、相談があるのだけど」
ビ「ん?」
ビターは穏やかな目でこちらを見た
シ「…好きな人がいるの」
ビ「…」
私の言葉に、ビターが驚いたような顔をした
ビ「そうなんだ。どんな人?」
一瞬だけ目を見開いたけど、ビターはすぐ穏やかな顔に戻った
シ「それは_、…秘密」
そう言うと、ビターは優しく頷き
ビ「その人と上手くいくといいね」
と、言葉を紡いだ
ビターの顔は見れなかった
いや、見たくなかった
もし私がビターの立場なら、きっと泣いてしまう
心から応援なんてできない
でも、ビターからしたら、私に好きな人ができたことは祝福すべきことなのね
その現実が辛かった
ビ「ショコラ?」
いつの間にか俯いていた私の顔を覗き込むように、ビターが首を傾げた
ビ「どうしたの?」
心配したような顔、
シ「…いえ、失恋、しちゃったかも…」
ビ「、え?」
シ「私には気がないみたいで」
心配させないように笑顔をつくる
ビ「…」
ビ「..ショコラなら、大丈夫だよ」
ビ「きっと叶うよ、その恋」
シ「…ありがとう。ビター」
根拠の無い話でも、ビターが言うなら信じたいと思う
でも、今だけは、外れることが分かっている