あの後、ショコラは「ごめんなさい。今日の話は忘れてちょうだい」と言い残し、先に店を出ていってしまった
僕は店の鍵を閉めてから帰路についた
「失恋しちゃったかも」と声にするショコラの表情が、ずっと頭に残っている
ビ《僕ならそんな顔させないのに_…》
ショコラに好きな人がいる。でもその人はショコラに興味が無い
じゃあ、その好きな人って一体誰なんだろう
ビ「…はぁ」
無意識にため息が漏れる
ーー
ビターの沈んだ顔を見て、カカオが声をかけた
カ「どうしたんだい?兄さん。元気がないじゃないか」
ガーナも横からひょいっと覗き込んでくる
ガ「仕事でミスでもしたのかにゃ?それとも…恋?」
恋というワードに少し心臓が跳ねた
ビ「そ、そんなんじゃないよ」
否定するがたどたどしくなったビターの言葉に説得力はない
カカオは呆れたように息を吐いた
カ「兄さん、バレバレだよ。素直に言ったらどう?」
ビ「ぅ”….」
少し間を置いて、ビターは口を開いた
ビ「…..ショコラ、好きな人がいるんだって」
その言葉にカカオとガーナは顔を見合せた
カ「…あー、そうなんだ」
ガ「へぇ、好き…ねぇ」
何故か含みのある言い方をする2人にビターは首を傾げる
ビ「え、何その反応?」
カ「別に?ただ…ねぇガーナ?」
ガ「うん、ビターお兄ちゃんは気にしなくていいよ」
カ「そうそう。ただの雑談さ」
ビ「??」
何か言いたげな、でも言わない。そんな態度の2人にビターの頭の中にはハテナが増えていく
ガ「で、その好きな人って誰なの?」
ビ「……分からないんだ。でも…」
ビ「ショコラ、なんか….悲しそうだった」
カ「…….そりゃあね」
ガ「ビターお兄ちゃん鈍いから」
カ「ほんとそれ」
ビ「えっ、僕何かした?」
ガ「してないししてるかなぁ」
カ「そのうち分かるさ」
2人に言われてもピンとこなくて僕は視線を落とした
ビ《何も分かっていないのは僕だけなのかな》
もし、僕のせいで辛い思いをさせてるなら、僕なんて居ない方がいいのかも
そんな極端な言葉が胸を掠(かす)めて、僕は小さく目を閉じた
ーー
帰り際、ガーナが僕に声をかけてきた
ガ「ねぇビターお兄ちゃん。私たち、お姉ちゃんのことよく知ってるから分かるけど」
ガ「恋ってさ、すごく分かりずらい形で表れるんだよ。特に…お姉ちゃんみたいなタイプはね」
カ「本人は隠してるつもりでも周りにはバレてるのにね」
2人が僕に何かを伝えようとしてくれてるのは分かってる。でもその意味が掴めなかった
ビ「……僕には、よく分からないよ」
カ「だろうね。自分が当事者だと余計に」
ビ「…?、当事者…?」
ガーナはまるで言い過ぎたとでも言うように慌てて笑顔を作った
ガ「ううん、なんでもないよ!気にしないで!」
ビ「…?」
意味は分からなかったけど、きっとこの子たちなりに元気を出させようとしてくれたんだよね
2人を見送ってから、僕は店の中に戻った
ーー
そしてまた、ショコラの俯いた顔が思い浮かぶ
ーー私には、気がないみたいで
辛いのはショコラなのに、僕がうだうだしてたらダメじゃないか
拳に力を入れ、俯いた時
スマホの着信音が鳴った
ビ「?」
カカオからLINEがきている
〚兄さん。姉さんを泣かせたらダメだから〛
ビ《….僕、泣かせてる…の?》
するともう1着、僕の心を読んだかのように
着信がきた
〚”泣く寸前”なら、何回も見てるからね〛
僕が、ショコラに、そんな顔をさせていた…?
その事実が、ゆっくりと僕の胸を締め付けた
ーー
僕は、ショコラの何を見ていたんだろう
帰り道の夜風が、いつもより冷たく感じた
ショコラの好きな人って誰なんだろ、僕は知りたいの?知りたくないの?
どちらも答えられなくて、自分が情けないくて、足が止まってしまう
ーー
ビターはいつも通りカフェの準備をしていたが、その動きはどこかぎこちなかった
ショコラは変わらずに淡々と仕事をこなしている
表情も変わらない
気まずいわけじゃない
なのに、以前のように話せない
ショコラはきっと、好きな人のことで悩んでいる。僕は彼女を支えてあげないといけないのに
今日はずっとそのことばかり考えていた
ーー
閉店後
片付けが終わり、静かな店内にコトっとわずかな音が響く
ビ「…ショコラ?大丈夫?」
なるべくいつも通り、穏やかに声をかけると
ショコラは一瞬だけ振り返ってすぐに目を逸らした
シ「…えぇ。大丈夫よ」
その声に、胸がぎゅっとつまる
ビ《これ…泣く寸前、なのかな》
ショコラの肩が、一瞬震えた気がした
踏み込んでいいのかな、僕は家族だから、姉弟だから、ショコラが辛いなら、寄り添いたい
__あれ、それなら、ショコラの恋を、応援してあげないと
何故か、ガーナの言葉を思い出した
ーーそれとも…恋?
ビ《…あれ、僕って、…ショコラのこと、好、き?》
心臓がドクリと跳ねた
その瞬間、自分の内側で何かが形を持った気がした
ーー
ビ《僕、ショコラのことが…》
その先の言葉を、どうしても出せなかった
でももう分かってしまった
気づきたくなかったのに、気づいてしまった
好きなんだ。ずっと前から
そう思った瞬間息が苦しくなる
ショコラには好きな人がいるから、この気持ちは伝えられない
それに僕たちは姉弟だ。恋愛感情なんて持ったらダメなんだ
カカオが言っていた
ーー泣く寸前を何回も見た
僕は、自分の好きな人の苦しみに気づかず、
隣で平然と笑っていた
最低だ
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