テラーノベル
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その大規模な宇宙船の軍団は、地球から見て月の裏側に出現した。そのため、地球上では誰も、まだ存在に気づいてすらいなかった。
光速を越えて異次元空間のゲートから、戦闘用宇宙船を中心とする50隻もの大艦隊が今、地球を征服するべく集結しつつあった。
その旗艦であるひときわ巨大な宇宙戦艦の作戦会議室で、地球文明をはるかに凌駕する超先進文明を誇るヒューマノイド型の宇宙人たちが、侵攻開始前の最後の作戦会議を始めた。
地球人とほとんど体形は同じだが、肌や髪の色が違う数人の将軍たちが、過去に地球に送り込んだ無人偵察装置の記録を、テーブル上の空間に立体映像で表示させた。
青い肌に銀色の髪を持つ、最高指揮官の艦隊提督が話を始めた。
「この恒星系の第3惑星は、大気の主成分が窒素と酸素。二酸化炭素の濃度が多少濃いようだが、特に問題はない。恒星との距離も程よく、水が液体のまま存在可能な表面温度。我々の母星と極めて酷似した環境だ」
肌も髪も瞳も燃える様に真っ赤な女性の、地球人なら三十代といった見た目の、別の指揮官が呆れた口調で言った。
「それにしても、銀河系のこんな端っこの辺境に、まだ未発見の知的生命体の棲む惑星があったとは、驚きですわ。我がインベリウム連邦の植民地がまた一つ増える」
その時、通信監視部隊から、地球の遠距離通信電波らしき信号を捉えたという報告があった。立体映像を投射させてみると、動画が映った。数分それを眺めた宇宙艦隊の指揮官たちは、思わず失笑を漏らした。
緑色の肌と金色の瞳を持つ、地上侵攻連隊の指揮官が可笑しそうに言った。
「どうやら、この惑星の原住民同士の戦闘記録らしい。過去の無人偵察装置の記録と照らし合わせると、比較的最近の戦闘のようです」
映像の中に、プロペラ機の一団が現れた。どうやら戦闘用の機体らしく、胴体の下に吊るした爆弾を地上に落下させ、その後高度を落として機銃で地上に弾丸の連射を行った。地上で逃げ惑う大勢の地球人の姿が大写しになった。
「空気抵抗で飛ぶ航空機だと! わはは、まだこんな物しか使えないのか? こんな航空機は古代文明博物館でしか見た事がない。なんという原始的な文明だ」
緑色の肌の指揮官が、腹をおさえながら爆笑気味に言った。最高指揮官と同じ種族らしい、別の指揮官も同調して笑い声を立てた。
「それにあの武器。あれは窒素と炭素を主体とする化合物を、酸素と結合させて、化学反応で目標を破壊する物だ。反物質でもなく、高エネルギーレーザービームでもなく、化学燃焼とは!」
テーブルについている指揮官全員が高らかに笑い声を上げた。地球の地上制圧にあたる予定の緑色の肌の指揮官が、笑いに息を詰まらせながら最高指揮官に告げた。
「提督閣下。この征服作戦はもう成功したも同然ですぞ。まさか、ここまで原始的な文明の惑星とは思っておりませんでした」
地球征服の後、原住民の支配を担当する予定の赤い肌と髪の女性指揮官が、たしなめるような口調になって言った。
「お言葉ですが、その程度の文明だからこそ、支配下に置く価値もあるのです。洞穴に住んでいる原始人では、我が連邦の製品の市場に成り得ませんからね。それに、この文明の程度であれば、重水素や三重水素などの資源は手つかずのまま放置されているでしょう。我が連邦の資源開発にとっても、未開拓の有望な惑星ですわ」
緑色の肌の指揮官は、はやる気持ちを抑えきれないという表情で提督に進言した。
「提督閣下。我が部隊にただちに進軍をお命じ下さい。我々の科学力をもってすれば、あの惑星の全土を占領するのに、この惑星の時間単位で言えば、三日とはかかりますまい」
だが、最高指揮官である青い肌の提督はあくまで慎重だった。彼はこう言って一旦作戦会議を終了した。
「気持ちは分かるがあわてる必要もなかろう。この原住民の戦闘記録を全て収集し、分析する事にする。当面全艦隊はこの衛星の陰で待機。あの惑星の原住民に艦隊の存在を察知されないよう注意せよ。以上だ、解散」
そして地球の時間単位でほぼ一日が過ぎた頃、宇宙艦隊の旗艦の作戦会議室に、再び指揮官たちが集合した。青い肌の提督は、用意してあった地球の動画の戦闘シーンだけを編集した立体映像を、テーブルの上に投射させながら、重々しい口調で他の指揮官たちに告げた。
「あの惑星の原住民に関して、予想外の情報が確認された。まず、これを見たまえ」
映像の中で、古ぼけた小銃を構えた初老とおぼしき兵士が、はるか高空を飛ぶプロペラ式戦闘機に狙いを定めていた。その兵士が引き金を引くと、一瞬の後戦闘機が炎に包まれ、黒煙を引きながら地面に墜落し、爆発炎上した。
「馬鹿な!」
地上侵攻担当の緑色の肌の指揮官が、驚愕のあまり叫んだ。
「あれは火薬とか言う化学燃焼を利用したエネルギーで金属の塊を飛ばすという、古代の原始的な武器のはず。あの距離で、いかに原始的とはいえ、航空機を撃ち落とすなど、あり得ない」
狼狽の様子を隠せない彼は、はっと思いついて壁際に並んで座っている将校の一人に尋ねた。
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「君、あの惑星の大気の密度はどうなっている? 我々の母星より大気が薄いのではないか?」
その将校は、手首にはめたリング状の装置で立体映像のデータを確認しながら答えた。
「大気の密度は全く同じはずです。惑星表面の場所により、多少の差はありますが、全て誤差の範囲内。これはニュートリノ振動波レーダーで直接観測して確認しております」
指揮官たちは昨日とは打って変って、警戒感を露わにした表情でお互いに顔を見合わせた。最高指揮官である提督が次のシーンを表示した。
頭部の毛髪が全くない、宗教指導者と推測される老人を取り囲むように、若い惑星の原住民の一団が現れた。彼らは高い切り立った崖の下に、速足で集合した。崖の上には、彼らと戦争状態にある側の、武装した原住民の兵士のキャンプがある。
崖の下の原住民の一団は、そのまま垂直に宙に飛び上がり、敵のキャンプに突入。ライフル銃を撃ちまくる敵兵に突進し、素手で相手の体を縦に真っ二つに引き裂いた。
「この惑星の重力の強さはどうなっている?」
赤い肌の女性指揮官が自分付きの将校に問いただした。
「自分の身長の十倍以上の高さにまで、跳躍できる知的生命体など聞いた事もないわ。この惑星の重力はひどく弱いのではないのか?」
だが、その将校も手首の装置から映し出されるデータを見ながら、冷静に答えた。
「いえ、これも直接観測しております。重力の強さは、我々の母星と同じ。むしろ、0.001パーセント程ですが、強いと観測されております」
緑色の肌の指揮官が口をはさんだ。
「原住民の肉体の構成要素はどうなっている? 素手で同種族の肉体を引き裂くなど、哺乳類であれば不可能なはずだ。ひょっとして、やつらの肉体は極めてもろい物質で構成されているのではないか?」
その将校は、小刻みに首を横に振りながら答えた。
「無人偵察装置の情報によれば、肉体の構成要素の大半はアミノ酸の多重結合有機物。つまり我々がタンパク質と呼んでいる物と同じです。骨格の主成分はカルシウム。肉体のエネルギー源は主に炭水化物と大気中の酸素。つまり……」
その将校は言いにくそうな表で結論を述べた。
「我々の肉体と、全くと言っていいほど、同一の構成であります、閣下」
青い肌の提督がまた画像を表示した。原始的な建造物の二階で、敵対する一方のグループの原住民の一団が集まって食事をしている光景のようだった。二本一組の細長い棒で食物をはさんで口に運んでいる。
窓の外の樹木の枝に、敵兵らしい原住民が一人潜んでいた。どうやら部屋の奥の席に座った年老いた個体を狙撃しようとしているようだ。バンという発砲音がして、弾丸がその老人めがけて宙を飛ぶ。
その時、同席していた比較的若い兵士が、手に持っていた食事用の二本の細い棒で、その弾丸を空中でつまんで止めた。その棒は金属で出来ているらしく、弾丸をつまんだ瞬間火花が散った。
食事の席についていた一団が大声を上げて身を伏せる。食事用の棒で弾丸を止めた兵士がずんぐりと短く小さな銃で窓の外の敵の狙撃兵を撃ち落とした。
宇宙船の会議室では、指揮官たちがもはや恐怖に満ちた表情になって、青い肌の提督に語りかけた。
「閣下。信じられません。この惑星は超人的な戦闘民族の生息する惑星なのでしょうか?」
緑色の肌の指揮官がかすかに震える声で言う。赤い肌の女性指揮官が、沈痛な表情で誰にともなくつぶやいた。
「たとえ、この惑星を軍事力で制圧したとしても、原住民が服従せずに抵抗運動を続けたら、こちらの被害の方が大きくなる。ループス星系の時がまさしくそうでしたわ。原住民の執拗なゲリラ攻撃で我が方に甚大な被害が出続け、結局我が連邦は直接支配を断念した」
その後を引き継ぐように、青い肌の提督がおごそかな口調で言った。
「ループス星系の原住民でさえ、ここまでの肉体的戦闘能力は持っていなかった。もしこの惑星の原住民が全て、このような戦闘能力の持ち主であるなら、奴隷として支配下に置くのはかえって危険だ。そして、これが最後の映像だ」
画像には、広大な草原で轟音を立てて走る、大きな筒のような物体を上部に乗せた、原始的な車両が、百台ほど映っていた。緑色の肌の指揮官がつぶやいた。だが、もう笑ってはいなかった。
「古代の戦車だな。では、外部装甲は鉄か?」
百台の戦車の進行方向のはるか向こうには、ライフルと握りこぶし程の大きさの金属の塊を手にした、敵対勢力側の原住民の一団がいた。彼らは、一斉に手にした金属の塊を戦車隊にむかって放擲した。
その金属の塊は、1キロメートルの距離を軽々と飛翔し、戦車の装甲を突き破って次々と爆発し、戦車を擱座させた。
「携帯型小型爆弾か。古代の手りゅう弾のような物らしいな」
緑色の肌の指揮官がつぶやいた。それから原住民の一団は、おのおのライフル一丁だけを手に、推定時速100キロの速度で戦車隊に突撃し、その原始的な火器と両手両足の力だけで、敵兵を全滅させた。
戦車隊の援護に来たのであろう、プロペラ式の戦闘機は、原住民が素手で投げた、長い木の棒の先に金属の尖った刃がついている武器で次々に撃ち落とされた。
映像が終わった時、指揮官の全員が口を利く気力すら失っていた。青い肌の提督が重々しい口調でみなに告げた。
「この惑星の征服計画は、中止する」
赤い肌の女性指揮官が思わず甲高い声を上げた。
「よろしいのですか? ここまで周到に準備してきた計画を」
提督は思い詰めた表情で答えた。
「私は一つの仮説を立てた。この惑星の原住民は、強化人間ではないだろうか?」
「そんな馬鹿な!」
緑色の肌の指揮官がいきり立って反論する。
「銀河系最高の科学技術を持つ、我がインベリウム連邦でさえ、強化人間の開発には未だ成功しておりません。あり得ない事と思われますが?」
「我々より先に、この惑星に到達し、原住民に強化人間のテクノロジーを与えた恒星間勢力がいたとしたらどうだ?」
提督のその言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。赤い肌の女性指揮官が絞り出すような声でつぶやいた。
「我が連邦のライバル、ヴェネフィクス星間同盟。確かに、未開の原住民への技術供与を通じて支配権を拡大するという手法は、奴らの常套手段ですわ」
提督は大きくうなずき、言葉を続けた。
「そもそも最初からヴェネフィクス星間同盟が仕掛けた罠なのかもしれん。我々の軍事力をもってすれば、この惑星を征服し原住民を形式的に支配する事は容易だろう。だが、強化人間であるこの惑星の原住民との長期のゲリラ戦に引きずり込まれ、疲弊したところでヴェネフィクスの宇宙艦隊の襲撃を受けたら、どうなると思うかね」
指揮官たちは、音を立てて息を呑んだ。その様子を見届けて、提督は宣言した。
「征服計画は中止。我が艦隊はただちに帰還する。それから、連邦最高指導部には私から進言しておこう。この恒星系は不可触エリアと認定し、以後一切手を出してはならない、と」
月の裏側で、宇宙からの侵略者の艦隊が次々に異次元空間ゲートの向こうに去っている時、中華人民共和国の大都市、上海で、蒸し暑い夏の夕暮れの中、中年の男二人がレストランの席に着いた。
コース料理を注文した二人は、ビールのジョッキを傾けながら、久々の再開を喜び合った。やせ気味の男が、もう一人の太り気味の男に言った。
「民間企業の景気はどうだい? 理財商品を扱っていると言ってたよな」
「いや、苦労しているよ。この国じゃ何から何まで国有企業が優先だからな。資金繰りが綱渡りの連続だ。中央電視台に就職できたおまえがうらやましいよ」
「いやいや、テレビ局だって楽じゃないんだぜ」
「何を贅沢な事を言ってる? 大学時代から映像作家目指してたんだから、夢がかなって万々歳のはずだろ。しかしだな、ひとつだけ文句を言わせろよ」
「え? 何だい?」
「あの毎年の抗日戦争ドラマ、いいかげん何とかならんのか? 素手で日本兵の体引き裂くだの、槍でゼロ戦を撃ち落とすだの、荒唐無稽過ぎるだろ。うちの子供だって見向きもしないで、日本製のアニメばかり見てるぞ。愛国心発揚には逆効果じゃないのか?」
「そう言われてもなあ。俺の立場じゃどうにもできないよ」
「おまえ、今年の抗日戦争ドラマのプロデューサーだろ。最後のロールで名前見たぞ。あんな物作るヒマと金があるなら、もっと環境汚染とか貧富の差とか、描くべき題材があるだろ?」
「よしてくれよ。そんなモン扱ったドラマや映画、検閲に引っかかるに決まってるだろ。よくてクビ、下手すりゃ収容所行きだよ」
「今どき収容所はないと思うけどな。CGとかのレベルはすごく高いんだから、もっとましな事に使ってくれよ」
太り気味の男がトイレで中座している間、その中国のテレビマンは夕暮れの外を見つめながら、ため息まじりにつぶやいた。
「そうだよなあ。あんなテレビドラマいくら作ったって、何の役にも立たないよなあ」
誰も知らぬまま宇宙艦隊が去った今、その事実は人類の歴史に残る事はなかった。中華人民共和国のテレビマンたちこそが、この地球を恐るべき宇宙人の侵略から救った、救世主、いや救星主とでも呼ぶべき、人類の英雄であった、という事実は。
コメント
3件
読み終えたわ!これ、めっちゃ面白かった!最初は宇宙人の視点から地球を下に見てる感じが「おいおい」って思ったけど、映像を見てどんどん恐怖に変わっていく様子が笑えたw 特に「食事用の箸で弾丸を止める」とか「槍で戦闘機落とす」とか、地球人からしたらただの荒唐無稽な抗日ドラマが、宇宙人には超戦闘民族の証拠に見えるって皮肉が効いてて最高。最後のオチも「なるほどなー」って膝打ったわ。短いけど構成がしっかりしてて、読み終わった後の爽快感がすごい!続きが気になるっつーか、これで完結なのかな?