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「――このっ、何回ヤれば気が済むんだ!」
火照った身体をベッドに横たえ、理人は隣でゆったりと煙草を燻らせている男をキッと睨みつけた。 瀬名は素っ裸のまま、均整の取れたしなやかな上半身を惜しげもなく晒している。男から見ても惚れ惚れするほど、無駄のない筋肉のラインだ。
「すみません。止まらなかったもので……」
「たく、高校生じゃあるまいし。限度を考えろ」
「でも、部長だって悦んで、いやらしく腰をくねらせてたじゃないですか」
「うるせぇ。黙れ」
理人は枕を掴むと、瀬名の顔面に思い切り投げつけた。
「痛っ、酷いなぁ……」
「お前が余計なことを言うからだろ」
気だるげにうつ伏せになり、理人は髪を掻き上げて溜息をつく。
「まだ動けないんですか?」
「当たり前だ。どんだけ出したと思ってるんだ」
「いやぁ、若くてすみません」
「……喧嘩売ってんのか?」
ギロリと睨めば、瀬名は「冗談ですよ」と苦笑いを浮かべた。本当に食えない奴だ。
(……運命、ね)
ふと思い出した。瀬名が最初に言っていた言葉。 自分に出会ったのは運命だと――あれは、どういう意味だったのか。 たまたま店で出会い、一夜を共にしただけの関係。それが同じ会社の新入社員として現れたことを「運命」と呼ぶのは、些か大袈裟ではないか。
「なあ」
ぽつりと、理人は問いを落とした。
「お前、なんであの時『運命の出会い』なんて言ったんだ? 俺は運命なんざ信じねぇし、愛だの恋だの面倒くせぇと思ってる。誰とヤったって大差ねぇだろ……納得のいく説明をしろ」
理人の言葉に、瀬名はわずかに目を見開いた。 何かを思案するように黙り込み、灰皿でゆっくりと煙草の火を消すと、理人の方へ向き直った。
「……前の職場で、部長の書いた技術資料を読んだことがあるんです」
「俺の……?」
「はい。GPSを使った防犯技術のレポート。――《セーフリンク・パーソナルタグ》の試作時のものです。初めて目にしたとき、すごくワクワクしました」
「……あぁ」
セーフリンク・パーソナルタグ。それは、いまや社内一番のヒット商品になりつつある理人の自信作だった。
「数値の使い方、ロジックの構成、導き出される結論……どれも筋が通っていて、圧倒的な説得力があった。誰でも安心して使えるようにするという新しい視点に、本当に感動したんです」
淡々とした口調だが、言葉の端々に熱が宿っている。 褒められ慣れていない理人は、無意識に視線を逸らした。
「だから、ぜひこの人のもとで働きたいと思った。部長の下なら、もっと成長できると確信したんです。……まさか、転職する前日に思いがけず本人に会ってしまうなんて。しかも、あんなに積極的に仕掛けてきた相手が、憧れていたその人だったなんて……」
「……」
「だから、会社で貴方を見た瞬間に思ったんです。これはきっと、神様がくれたチャンスなんだって」
一切の冗談めかした色のない、真剣な声音。 理人は無意識に息を止めていた。瀬名の指先が、そっと理人の頬の輪郭をなぞる。
「まだ一緒に働いて二週間足らずですけど、僕は貴方に惹かれてる。真面目で、仕事に妥協を許さない部長を尊敬しています。僕には、絶対真似できないことだから……」
「……っ」
胸の奥を鋭く突かれたような感覚。 顔が熱い。心臓がバカみたいに跳ねている。 こんなふうに、真正面から「存在そのもの」を肯定されたのは――生まれて初めてだった。
「あれ? 照れてるんですか?」
「……うるさい。黙れ……」
布団に頭まで潜って答えると、瀬名はクスリと笑い、上掛けごと理人を抱きしめた。
「……好きですよ。部長」
耳元で囁かれた一言に、体温が一気に跳ね上がる。 理人は布団の中で舌打ちをひとつ落とすと、突っぱねるように背を向けた。
「っ……知らん。もう寝る!」
「じゃあ、せめて……おやすみのキスくらいは」
「はぁ!? ――やめっ」
否定を遮るように、首筋へ熱い唇が触れた。 チュッ、と強めに吸われ、理人の肩がビクリと震える。
「……やっぱり、可愛い反応しますね」
艶っぽい低音に、背筋がゾクリと震えた。 熱がじわじわと体の奥まで染み込んでいく。 やがて、腰を撫でる手が、ゆっくりと、拒絶を許さない速度で下へと滑っていった――。
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