部活中の3対3。
木葉さんからのレシーブを木兎さんへ届けるためトスをあげる。
ボールを押し出した反動で体が後ろに傾く。
あ やばい
足に上手く力が入らなくてそのまま後ろに吹っ飛ばされた。
なんだっけこういうの、えっと あれだ。物理でやったやつ、反作用?
そのまま背中から床へと叩きつけられたが大した怪我はなかったようだ。
どうせなら頭でも打って気絶出来たら良かったのに。
「思いっきり吹っ飛んだ割には酷い怪我じゃなくて良かったな。」
手当をしてくれた木葉さんに言われた。
「でも後から痣とかになっかな…」
「ありがとうございました。もう大丈夫なんで戻ります。」
「まぁまぁ、どうせ今日も自主練すんだろ?体力温存のためにもちょっと休憩してけよ。」
木葉さんはポンポンと椅子を叩いて座るように促した。
「赤葦、最近ちゃんと寝てる?」
「え…と、前よりは眠れてないですけど 大丈夫です。」
「大丈夫じゃねぇだろ。お前あんな軽いボールに負けたくせに!」
痛いところを突いてくるな、木葉さん
「無理に聞き出そうってわけじゃねえけど、キャプテンに探り入れてこいって言われちゃってさ」
「木兎さんに?」
「そうそう。体調悪いんなら早く帰れよ。」
「…体調は大丈夫です。ただちょっと寝不足続きだっただけなので」
迷惑かけてすみません と言い残し俺は練習に戻った。
自分の体調管理ができてないせいで周りに迷惑かけるなんて出来ない。
そのためには寝ないと。
いつもより早く布団に入ってみたけど眠れそうにない。
ものすごく疲れてるはずなのに眠いはずなのに眠れない。
俺は昔とあることがきっかけで不眠症になったことがある。
あの時は病院に通って睡眠薬飲んでたっけ…
病院…行った方がいいのかな。
結局、今日も眠れたのは1時間ほどだった。
「ラスト1本!」
「木兎さん!」
何度目かのラスト1本を上げた時にまた体がふらついた。
今回は倒れることは無かったけどそれを木兎さんは見逃さなかった。
「ごめん赤葦、無理させてた?」
「そんなことないですよ。大丈夫です。」
「嘘だ。最近顔色悪いしくまも酷いよ?」
そんなに酷い顔をしていたのだろうか。
見られたくないなと思い俯きながら答えた。
「…..大丈夫、です。」
「俺じゃ頼りになんないかもだけど相談に乗るくらいできるし、俺以外でもいいから…」
悲しそうに言う声を聞き顔を上げて木兎さんを見る。
心配してくれてるのも頼ってくれなくて悲しいっていうのも全部顔に出てる。
「すみません、じゃあ話聞いてくれますか?」
俺、昔…中学の頃なんですけど、
正夢ばっか見る時期があったんです。
正夢って言っても返却されるテストの点数とか夕飯のメニューとかちょっとした事がほとんどなんですけど、
ある日友達が事故に遭う夢を見たんです。
今でもはっきり覚えてる…友達が自転車に乗っててバスと衝突する夢でした。
当たるわけない、そう思いながらも心配だったのでその友達に夢のことを話して
自転車に乗らないで欲しい、バスに気をつけて欲しい、できれば外出しないで欲しいと伝えました。
でも信じていなかったのか忘れていたのかそいつは自転車に乗って出かけた帰り道、バスに轢かれました。
正夢だったんです。
直ぐにお見舞いに行きました。
友達は俺の顔を見るなり「お前のせいだ!お前が変なこと言ったから!お前が呪ったんだろ?」って言ってききたんです。
それで お前の顔なんて見たくないって言わて、もう帰るしかないじゃないですか。
仕方なく帰って落ち着いたらまた話しに行こうなんて思ってました。
その日から俺は眠れなくなりました。
正夢を見るかもしれない、俺が正夢を見たせいで友達が事故にあったんだって思って気づいたら寝るのが怖くなって…
親に連れていかれた病院で不眠症と言われ睡眠薬を処方されました。
それから時間はかかったけど薬なしでも寝れるようにはなったんです。
でも結局 その友達は怪我が原因で部活をやめて話す機会も無くなって卒業まで目も合わせて貰えませんでした。
「そんなことが…..それと今赤葦が体調悪いのは関係あるの?」
「原因は違いますが今も不眠症のような症状が続いてて、それで少し体調を崩しているんだと思います。」
「原因…わかってるの?何?それは俺にどうにかできること?」
「正夢とは少し違うんですけど何度も同じような夢を見るんです…」
今より背が高い、多分未来の木兎さんがいるんです。
それで、俺と木兎さんの彼女が同時に崖から落ちそうになってたり溺れそうになってたりシチュエーションは様々ですが死にそうな状況下にいるんです。
そこで毎回木兎さんは彼女を助けた後俺に向かってこう言うんです。
『もう同じチームでもないのに相棒ズラして隣にいられると思ってんの?図々しい奴』って。
「そんな夢を立て続けに見てるうちに気づいたら寝れなくなってしまって」
「…つまり俺が原因?ってことか!」
「いや、これは木兎さんだけど木兎さんじゃないというか あなたのせいでは無いです。」
「でも夢にまで見るって赤葦ってば俺の事好きだったりする?」
木兎さんが原因ということを否定したがそんなことお構い無しに話し出した。
「あれ?でも逆か!夢に出る方が好きなんだっけ?」
「そんな話もありますね。」
「じゃあ俺が赤葦のこと超好きって事だな!」
1人で納得している様子の木兎さん。
相談してとか言っておきながら解決する気があるのだろうか…
「うーん、まぁ寝れないなら色々試してみるしかないよな!よし、お前今日から泊まりに来い!」
突拍子も無い木兎さんの提案で木兎さんの家にしばらく泊まることになった。
1日目・恋バナ
「よし!赤葦!恋バナするぞ、恋バナ!」
少し…いやかなりよく分からないことを言い出したなとは思うけど協力してもらっている手前文句は言えない。
「それにはどういった効果が?」
「修学旅行とかでするじゃん、そんで気づいたら寝てるだろ?話してたら寝れるんじゃないかな〜って」
「はぁ…」
「あっもしかして赤葦好きな人いない?じゃあ適当にでもいいから!」
いないとは言ってないけどまぁいいか…てか、木兎さんはいるのかな
「じゃあ木兎さんの好きな人の事、教えてくださいよ」
「いーぜ?まず…」
数分後。
木兎さんは自分の好きな人の特徴話しながら寝てしまったようだ。
一体誰なんだろう…背が高くて、綺麗系で、落ち着いてて、よく食べるけどスタイル良くて、頭がいいだったっけ?
木兎さんの好みは清楚系だったのか。
特徴に巨乳が含まれてないのは意外だったな。
…眠くなるどころか気になる一方じゃないか?これ…
翌朝。
「おはようございます、木兎さん」
「はよ…赤葦寝れた?ずっと起きてたの?」
「いえ、1時間は寝れたと思います。」
とりあえず朝練に遅刻しないよう2人で支度をして学校へと向かった。
2日目・ホットアイマスク
「へぇ…お前木兎ん家泊まってんの?これやるよ。早く眠れるようになるといいな!」
と木葉さんから頂いた温かいアイマスクをして今日は寝てみることにした。
「どう?あかーし、眠れそう?」
「疲れは取れてる気がしますけど眠れるかはわかりませんね…」
翌朝、結局 結果は昨夜と同じだった。
3日目・入眠BGM
「小見やんから聞いたんだけど、スマホで眠くなる音楽が聴けるんだって!リンク送ってもらったから聴いてみようぜ!」
「色んな先輩方に協力してもらって申し訳ないですね…」
「気にすんなってほら、流すから横になって!」
確かにこれはちょっと寝れそう…って木兎さんもう寝てる!?凄いな、寝付きも寝起きもいいとかさすがはスターだなぁ。
結果は2時半時頃寝付いて4時に目覚めたから1時間半くらいだった。
でも眠りに着けたのがいつもより早かったので効果はあったかもしれない。
4日目・アロマ
「姉ちゃんがアロマスプレー貸してくれたから枕につけてみて!」
ついには木兎さんのお姉さんにまで迷惑かけるなんて…
もしかして早く治して出てけって意味…?そりゃ自分の家に他人がずっと居たら嫌だよな…
「あっ赤葦、気にすんなよ?姉ちゃん 弟が増えたみたいで楽しいって言ってたし!」
「ありがとうございます…本当に助かりますって伝えといてください」
枕にラベンダーの香りのスプレーをかけてから布団に入った。
目が覚めた時、ラベンダーの香りがして久々に気持ちのいい朝だななんて思った…まあ、まだ外は暗いけど。
昨日より若干…五分くらいは長く眠れたかな。
5日目・マッサージ
「今日は俺がマッサージをしてやろう!手貸して!」
「マッサージですか…よろしくお願いします。」
「おう!前から思ってたけど赤葦って手キレイだよな…」
自分よりも温かい木兎さんの手に握られた。
「…..セッターですので?」
木兎さんのマッサージはすごく上手だった。
『もう同じチームでもないのに相棒ズラして隣にいられると思ってんの?図々しい奴』
待って、木兎さん…置いていかないで、お願い…木兎さん…
「赤葦!」
「…!木兎さん?」
気づいたら眠っていたようだ。
「ごめん寝てたから起こさない方がいいのかもって思ったけど凄いうなされてたから」
「ありがとうございます。怖い夢見てたので、助かりました。」
今の時間は…
木兎さんのマッサージのおかげか今日は3時間ほど眠れた。
その代わりにあの夢を見てしまったけど…
6日目・添い寝
「なんですか、これは」
「添い寝してやろうかなって!」
今までは少し間が開けてあった敷布団の間がなくなっていた。
「赤葦、どう?寝れそう?…なぁ、大丈夫?」
「あっすみません。なんか昨日あの夢を見たせいで寝ようとすればするほど思い出してしまって…」
木兎さんの好きな人の話を聞いたからか背が高くてスタイルのいい清楚系になった彼女と俺が死にかけてて木兎さんは迷わず彼女を選んだ。
そしてまたあの言葉を言ったんだ。
「その夢の事だけどさ、俺ちょっと考えてみたの。多分それ正夢じゃない?」
「は…?何言って…」
「まず赤葦はなんでそんな夢見るようになったか心当たりある?」
心当たり…木兎さんが3年生になって引退のこととか考えるようになった頃からだから…
「赤葦、俺が引退しちゃうのが寂しいんだろ?…図星だ、その顔」
言い返せない俺に木兎さんは続けた。
「でね、俺が赤葦のこと好きだから夢に出てるとして、彼女の方を助けるのは赤葦に彼女になって欲しいって意味だな!」
「え…?」
「ただ、赤葦の夢の中の俺ツンデレなのか酷いこと言うみたいだけど、『同じチームじゃなくたって相棒としてだけじゃなくて隣にいて欲しい。』って意味なんじゃないかな〜って、赤葦ちゃんと聞いてる?」
どうして木兎さんが俺のこと好きって前提な話なんだ?とかわかんないことが多すぎてついていけない。
「えっと、意味がよく分からないんですけど…」
「タンテキにいうと俺が赤葦のこと好きだから付き合って欲しいって言ってんの!…タンテキの使いかたあってた?」
「あってます…」
「今すぐにとはいわないからさ、明日までに返事考えといて!じゃ、おやすみ!」
「ちょっと木兎さん…」
寝やがった…言いたいことだけ言って寝るなよ、このアホミミズク…
意味わかんないし、俺告白された?
こんなん考えてたら余計眠れないじゃないか…
久しぶりに聞いた目覚ましの音で目が覚めた。時刻は6時。
あれ、てことは
「木兎さん!俺、5時間半も眠れました!」
「すげぇ、良かったな!でも何やってもダメだったのに木兎さんの添い寝で眠れたとか、赤葦俺のこと好きなんじゃ…」
顔が赤くなるのを感じる。
「…昨日言ったやつ返事は今日中だからちゃんと考えとけよ、赤葦!」
7日目・???
「あの、木兎さん…返事のこと、なんですけど…」
あんな夢見る時点でわかっていた。
ずっと前から、あなたのことが
「好きです。…俺も」
「…!じゃあ付き合ってくれる…?」
こくりと頷き抱きついた。
温かくて落ち着く。
「なんだか今日はよく眠れそうな気がします。」
「じゃあ早く寝るか!」
昨日と同じく間のない敷布団。
布団に入ったあと木兎さんが言った。
「そういえば昨日言い忘れたけど、俺 2人とも助けられないほど弱くないから!これからの赤葦もこれまでの赤葦も全部俺が連れてってあげるから!」
「…それは楽しみですね。おやすみなさい、木兎さん。」
すごい幸せな夢を見た。
正夢だったらいいなって願うような
木兎さんとの未来の夢だった。
「赤葦〜朝だぞ〜…すっげぇ幸せそうに寝てる…特別にもうちょっとだけ寝させてやるか!」
end.
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