テラーノベル
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それから一週間後のことだ。シャーリーは日課の鍛錬を終え、その足でギルドへと向かっていた。
仕事を探している訳ではなく、シャロンの言っていた指名依頼の確認のためである。
ギルドに顔を出すと、見たことがある冒険者のパーティに声をかけられた。
「ようシャーリー。聞いたぜ? フィリップのヤツ死んだんだって? 残念だったな」
フルプレートに大盾を携えた大男。その脇にいるのはパーティメンバーの魔術系の女性が一人と槍を携えた青年の三人パーティ。
「今度は俺たちと組まねぇか? お前がいればダンジョン依頼も受けられて幅が広がるんだが……」
「うーん。考えておくわ。ごめんね」
「そうか。気が変わったら掲示板にでも伝言を残しておいてくれ」
シャーリーの帰還と共に、フィリップの死は瞬く間に広まった。そして始まったのはシャーリーの獲得合戦である。
あれから七組のパーティに声を掛けられた。それとは別にパーティ募集掲示板にはダンジョン特化型レンジャーの募集が溢れている。
シャーリーと面識のない者や、直接声を掛けにくいと思っている者たちが多数存在しているということだ。
ベルモントではダンジョン特化型のレンジャーは希少。故にそれなりに人気があるのだが、プラチナプレート冒険者である九条の知り合いという裏事情も、それに拍車をかけていた。
しばらく掲示板を眺めていると、それに気付いたシャロンに呼ばれ、シャーリーはカウンターへと足を向ける。
「シャーリー! こっちこっち!」
依頼カウンターの受付越しに振られた手。そこに握られているのは一枚の依頼用紙。
「そんなに大きい声出さなくても聞こえてるってば……」
「ごめんごめん。そんなことより、ハイこれ」
シャーリーが渡された依頼用紙に目を走らせると、その表情が引きつった。
「これ……仕事にしたの?」
「もちろん。ただ会いに行くよりお得でしょ?」
その内容は九条に支部長の伝言を伝えるだけのもの。どうせ行くなら仕事にしてしまえば、シャーリーもコット村に足を運びやすいんじゃないかとシャロンは考えた。
報酬は金貨十枚。となりの村に伝言を伝えるだけなら破格だ。
「それはそうだけどさぁ……。しかもついて来る気マンマンだし……」
備考の欄には、ちゃっかり担当同伴と書かれていたのである。
「一応一泊を考えてて、明日には発とうと思うんだけど、シャーリーの予定は?」
「私は大丈夫。空けといてって言われてたし」
シャーリーは、どちらにしろ伝言は伝えに行くつもりではいたのだ。こんなことしてくれなくともコット村に足を運ぶくらい造作もないのだが、自分のためにやってくれているのだろうと思うと悪い気はしなかった。
コット村とはいえ、シャロンと二人での仕事は久しぶりだ。正直言うと遣り甲斐はないが、友人との小旅行だと思って旅を満喫しようと考えていた。
――そう、この時はまだ軽く考えていたのだ……。
――――――――――
馬に乗った二人は、雑談に花を咲かせながらコット村へと足を延ばす。
気ままな二人旅。今回は荷物も軽装だ。着替えも持っていないが、数日くらいであれば我慢できる。
冒険者から見れば一泊二日の仕事なんて、ピクニックのようなものだ。
「確か九条さんのダンジョンは、この辺から森に入るんでしたよね?」
「そうそう。よく覚えてたわね」
「懐かしいですね。あの時はみんな九条さんのことを疑ってて、死霊術なんて怪しい適性信じてませんでしたからね」
「あはは、確かに……」
当時九条はカッパープレートだった。それが偽物だとは誰も気が付かなかったのだ。
プレートの偽造は出来ないという固定観念に囚われていたからだろう。素直にそれを信じて疑わなかった。
「あれ? あそこハゲ山みたいな所……。こんな場所ありましたっけ?」
「ああ、なんでも九条がやったらしいわよ? 薪用に伐採したって言ってたわ」
「え!? 切り過ぎでは? 丸太いっぱい残ってますけど……」
「知ってる。自分でもやり過ぎたって反省してた」
「ええぇ……。やっぱりプラチナともなると、薪割もダイナミックですねぇ……」
プラチナプレート冒険者を薪割に使うなんて、贅沢なギルド支部だと少々羨ましがりながらも、コット村の西門が見えて来る。
その入口で寝そべり、暇そうに欠伸をしていたのはコクセイだ。
「コクセーイ!」
シャーリーが手を振ると、コクセイはその場にサッと立ち上がり、村の中へと入って行く。
「シャーリー……もしかして嫌われてるんじゃないですか?」
「違う違う。あれは九条を呼びに行ってくれたのよ」
シャーリーの言う通りだった。村へ入り、馬を繋いでいると、コクセイと共に現れたのは紛れもなく九条である。
お供を多数引き連れての登場。それは村の子供たち。コクセイの上に乗っているのが三人。更に五人ほどの子供たちに囲まれている。
まるで子供のお守りを任されている主夫。人気者のように見えなくもないが、どちらかと言うと人気なのはコクセイのようで。九条は蛇足感が強い。
そんな九条の表情は曇っていた。お世辞にもシャーリーの来訪を喜んでいる様には見えず、むしろ毛嫌いされているんじゃないかと思うくらい露骨に嫌がっているようにも見えたのだ。
「何しに来た?」
第一声がそれである。シャロンはそれに不快感を覚えた。良くあることだ。プラチナともなれば、それだけ態度もデカくなる。その典型だと思ったのだ。
だが、そうじゃなかった。
「九条にある人から伝言があるの。それだけよ」
シャーリーがそう言ったとたんに九条の表情は明るくなり、ホッと安堵した様子を見せると不穏な空気は一瞬にして晴れたのだ。
「なんだ……。担当まで連れてるから、また面倒事でも持って来たのかと思ったよ」
「またとは何よ。それを言うならバイスやネストに言ってくれない?」
「もっともだな」
ケラケラと笑う二人に目を丸くし、シャロンはようやく気が付いた。気を許しているからこそ、九条はシャーリーに対して正直なのだろうと。
プラチナのくせに仕事をしない怠け者……などと言われている理由を理解し、シャロンは逆に、自分の表情が強張るのを感じた。
「シャロンさん。お久しぶりです」
「お久しぶりです九条様。まずはプラチナプレートへの栄進とバルザック勲章の受勲、おめでとうございます」
お辞儀の角度はバッチリだ。お手本とも言うべきギルド職員の鑑。少々よそよそしいが、これが本来のあるべき姿である。
「ありがとうございます。でもそういう堅苦しいのは止めませんか? お互い疲れるでしょう? どうせ偉い人は誰も見てませんし楽にいきましょうよ」
にへらと緊張感のない笑みを浮かべる九条に戸惑いを隠せないシャロン。それだけ九条が特殊なのだ。
「ど……努力します……」
「……クククッ……」
予想通りの展開に、一人シャーリーは苦笑していた。
「コクセイ。シャロンさんは敵じゃない。皆にも伝えておいてくれ」
「了解した」
コクセイがシャロンに鼻先を近づけると、スンスンと匂いを確かめる。
それにビビり散らし硬直するシャロンにまたしても吹き出すシャーリーであったが、当の本人はそれどころではない。
シャロンが最後に九条を見たのは、ノルディックの件でベルモントにシャーリーを誘いに来た時だ。
あの時は遠目から見ていただけだったが、さすがにここまで近いと気が気ではない。
従魔とは言え魔獣。コクセイに群がる無邪気な子供たちとは違うのだ。恐怖するのは失礼だとはわかっていても、本能がそれを拒んでしまう。
とは言え、それはほんの数秒の出来事。匂いを覚え離れていくと、緊張が解けたシャロンからは盛大なため息が漏れた。
「息を止めるほど怖がらなくてもいいのに……くくくっ……」
ケタケタと笑うシャーリーに、シャロンは頬を膨らませて睨みつけるも、九条のフォローにより相殺された。
「シャーリーだって最初はカガリに悲鳴を上げてただろ……」
途端に顔を真っ赤にするシャーリー。
「なっ……。あれは仕方ないでしょ! 炭鉱の真っ暗闇の中で急に出てきたら誰だって驚くわよ! そんなことより早く行きましょ? 引っ越しはもう済んだの?」
わちゃわちゃと慌てて言い訳をしながらも、シャーリーは咄嗟に話題を変える。
「ああ。家具も備え付けの物以外使っていなかったし、それほど荷物もなかったしな。今から案内するよ」
伝言とやらを聞くのには、ここは少々騒がしい。
その原因をコクセイに預け、雑談を交えながらも三人は九条宅へと歩き出した。
羽海汐遠
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コメント
1件
第290話、ほのぼのした空気感がたまらなかったです! シャロンが九条に堅苦しく挨拶するシーン、あれ九条が「楽にいきましょうよ」って笑顔で返すところ、すごく九条らしくて好きだなあ。そしてコクセイにビビるシャロンと、それを見て笑うシャーリーの距離感が絶妙でした。九条がシャーリーの顔見て「また面倒事かと思った」って本音を漏らすのも、信用されてる証拠ですよね。気ままな二人旅、このままずっと続いてほしい気分です🌷