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今現在の状況を簡単に説明すると、花芽に攻撃されて俺の右足が死亡。
衣川が逃げるために謎のボタンを押して、結果図書館内が火事になっている。
花芽は衣川によるとどこかに逃げているらしい。
俺はあまりにも意味不明なこの現状に身震いした。
そもそも、俺以外が戦いに慣れすぎている。
花芽はまだしも、衣川は人間だというのに。
もしかして、衣川も人間じゃないのか…?
というか花芽も人間だって嘘ついてたわけだし、確実に人間と分かるやつが居なくなってしまった。
こうなるともう誰も信じられなくなりそうだ。この話はやめよう。
「ねぇ…何これぇ…?音端くんとイチャイチャしてる場合じゃないんだけどぉ…」
「イチャイチャしてないっすよ!貴女が一方的に童貞がどうのこうの言ってきてるだけだったっすよ!」
「あ、猫手と音端!」
「どういう状況なの…?」
「あーっと、説明はあとだな。とりあえず花芽が俺らを襲ってきてて、あのボタンを押しちまったらこんなことに」
「どういうことなんすかそれ」
「つまり、」
衣川は図書館の扉を指さす。
「あそこから逃げようってこと」
「おっけ~♥」
「了解」
「あ、皆さんもう大分そろってるんですね」
「花芽」
「花芽ちゃんが…その…」
「何でしょう、貴志さんを殺したのは私ですが」
「…本当に殺人なんてする人存在したんすね」
「存在しなかったら単語になってませんから。あ、そうそう」
花芽は思い出したかのように懐に手を入れ、たくさん何かを取り出した。
その何かは火に照らされ銀に光っているものもあれば、金属の塊もあれば、レーザーを出せそうな物もあれば。
つまり、人間を殺せる凶器だ。
その中には、俺の部屋にあった包丁と瓜二つのものもある。
「これ、皆さんの部屋から拝借したものです。欲しいですよね」
「この感じだとそれを奪いにいきつつ殺されないように…みたいな戦いをするんすか?」
「そうです!」
「つまりどうしろってことぉ?」
「花芽さんから逃げながら脱出っすね。凶器を回収とかは一旦後回しで…まあそれができたら理想ムーブっすけど。
天神さんとかが居れば楽にいけそうっすけど…この広さじゃ探すのも難しいっすね」
「はーぁ…いけるかそれ?」
「やるしかないっすよね」
「ふわふわキャンパスライフが遠のいてるよぉ…」
「ま、待てって。俺骨折れてんだけど」
「じゃあスタート」
「はあ!?ズルだろそれー!ずるいずるい!!」
「小学生かよ」
「早く逃げるっすよ、木更津さんは…?」
「おいこれ明らかに俺が狙われ…」
小刻みに地面が揺れる。足音が、花芽が近づいてきている。
俺が振り返るのに合わせ、花芽の肌が俺の心臓に近づいている。
「acting tragety」
俺の体が大変なことになっている。
視界が縦に動き、頭が下に下がり、足が宙に晒された。
心臓の鼓動が上がるにつれて、俺の体が後ろに向かっている。
痛い。
何かにぶつかった。
何か音がしてるっぽい。ような気がする。
「木更津!」
誰かに呼ばれている。
行かなければならないのに。
なぜだか体が動かない。
下に視線を移す。
今まで動けていたのが嘘みたいに大量に出血していた。
というより生きているのが不思議だ。
だんだん五感が消えて人間じゃなくなっている。
目が見えない。
暑さを感じない。
匂いが一切しない。
耳が聞こえない。
「……!……。…。だ……これ……」
「…………ら、…………」
怖い助けて以外の感覚を失った目、耳、鼻、皮膚、口、五感が、というより第六感なるものが叫んでいる。
言語にすらもならない叫びを、負け犬の遠吠えを。
「い……ああああ”っ…」
「…。」
足が動かないと分かっている脳みそは完全にショートしている。
思考回路なるものは一切存在しない。
花芽の足音が耳の横側にいる。
と思えば、足音は空を切り俺の背後に回った。
もしかして助かった?なんて思っていると、背後からあり得ないほど大きな音が聞こえた。
振り向こうとしても首を動かせない。
もう指一本すらも動かせない。
五感も失っている。
近くに俺の初恋の人がいることだけわかる。
頼む。動け。動いてくれ。
初恋の人に人生を終わらせられたくないんだ。
まだ俺は学生なんだ。子供なんだ。
彼女作って結婚して家庭を築いて。俺にはまだまだ夢がある…はず。
記憶がないから何とも言えないけど。
「木更津さん、私はあなたに出会う前から、ずーっと前から、誰かを殺してみることが、」
「…だったんですよ」
俺は知っている。
人間は死ぬ直前に耳が聞こえるようになると。
非常に残念だが、
俺の人生は終了してしまったのかもしれない。
この世に神様がいるのなら、きっとちっぽけな俺の事なんて3秒くらいしか覚えていないだろうが、
もし暇だったら助けてほしい。
*
「にーちゃん、今年もあの神社いく?」
今、俺は夢の中みたいな感じで過去の記憶を鑑賞している。
おそらくこれが「走馬灯」。
あの神社って言うのは、俺やその兄が毎年初詣に行っている神社の事だ。
…そうだ。俺には兄がいた。
名前は…なぜか思い出せない。自分の名前すら覚えてないから当然ではある。
「…今年はお前一人でいってくんね?」
「え、なんで?」
「なんでも何も、お前も今年で10歳だから。独り立ちってやつ。それに、道はもうわかるだろ。5年もいってっし」
「それはそうだけどさー…僕もっとにーちゃんとお母さんといきたいからさー!」
そう、当時の俺は超マザコン。まあ10歳だししゃーなくはある。
お兄ちゃんと行きたいっていうのもあるけど、一番はお母さんだった。
しかし、そのお母さんは…
「俺も忙しいから」
「嫌!だって最近ゲームしてくれないじゃん!お母さんも遠い国に行っちゃったし!」
悲しい事に俺のお母さんは亡くなっていた。
丁度この時でいう去年。今から数えれば6,7年前。
元々持病があったのもあり、てんかんの発作で亡くなった。
その時も、俺より兄がいろいろ手伝ってくれていた。
走馬灯で記憶が戻ってきている。
俺の家はほとんど母子家庭といっていい状況だった。
お母さんがまともに働けなかったため仕方なく結婚していたものの、父はパチカススロカスヤ二カスの典型的なゴミカス。
そんな状況でも母は俺達をしっかりと育て上げてくれた。
母には感謝しかない。
「…忙しいから」
「ていうか遠い国ってどこ?フランス?イタリア?アメリカ?飛行機使えば行けそうだよね?」
「宿題やったのか?宿題やんないとお年玉来ないぞ」
「お兄ちゃんは学校行ってないくせに!あ、僕が代わりに中学校行ってあげてもいいんだよ?お兄ちゃんは病気でもないし障害でもないから、きっと頭が悪すぎて学校にいけないんだね!」
一番いやな記憶を思い出してしまった。
俺が兄の地雷を踏み抜いてしまったことだ。
「お前マジで一回黙れよ!!馬鹿親戚のせいでお前もかーちゃんもたった一人で面倒見なきゃいけないんだぞ!?一回変わってみりゃ分かるって!もう嫌なんだよ!自殺できた方が何倍もましだ!そもそもお前なんて生まれてこなけりゃ…」
兄は中学校を休みバイトに勤しんで俺を養ってくれていた。
しかし、ただのバイトでは二人分なんて稼げない。
中学生とバレても働けるような職場で、かつ報酬がおいしいバイト。
そして当時はやっていたもの。
そう、「殺人代行」だ。
誰を殺すか、とか報酬は、とかの電話を家にいたウインドー族を介して兄が話していたのが記憶に残っている。というか記憶に新しい。
兄はまだ中学生なのにどうやって殺人代行できるのかは分からない。でも、ニュースとかで中2が三人集まって男一人殺した、なんて話を聞いた気がする。兄は家にいたウインドー族とめっちゃ仲良かったし、ネットで殺人代行できそうなやつ集めてぶっ殺すくらいはできたのかもしれない。
「馬鹿親戚」というのも確か宗教にドはまりしていた親戚一同のことを指していた。
なんか男はこうだけど女は~みたいな男尊女卑系カルト宗教だったのは覚えている。
兄は自分も弟も変な宗教に巻き込みたくなかったから、一人でなんとかしようとしてくれていた。
初詣に行ってくれないのもバイトが忙しいから。本当にすごい兄だ。
「学校行ってないくせに!お母さんに会わせてくれないのもお兄ちゃんのせいだ!もうお兄ちゃんなんて大っ嫌い!!」
「あんのクソガキ…!」
俺は確かその後家を飛び出した。行先はあの神社。
多分神社で何かが起こって…それでここに来たのか?いやそうなると時系列が…
でも絶対に神社で起こったことが、俺が今ここにいる理由に直結したと思う。
それを思い出せればここから脱出できそうなのだが、正直思い出せる気がしない。
それこそもう一回死なないと無理な話だ。
ここまで走馬灯を見て思ったのだが、やはりどうしても生き残りたい。
生きたい。俺の煩悩はここにきて初めて一つになった。
兄に謝りたい。感謝したい。
母は今どうなってる?ちゃんと埋葬できたのか?
俺はもう事情を思い出した。兄に会いたい。というか兄は生きているのか?
知りたいことが多すぎる。そのためにも、生きたい。
神様、どうか助けて。
*
「これ…木更津さんは…」
「…この出血量だぜ?俺素人だけどさ…流石に分かる。これじゃあ」
「死んでる」
「そうなりますわね」
今の現状の話だが、花芽が木更津目がけて能力を使用。
木更津はありえない速度で本棚に吹っ飛ばされる。
ベキャアみたいな漫画でしか聞かないような音がして(音端曰く背骨が折れてるか首の骨が折れてるらしい)、その衝撃で本棚が俺たちの方に倒れてくる。
俺達は全力で出口に逃げて、なんとか脱出。
その時に猫手が花芽に能力で出口と逆方向にぶっ飛ばされる。
音端は「木更津さんよりは重症じゃなさそう」と言っていた。そう信じるしかない。
出口には姿を見かけなかった奴らがすでに外でお茶会していた(天神が頑張ったらしい、今は寝てる)。
で、出口とは逆方向にあるはずの木更津の体がなんで見えんねんって話なんだけど、図書館が急に浮き上がって回転し、木更津のえぐい身体が丸見えになる角度でストップした。性格悪い。どこがhappyだよ。
それで、俺達は今木更津と猫手を救出する方法を考えていたのだが、まあ明らかに木更津は死んでる。
だから猫手救出作戦について話している。
「まず猫手っていまどこにいるんだ?というか花芽もどこだよ」
「楊梅さんは木更津さんの近くにいるっすよ、あそこ」
音端が指さす先には、血にまみれた花芽がいた。
何かを死体…に対して話しかけている。と思えば、唐突にキスしだした。
「きも」
「ネクロフィリアなんすかね?この感じだと殺人には慣れてそうっすけど」
「なんかかっこいいなそれ!暗黒騎士の別名に加えてやろう!」
「主に死体とか、あとは死そのものに性的興奮を覚えている人の事っすよ…。かっこいいというか…」
「普通に末恐ろしくてかっこいいだろ!」
「気持ちは分からなくはないっすけどね…というか殺人に慣れてそうなのが問題っす」
「的がちっちゃい上によく動くし、慣れてそうだし。ちょい時間かかるかも」
「具体的にはどのくらいですか?」
「5分あれば…あでも猫手守んのかだる。こんだけ人数いんだしちょっとは肉壁にしても」
「だめっすよ!それやるなら死体を肉壁にした方が耐久性もいいし動かないから」
「お前ら道徳1かよ!とにかく、できれば全生存だろ!」
「それができなそうだから…ん?」
突如、図書館からバーンっという銃声、というより大砲みたいな音がした。
バキバキと木が崩れ、本棚から本が崩れ落ちている。
舞い上がる炎、乱反射する光。
真っ赤な液体が零れ落ち、発生源を辿れば、そこには。
「最っ高の状況だ!今、この瞬間に、英雄が誕生したことを祝福しろ!この『最強プレイヤー』が、さっきまでポエムを垂れ流してた思春期上等NPCをぶちのめしてやる!エイムは良好感度も良好!最強ネームド”messiah”の凱旋だ!!」
「…誰?」
「木更津さんではあるのに…まるで」
「別人…だよな」
血に染まった木更津が立ち上がり、放射能を放っていた。
どうやら代償範囲に俺たちは入っていないらしいが、それよりも重要なことがある。
そう、なぜかまるで「別人」なのだ。
確かに木更津ではある。出血量もつぶれた足も。
でも、立ち上がる気配すらなかった木更津が、唐突にすごい火力の放射能ビームを撃っているなんてありえるか?
それに、happyみたいな感じで名前が英単語になっている。敵なのか?でも花芽を倒してはくれそうだが…
もしかして木更津も人外?というかあいつの能力が違う?それとも二重人格なのか?
とりあえず生きてて良かった…のか?
「おいてめぇ!生きてたのかよ!」
「誰だそこらのNPC…って私をボコってきた天神がいる!?」
「あー…あの巨人の上の人かな。なんで木更津に憑りついてんのかは分からんけど」
「いや本当に木更津を返せよ!!」
「私だってどうなってんのか分かんねーよ!でもな、要はここにいる雑魚を蹴散らしてハッピーエンドだろ?だったら話は簡単だな!!ガンナーキャラは案外得意だぜ!!お前なんて所詮はチュートリアル!!さっさと本編に進ませろーー!!」
彼の言葉をそのままに受け取れば、彼はどうやら第一ゲームのボスみたいな存在らしい。
だが、天神にボコられたとも話していたので彼もおそらく殺されている。
そうなると、木更津もそうだが、死者は復活できるのか?
いや、そうなれば貴志も復活していないとおかしいが…何か条件があるのか?
とにかく、今はmessiahと名乗るこの男がどう動くのかを見守るしかない。
もしかすると協力してくれるかもしれないし、それに木更津が生き残っている可能性も出てきた。
しかし、あの出血量だ。一撃貰えばそれは死に直結する。死ぬかはわからんが。
見せてもらおう、花芽をチュートリアルと言い放った彼の実力を。