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22
#家族
AB🦐
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凛「ん?」
凛は気付くと両手にビニール袋を持って倒れていた。地面を見れば卵が落ちていくつか割れている。
凛「あー!大変やんけ!」
凛は卵を拾い上げて家まで小走りして帰る。
凛「早よ家に帰らんと!」
凛は自分の一軒家の扉まで辿り着き、鍵を取ろうと焦ったせいで落として、それをまた拾って扉を開けて閉めようとするが何かが引っ掛かったようだがすぐにもう一度扉を閉める。
ビニール袋を床に置いて、卵を確認して割れていることを見てため息を付く。
凛「はぁ、」
凛「はぁ~…」
凛「ダメやーん…」
凛「あっ!汁垂れる!」
すぐに洗面台で割れた卵を流し、残った卵を冷蔵庫に入れる。
ビニール袋を持ってきて、材料を全て冷蔵庫に入れる。
自分の部屋の扉を開けて電気を付けて中に入ると何かに当たった感触を感じる。
凛「ん?なんね…?」
そう呟いて自分の体の当たった箇所を見るが何も無く、ベッドに座ろうとするとその端っこで物音がする。
凛「えぇ…なんねなんね、」
凛「本間に怖いんやけどぉ…」
凛は端に寄って覗き見ようとするとおでこに何かがぶつかり、それは蜘蛛の糸のような何本もの束に触れた感触がする。
凛「ん?」
しばらくそこで何も無い端っこの空間を見つめ続ける。
凛「ん?」
手で探ろうとするとサラサラとした鳥の羽のような感触がする。
そこには髪が長く絵にも勝る天使が座って口を開けて驚いた表情でこちらを見ている。
凛はつい人差し指で天使の頬をつつく。
そうすると天使の口は更に広がり、目はぱっちりと開けている。
凛は頬をつついたまま動きを止める。
天使「ひ…ひぃ…」
すると天使はやっとの想いで口に出したような声を出す。
凛は眉間にシワを寄せ、天使の顔をじっと見つめると白い羽で天使は顔を隠す。
凛「な…に…!」
凛「羽!」
凛「…ってことは天使や!」
凛「え?待って?」
凛はもう一度天使を見返す。
凛「うんうん天使天使」
凛「え?なにこれ」
凛は羽を撫で、その度に天使の体が小動物のように震える。
凛「あっ、」
咄嗟に撫でるのを止め、目を擦ってもう一度その場を見てみるが天使が綺麗な瞳でこちらを覗いている。
凛はその光景から目が離せず、ポケットからゆっくりと携帯を取り出して写真を取ろうと画面を開こうとするが、天使がまた羽で顔を隠して正気に戻り手を止める。
凛「えっと…?」
凛「な…なんや?」
凛は浅く呼吸してベッドの上で体育座りをして顔を俯かせる。
凛「どないしたらええねん…マジ無理」
凛「分からん…分からへん…」
天使「…ごめんなさい…」
天使の方から声が聞こえて咄嗟に振り向く。
天使「…すぅ…きです…」
天使「…付き合って…ください…」
天使は手だけを羽の上から差し出す。
凛「…ん?」
天使「え…?」
天使は羽を下げて顔を覗かせる。
天使は手を自分の元に戻す。
天使「あ…はい?」
凛は眉間にシワを寄せながら1度目を閉じる。
凛「んぐふっ…」
凛「あかん笑ってもうた…」
凛「うーん…いやぁ…誰ぇ…」
凛「あんた誰ぇ…」
凛は目を閉じながら違う方向に独り言のように喋りかける。
天使「ごめんなさい…名前が無くて…」
凛「うんうんうんせやんな」
凛「ごめん何てゆうた?」
目を閉じたまま人差し指を自分の眉間に置く。
天使「あっ…名前が無いです」
凛「名前が無い…名前が無い…」
凛は言葉の意味を思い出す。
凛「あっ名前が無いんやんなそうやんな」
凛「うんうん…」
目を開けてもう一度天使の方を向く。
凛は再び笑う。
凛「んふふふ」
凛「やば…もうダメや…」
凛「あかん…」
凛は1度携帯を開いてすぐに閉じる。
凛「なんで開いたんや」
凛「ちゃうわ」
凛「ごめん」
凛「本間ごめん」
凛「え…え…」
凛は言葉を探すように部屋の回りを見渡す。
凛「どうやって入って来たん?」
天使「え?一緒に入りました」
凛「え?一緒に?」
凛は再び言葉の意味を失う。
天使「あっ…当たってごめんなさい」
凛「え?あっ」
家の扉を開けた時のことを思い出す。
凛「あぁーれぇー君ぃ!?」
目を開かせながら天使の方を見る。
凛はベッドの上で正座をして天使の方を向く。
凛「あっそうですか」
凛「はい」
凛「はいなるほど」
凛「はい。えー、」
凛「ちょちょ」
凛「ごめん上がってくれるかな」
凛は少し頭を下げて目を閉じる。
天使は羽を少し内側に開かせたままベッドの上に上がって同じく見よう見まねで正座する。
凛は目を開けて天使を見上げる。
凛「ぐふ…」
凛「もっぱら天使やんけ…」
凛「うん。もっぱら天使」
凛は上がり続ける広角を落ち着かせ、深呼吸をする。
凛「ごめんやけど…」
凛「その羽は何?」
天使の羽に向けて指を差す。
天使「え?」
天使「えっと…体の1部です?」
凛「はい。えーありがとうございます」
凛「じゃあその服は。何ですか?」
天使「天使の服?」
凛「なーるほど。ありがとうございます。ほな出身はどこですか?」
天使「出身…は…生まれ?」
凛「はぁい生まれた場所です」
天使「上?雲…」
凛「はぁい!十分です」
凛「最後に、天使ですか?」
天使「はい」
凛「よしおかしいぃ!」
凛「え?え?両親はいないの?」
天使「ずっと1人だったのでみんなのいう両親とは違うと思う」
凛「あの、ここで暮らしていくつでいらっしゃいますか?」
天使「20年以上で合ってると思う」
凛「よしよし…とりあえず落ち着きたい…」
天使「え?」
凛は再び体育座りをして俯く。
しばらく俯かせて顔を出す。
凛「待て待てどうやって生きてきたの?てか生きてる?」
天使「虫や動物を食べてた気がする」
凛「朝ご飯から夜ご飯?!」
天使「あっあと魚…3日間食べなくてもお腹空かないから」
凛「いーや限界崖っぷちやないか!」
凛「お腹空かない?え?ゴロゴロゆうよ?」
凛「あっマジすか」
凛「えぇ…なーるほど」
凛「うん。飯の話したらお腹空いてきてもうたわ」
凛「待っておいてな」
凛「あっそうそう待っておいてな。天使ちゃんの分も作るけん」
凛は先程ビニール袋に入れていた材料を取り出す。
鶏肉とピーマンと人参を取り出し、細かく角切りにする。
換気扇を回し、温かいご飯と切った食材をフライパンの上に乗せてケチャップをその上にかけて中火でかき混ぜてチキンライスを作る。
十分馴染ませたら皿に移し替え、卵を割ってお椀の中で溶き卵を作る。
弱火でフライパンの中に溶き卵を入れて円になるようにフライパンを軽く傾けて表面が焼けて膜のようになるまで待ち。
凛「うーん…おかしい…天使に対する適応が早すぎんねんな…」
凛「凄い平然と飯作ってますアニオタです…」
別の皿に移し替えたチキンライスの上からゆっくりと焼いた卵で包む。
スプーンと一緒にリビングにある机の上に置こうとすると天使が既に近くで見にきていたことに気付く。
凛「あっはい。できたよ」
凛は机の上にスプーンとオムライスが入った皿を置いてスプーンを手に持つ。
凛「これがスプーンね」
凛はスプーンでオムライスをすくって天使に食べさせ、天使も口を開く。
少し味が濃かったのか噛み始める天使の口はゆっくりと遅くなる。
凛「噛める?」
凛は咄嗟にその言葉が出たが、すぐに天使は味に慣れたように口の中で食べて呑み込む。
天使「はい噛めました」
天使「あっ。ありがとうございます」
凛「おおうん。椅子に座って食べてな」
天使「はい。ありがとうございます」
天使は椅子に座ってオムライスを食べ、その間に凛は自分の分のオムライスを作る。
料理中に天使の方を見るとかなり早いスピードで食べていることに気付きそのまま料理を続ける。
凛「なんやろ…なんか私おかんやん」
凛「んで相変わらず冷静てかあっちはあっちで何考えてんやろ…」
オムライスを盛り付けた皿を机の上に置いて、天使の席と対面になる椅子に座る。
凛が食べ始めようとする頃には既に天使はオムライスを食べ終えたことに気付く。
凛「早いなぁ」
凛「もう空やん」
天使「はい!とても美味しかったです」
凛「おぉん良かったわ」
凛「いや嬉しいわありがとう」
凛「いや…いやごめんちょっと後で聞きたいことあるわ」
凛「ごめんな」
凛「ごめんなじゃないわ、ちゃうわ。ごめん」
凛「うん。もう無理やけん食べる」
凛がオムライスを食べ終えるまで天使は凛の目を見たままじっとして待っている。
凛は食べ終えた2つの皿をシンクに持っていってスポンジに洗剤を付けて洗う。
凛「なんか…構図が同人誌のそれやんけ…」
凛「んで今日無駄に独り言多いな…」
すぐに洗い終え、凛は名付けをするアニメシーンを思い出す。
凛「天使ちゃん名前無い?」
天使「あっはい」
凛(今思ったけど名無しの天使ってちょっとカッコいいと思う)
凛は推しの1人である天使のアニメキャラの名前を思い浮かべる。
凛「否っ!好きなキャラの名前をこの子に付けるのは冒涜なのだよ…やめます…」
凛「今日から君の名前はクウや!」
天使「クウ?」
凛「うん…空から来た的なことゆうてたの思い出してたら言い方変えてクウにしてもうた…」
凛「えげつ…」
凛「うーん…うぅん。クウって名前はどうや?」
天使「クウ」
凛「うん、そうなんやけどさ」
凛「そのね?」
凛「ごめん性別はどっち?」
天使「性別は…分かりません?」
凛「うん…どっちなんやろ」
凛「見た感じ綺麗だから女性に近い…がアニメやと天使は両性具有もあるけんなぁ」
凛は天使の体を隅々まで見る。
凛「ダメやな…」
凛「可憐で麗しい天使ってことしか分からへん…」
凛「不思議やぁわぁ…」
凛「はい!」
凛「クウは女性ってことにします!」
クウ「はい」
凛「うん」
しばらく沈黙の空気が流れ、凛は静かにお湯張りスイッチを押して風呂場の蛇口を捻りにいく。
凛「ん?」
凛「天使って風呂入るんかな?」
凛は風呂場からリビングに戻ってくる。
凛「クウは風呂とかどうしてたん」
クウ「水洗いです」
凛「んんん?体を洗うんわ?」
クウ「え?水で洗います?」
凛「みぃず、おう、水ね?」
凛はなんとなくクウが公園の水飲み場で裸になって体を水で流している姿を思い浮かべる。
凛「どこで?」
クウ「川に入ります」
凛「川かぁ、まあ山だったら近いっちゃ近いねんけど」
凛「ごめん待ってくれ、最後に洗ったのいつや?」
クウ「…いつだっただろう」
凛「どこのセリフやねん」
凛「ちょっとごめん」
凛はクウに近寄り、髪に鼻を寄せる。
凛「あー…おけ」
凛「風呂一緒に入…」
凛「てか私の家泊まらん?」
凛「クウはなんかあるん?」
クウ「泊まりたいです」
凛「うん。じゃあせやな」
凛「アニメ観たことある?」
クウ「アニメをテレビで観ました」
凛「ほな一回アニメ映すわ」
凛「今風呂溜めとるけんアニメで時間潰す」
リモコンを手にとってリビングにあるテレビをつけてアニメ画面を映す。
凛「一旦これ」
バトル系のアニメのエピソード1話目から流し、クウはそれをじっと眺める。
凛もそれを見て一緒にアニメを観る。
観終えた後にお湯張りスイッチの音が鳴り、凛はボタンを押して風呂場の蛇口を締める。
凛「ん…?…家宅侵入…?!」
凛「人の家でテレビ観たんかな…」
凛は自室から自分の分とクウの分の着替えの部屋着とバスタオルを持ってリビングを通りがかる。
凛「どう?」
凛「クウ。面白い?」
クウ「…あまり分からない」
凛「そっかぁ…」
凛「せやったらどうする?まだ観とく?」
クウ「はい」
凛「あっ」
凛はクウが風呂のことはよく知らないだろうという考えが過る。
凛「やっぱり風呂一緒に入ろうや」
凛「着いてきて」
クウ「はい」
クウは凛に着いて行きながら風呂場に行き、洗面台の横に着替えとバスタオルを置く。
凛「とりあえずその訳分からへん神聖そうな服脱いでー」
クウ「分かりました」
クウは着ていた白く長い衣を外すように簡単に脱ぎ、凛はクウの服を洗濯機に入れて服を着たまま風呂場に立つ。
凛「ほれ」
凛はクウを優しく誘導し、たらいを手に持つ。
凛「座ってー」
凛は風呂椅子をクウの前に持ってきて座らせる。
クウ「はい」
凛「これがたらいってやつ」
凛は湯船のお湯をたらいで掬って見せる。
凛「こうやって掬うんや」
凛「ちょいと熱いで」
凛はたらいで掬ったお湯をクウの肩にゆっくり掛ける。
クウ「…っぁ」
クウは声にもならない声を上げ、目は見開いていて咄嗟に手足を上げて羽を大きく開いている。
凛「あっ!熱かった!?」
凛は急いで冷水をたらいの中に入れてすぐにクウの背中に掛ける。
凛「大丈夫?」
クウ「はい…」
クウは体を縮めるように足を閉じて手を足に乗せ、羽を畳む。
凛「ごめんなクウ」
凛「ちょっとぬるくするから待ってな」
凛は蛇口を捻って湯船の中に冷水を流しながら手でかき混ぜる。
凛「多分これくらいやな」
凛「手入れてみ」
蛇口を捻って止め、たらいに湯船のぬるくなったお湯を掬ってクウの目の前に差し出す。
クウ「はい」
クウは熱気があまり感じないことで無意識に安心してたらいの中に片手を入れる。
クウはそのままじっとする。
凛「なにしてんて」
凛「熱くない?」
クウ「あっはい」
凛「よしいくでぇー」
たらいの中のお湯をクウの畳んだ背中の羽から掛ける。
畳んだ羽から水を掛け、変化の様子があまり濡れたように感じずもう一度湯船のお湯を掬って畳んだ羽から掛ける。
凛「え?掛かってる?」
クウ「…あまり掛かってないです」
凛「うーんその…羽広げられる?」
クウ「はい」
クウは羽を広げ、凛は湯船のお湯を再び掬って背中に掛ける。
クウの羽がぴくっと動いて先程掛けたお湯が水滴になって飛んで凛の顔に掛かる。
凛「ん…」
凛はそれに思わず目を閉じる。
クウ「あっごめんなさい」
凛「うんいや全然ええて」
凛「気にせんで」
凛「頭からお湯掛けるから目閉じて」
クウ「はい」
クウは目を閉じ、凛はたらいにお湯を掬って頭から掛ける。
凛「ほなもう一回いくで」
クウの頭からたらいでお湯を掬って掛ける。
凛はクウの前髪を上げてシャンプーを使ってクウの髪を洗う。
凛「ずっと目閉じとかんと痛いで」
凛は洗い終えて何度もたらいでお湯を掬って頭に掛ける。
凛「ふぅ、あんた本間に綺麗やな」
凛「こっち向いてみ?」
クウ「はい」
クウは凛の方を体ごと向く。
凛「男か女か分からん見た目やけん」
凛「絶対にモテる思うねん」
凛「私のお兄ちゃんおったら絶対弄られる」
凛はリンスを手に乗せてクウの髪に塗り、ボディタオルを手に持ってたらいのお湯で濡らしてボディソープを付けて泡立てる。
凛「次体洗うんやけど自分でやる?」
クウ「…洗ってください!」
凛「え?えぇ」
凛「勢いどした?」
凛「びっくりしたやんか」
凛はクウの体をボディタオルで洗い始める。
凛「羽広げてークウー」
クウ「はい」
クウは羽を広げる。
凛は背中を洗い、一通り洗い終えて手を止める。
凛「羽って、どう洗うん…」
凛は軽く羽にボディタオルを擦り、根元を入念に洗う。
凛はシャワーでクウの頭と体を流す。
凛「じゃあ風呂入るで」
クウ「分かりました」
凛は湯船の中に入り、クウもそれに続くように湯船の中に入って二人は湯船の中で座って対面するような形になる。
クウの羽は水の表面に浮く。
凛「どないな感じ?」
クウ「服を着ているみたいです」
凛「じゃあ暖かいんやな」
凛とクウはじっと見つめ合いながら時間を潰す。
凛「出る?」
クウ「あっはい」
凛は湯船から出て、それに続くようにクウも湯船から出る。
凛「ほな拭きたいけんちょっと待っとってな」
凛は洗面台の横に置いていたバスタオルでクウの体を拭き、最後に羽を両手で挟むようにして水気を取る。
凛「こっち降りて」
凛はクウを洗面台に誘導して凛の服を着させようと部屋着を手に持つ。
凛「ん?あっそうか羽が邪魔になるわ」
凛はアニメに出ていた天使キャラの服装を考える。
凛「せや」
凛はクウに下の服をそのまま着せて、上の服を腰に巻こうとクウの背中に手を伸ばす。
クウの羽から滴り落ちる水滴が背中を伝って凛の手に当たる。
凛「羽かぁ…」
凛「…うーん」
凛「頭に巻くみたいにできんかな」
凛はバスタオルを手に持ってクウの羽と大きさを比べる。
凛「無理かぁ」
凛「ほなあれやな」
凛は先に着ている服を絞って水を出し、自室からラップタオルを持ってきてクウに着させる。
凛「一旦これな」
凛「服は後で巻くわ」
凛はリビングに移動してクウの方を見て、クウもそれに着いて行く。
凛「アニメ観とって」
凛「もう一回風呂入ってくる」
クウ「はい」
凛はリモコンでテレビを操作し、2話目を流す。
クウはテレビの画面をじっと立ったまま観る。
凛「ん?座りや」
凛「ソファあるやろ」
クウ「あーはい」
クウはソファに座ってテレビをじっと観る。
凛は風呂場で服を洗濯機に入れて頭と体を洗い流し、風呂栓を開けて洗面台の横にあるバスタオルで体を拭く。
凛「あいつどないしたらええんやろ」
凛「とりあえず…私が母となろうかの」
凛は一人で鼻で笑いながら体を拭き終えて横の部屋着に着替えてリビングに行く。
クウは前のめりになりながらテレビのアニメをじっと見ている。
凛「髪乾かすよー」
凛「こっち来てー」
クウ「あっはい」
凛は自室に入ってドライヤーを持ってこようとするがクウも自室に入って来る。
凛「あーいや…」
凛「私の部屋で乾かすか」
凛はドライヤーを自室のコンセントに繋ぎ、
後ろに立つクウの髪を温風で乾かす。
クウ「ふふっ」
クウは髪が揺れて肩をすくめながらくすぐったく笑う。
凛「ふふっ」
凛「くすぐったかったんやー」
温風や前髪がクウの目の近くを刺激する度に目を閉じる。
凛「よーし。次冷やすけ待ってや」
クウ「はい」
温風で乾かした後にしばらく髪全体に冷風を当てる。
凛「さらっさらー」
凛「髪白いけ綺麗やわ」
凛「はーい終わったでー」
凛はクウの頭を軽く、くしゃくしゃっと撫でてドライヤーを自室に置いてリビングに戻る。
クウもそれに着いていってリビングに戻り、凛は冷蔵庫からフェイスパックを1枚取り出して顔に付ける。
凛「んー冷たい」
クウはソファに座ってアニメの続きを観る。
凛「あっクウも付ける?」
クウ「はい!」
クウは凛の前まで立って小走りで行く。
凛「ごめんねーご鑑賞のとこ」
凛は冷蔵庫からフェイスパックを1枚取り出して慎重にクウの顔に付ける。
クウ「ひぁ」
凛はぴったりとクウの顔にくっ付ける。
クウ「あぁぁ…」
クウは驚いて口を開けて息を吸ってしまいフェイスパックの位置が少しずれてしまう。
凛「ちょ」
凛は位置を戻そうとフェイスパックに触れる。
凛「あんまり触ったり口動かしたらズレるで」
凛「目とか大丈夫?」
クウ「はい」
クウ「ごめんなさい」
凛「謝らんでええって」
凛「んー…クウは敬語しか知らんの?」
クウ「いや…知ってる」
凛「どうやって学んだん」
凛「そういうの」
クウ「学校で学びました」
凛「え?」
凛「みんなからは?」
クウ「みんなからは透明で見えないからこっそり教室に入って学んでいました」
凛「ああ、そっか見えないんか」
凛「いぃや何で私はクウが見えるんねん」
凛「怖いわ」
クウ「…羽に触れましたか?」
凛「うん。触れたね」
クウ「羽に触れられている間は姿が見えるんです」
凛「ん?その間だけ?」
クウ「はい」
凛「んん?私クウのことずっと見えとるんやけど何でや?」
クウ「恋をしたからです!」
クウは身を乗り出して手を自身の胸に寄せて食い気味に答える。
凛「ぐふっ…ふふっ…」
凛は口元を手で覆い隠しながら横を向いて笑う。
凛「ご…ごめん…」
凛「え、えぇ?いつから?なんでや?」
クウ「ドキドキしたからです!」
クウの羽が大きく広がり、ラップタオルが落ちる。
凛「待って…いつから付けてたん?」
凛はラップタオルを拾ってクウにもう一度着させ、クウも羽を畳む。
クウ「垣に座ってあなたが足に当たった時からです」
凛「いやいや、当たってたん…?いつや?」
クウ「あっ無意識だったんです」
凛「何が?」
クウ「無意識に体が当たると人が倒れるんです」
凛「あ、あー!確かに倒れてたわ」
クウ「そしたらついて行っていました!」
凛「怖いわ」
クウ「ごめんなさい!」
凛「いやええねんけどさ」
凛「怒るというか驚きしかないねん」
しばらく凛とクウで見つめ合い、沈黙の空気が流れる。
凛「じゃあ空って何?天界とかじゃないん?」
クウ「…空から落ちていたのが最初に覚えていたことでした」
凛「んー…そうかぁ」
凛「なんかもやもやするわ」
凛「あっそうそう。他に天使っておらんの?」
クウ「分かりません」
凛「ん?ずっと1人…なん?」
クウ「はい」
凛「…クウはこの家どれくらいおるん」
クウ「分かりません!」
凛「そうかぁ…まあ泊めさせたるで」
凛「私も考えるわ」
凛は携帯を取り出して時間を見る。
凛「もうそれ取ってええで」
凛は自分の顔に付けていたフェイスパックをゴミ箱に捨てて、クウも同じように外す。
凛は鏡の前に立って自身の頬を触る。
凛「クウ?」
クウ「はい」
凛はクウの頬に触れる。
凛「餅肌やでー」
クウは目を細めながら柔らかく微笑む。
凛「可愛いやつやのぉ」
凛「よいよい」
凛「歯磨きやるでクウ」
凛は一瞬洗面台に行こうとクウから離れるが歯磨きが凛の分しかないことに気付く。
凛「あーそっか無いんか」
凛「歯磨きは明日買うとして…」
凛「私歯磨きしてくるから先ベッド行ってや」
クウ「はい」
クウは凛の寝室に入ってベッドに座り、凛は洗面台で歯磨きをする。
凛「嫌やなぁ…明日…」
歯磨きを終えてリビングの部屋の電気を消してから寝室に入る。
凛「待ってクウ」
凛はクウに着せてあるラップタオルを外して洗濯機に入れる。
凛「天使の羽ってどんな香りがするんやろ…」
凛はベッドに座ってクウをじっと見る。
凛「ちょっとええ?」
クウ「はい」
凛「あの、羽ってどんな匂いするん」
クウ「分かりません」
凛「そうかぁ…ほな確認してええ?」
クウ「確認?」
クウ「あっ分かりました」
クウ「どうぞ」
クウは羽を広げて凛に向ける。
凛「おん」
凛はクウの羽に鼻を寄せる。
凛「おぉ、なーんか…」
凛「なんともいえん匂いしてんやなぁ」
凛は羽に優しく触れる。
凛「まだ湿っちょる…」
凛「こういうのはどう感じるん?」
クウ「手が触れられていると感じます」
凛「そのまんまやんけ」
凛「じゃなくてな?」
凛「敏感とかないん?」
クウ「少しくすぐったいです」
凛「あーそう感じるんや」
クウの羽は更に広がり、凛は撫でながら答える。
凛「じゃあ寝るから電気消すよ」
クウ「はい」
クウはベッドの端でうつ伏せに膝を抱えるようにして腕を枕にして目を閉じる。
凛「…そう寝るんだ…」
凛はそう小声で呟くと自分の枕をクウの頭の下にやる。
クウ「…っ?」
クウは凛の目をじっと見て、凛は羽からはみ出しているクウの足に布団を被せる。
凛「寒かったら布団被るんで…」
凛「おやすみ」
凛は布団を自分の肩まで被せて目を閉じ、クウは指先で凛のおでこを撫でて目を閉じる。
携帯のアラームが鳴って凛は目を覚まし、横を見るがクウがおらずしばらくそこを見つめ続ける。
凛「…天使…クウ…」
凛は携帯を見てゆっくりと手に取り画面をぼーっと見る。
クウ「んー…ん…」
ベッドの軋む音と共にクウの声が聞こえる。
凛「…クウ?!」
クウ「え!?はい!」
ベッドの横の床に転げ落ちた音が聞こえる。
凛「クウ?」
凛は音のする方にベッドの端から手を伸ばし、さらさらとした羽の触感と共にクウの姿が現れる。
凛「クウ…」
凛「クウやん!おるやん!」
凛「だ、大丈夫?」
転げ落ちたクウの姿を見て凛は口角がゆっくり上がる。
凛「ちょ掴んで」
凛はクウに向かって手を差し伸べ、クウはその手を掴んでベッドに上がる。
凛「なんでまた透明やったん」
クウ「え?分かりません」
凛「分からんの?」
クウ「はい」
凛「はぁ…そうかぁ本間にひやひやした」
凛「ほいでうるさいなっ」
凛はずっと鳴り続ける携帯のアラームを止める。
凛「じゃあ私仕事行ってくるから待っといて」
クウ「どこに行くんですか?」
凛「ん?地獄」
クウ「地獄?死ぬんですか?」
凛「知ってるんかい!」
凛「いや例えや例え」
凛「はよ行ってくるわ」
凛「遅刻する」
凛はクローゼットを開けて着替えて玄関に向かい、クウもそれに着いていく。
凛「あっお腹空いたら冷蔵庫にあるもの適当に食べてー」
クウ「はい」
凛「クウはお留守番な。家で待っといて」
クウ「ついていきます!」
凛「え?!いや無理無理」
凛は靴を履く。
凛「ちゃんと帰ってくるんやけん待っといて」
クウ「分かりました!」
凛「聞き分け良すぎやろ」
凛「はい。ほな行ってきます」
クウ「はい!」
凛は家から出て車で仕事場に向かう。
朝ミーティングを終えてメールを確認し、パソコンを使って作業をする。
会議をして昼休憩の時間になる。
一方、クウは扇風機の使い方を学んで風を浴びている。
19時を過ぎ、凛は帰宅しようと車を走らす。
凛「あーコンビニ寄るか」
凛はコンビニの駐車場に車を停めて中に入る。
凛(菓子買おうかな)
凛はお菓子コーナーに足を止め、ソフトキャンディを手に取る。
凛(クウも食べるかな)
凛は合計2つのソフトキャンディを買って車で家に帰り、玄関扉を開ける。
凛「ただいまー」
部屋の扉が開く音がし、クウが走って目の前に来る。
クウ「おかえり!」
凛「うん」
凛は目を閉じて微笑む。
凛「帰ったよ」
凛はポケットからさっき買ったソフトキャンディのお菓子をクウに手渡す。
凛「開け方分かる?」
クウはそのお菓子を少し見る。
クウ「はい」
クウは包みを開け、更に中の包みを開けて食べる。
凛「食べたことあるん?」
クウは甘味の強い刺激に噛む動きを止め、羽を大きく広げる。
凛「あっ無いんやな」
クウは口の中のソフトキャンディを飲み込み、次の包みを開けて食べる。
凛「好きなったんや」
凛はクウのすぐ食べる様を見てツボにはまり、声が震えて口角が上がる。
凛「ぐふふっ…やばいなぁ今の面白かった…」
凛「ふふっ…あんまり食べると虫歯になるでー」
クウ「はい!」
凛も自分の分をポケットから出して1つ食べる。
凛「くそあめぇわ」
包みのままポケットに入れて冷蔵庫の中を見る。
凛「クウ」
クウ「はい」
凛「今日なんか食べたんか?」
クウ「食べてません」
凛「お腹空いてなかったん」
クウ「え?まだ3日間経ってないんです」
凛「んん?いやいやなんやねんその制約みたいなん」
凛「でもなんか食べんと」
クウ「食欲がないので吐き出すかもしれません」
凛「わがままか」
凛「さっきお菓子食べたやん」
クウは硬まるように考える。
クウ「食べました!」
目を見開いて答える。
凛「嘘やろ?そうなる?」
凛「いやー面白いな」
凛「ここ最近ずっと面白い」
凛はそう言いながら材料を取り出して回鍋肉を作り出す。
凛「本当に食べんの?」
クウ「はい」
凛は途中から回鍋肉のパッケージを見て、ソースと一緒に炒める。
凛「めっちゃ美味しそうな匂いせん?」
クウ「はい!」
凛「ほな食べる?」
クウ「はい!」
凛「ふふっ」
凛「じゃあ食べるか」
完成した回鍋肉を2皿に分けて盛り付けて、ご飯も同様に分ける。
凛「はいお待ちー」
2皿を対面になるように机の上に置く。
クウと凛が椅子に座り、箸を持って食べる。
凛「ああ箸はな?」
凛はクウの手を持って箸の使い方を実践して見せる。
凛「こう挟んで持つようにするんねん」
凛「ほいでこう、上と下がバツにならんように…こう」
凛はご飯を箸で持たせる。
凛「やってみ」
クウ「はい」
凛は手を離し、クウは教えてくれた通りにする。
凛「お椀持つんで」
クウはお椀を持ちながら口元を近付けてそのまま箸で掴んだご飯を口の中に持っていく。
凛「おお!できたやん!」
凛「めっちゃ上手」
凛「初めてやろ?」
クウ「はい。学校で何度か見たことがあります」
凛「それ切ないな…」
凛「その回鍋肉と一緒に食べてみ」
凛は一口分の回鍋肉を箸で持ち、クウのご飯の上に掛ける。
クウ「はい」
クウはご飯と一緒にまた同じように食べ、目を見開く。
凛「美味しい?」
クウ「美味しいです!」
凛「良かったな」
クウ「はい!」
食事を終えて皿を片付け、シンクで洗う。
凛「あー…明日休み…」
凛「おおそうやん明日休みやんけ」
皿を洗い終え、お湯張りスイッチを押して風呂栓して風呂場の蛇口を捻る。
凛「アニメ観るー?」
クウ「はい!」
凛はテレビを付けてアニメを映す。
凛「今日何してたん」
クウ「扇風機で風に当たっていました」
凛「え?どれくらいやったん?」
クウ「分かりません」
クウ「1番奥のボタンを押しました」
凛「強風やー…いっちゃん電気使うやつー」
凛「まあたまに付けっぱやけんなぁ」
凛「暑かったし丁度ええか」
クウはアニメに集中している。
凛「はぁ…」
凛は自室に入って携帯を使ってゲームをする。
ふと凛は扉からクウが付いてきていないことを見るとそのまま座って下を向きながらゲームをする。
時間が経ってお湯張りスイッチから音が出て、お湯張りスイッチを押して蛇口を閉めるために風呂場に向かう。
蛇口を閉め、自室から1人分の着替えとバスタオルを持ってリビングに行く。
凛「クウ」
凛「風呂の入り方教えるから来て」
クウ「はい」
凛はクウがお菓子を握ったままの手を見る。
凛「お菓子は机の上に置いとこ」
クウ「あーはい」
クウはお菓子をテレビ前の机の上に置く。
凛は着替えとバスタオルを持ったまま風呂場に入る。
凛「頭洗うやつはこの白いやつな」
凛「んで体洗うやつがこのピンク色のやつやけん」
凛「分からんくなったら呼んでや」
凛「私リビングにおるけん」
クウ「分かりました」
クウはその場で下の服を脱ぎ始める。
凛「あ、あと服は洗面台の前に置いといて」
凛「風呂場に置いたままやと濡れるけん」
クウ「分かりました」
クウは脱いだ服を洗面台の前に置き、凛は部屋を出てリビングのソファに座る。
凛「ちゃんとできるかいな…」
凛「あ、ラップタオルまだ洗濯機の中や!」
凛「あーっ、いや、ドライヤーで羽乾かしたらいけるな…」
凛「ん?歯磨き買うの忘れとった!」
凛「近いけんちょっと行くか」
凛は立ち上がり、外に出て車に乗ってすぐに買いに行く。
一方クウは前日驚きと恐怖に襲われたものの、興味を持って湯船の中にゆっくり人差し指を入れる。
徐々に慣れてゆき、そのまま片手を入れて湯船の中をかき回す。
そして腕まで浸からせ、たらいで汲んで風呂椅子に座って軽く足に掛ける。
警戒心を解いたクウは頭からたらいでお湯を被り、一気に押し寄せる熱に動きが止まって羽を広げる。
その後は順調に頭と体を洗い終えて凛も帰ってくる。
クウはゆっくりと湯船に浸かることができ、不思議な心地よさと胸の高鳴りを抑えるような落ち着く環境に身を委ねるように座ったまま脱力して足を伸ばす。
凛は洗面所に入ってこっそり歯磨きをその上に置き、リビングのソファに座る。
しばらくしてクウはバスタオルを頭に巻いたまま、上裸でリビングに立つ。
凛「うわぁ…羽の先から水滴垂れとる…」
凛「あー…」
凛「それはタオルで拭かんと」
クウ「ん?」
クウ「あっごめんなさい!」
クウは頭に巻いたバスタオルで濡らしたところを拭く。
凛「終わったら洗濯機に入れるんで」
クウ「はい」
クウは拭いた後のバスタオルを洗濯機に入れる。
凛「あっいや私も風呂入らなあかんわ」
凛「ちょっと待って」
凛は一瞬使用済みのバスタオルを共有するために洗濯機から出そうとするがある考えが脳裏を過る。
凛(天使の使用済みバスタオル…!なんか語呂が凄い…)
凛(普通はバスタオル共有するんかな…)
凛「まあいいや…まだバスタオルあるし、それ使う」
凛は洗濯機を閉め、自室から新しくバスタオルと着替えを手に持って風呂場に入る。
凛(明日から新しいバスタオル買うか…)
一方クウは凛が風呂場に入るまでを見届けてアニメを見ながらお菓子を食べる。
1話を見終えた辺りでリビングに凛が部屋着姿でお風呂から上がってくる。
凛とクウは一緒に髪と羽を乾かす。
凛「クウ」
凛「歯磨くで」
凛はバスタオルと服を洗濯機に入れ、クウと凛は洗面所に入る。
凛「買っといたで新しい歯磨き」
凛はクウの歯磨きを手に持ち、歯磨き粉を乗せる。
凛「口開けて」
クウ「はい」
クウは口を開ける。
凛「めっちゃ甘い匂いする」
凛「どんだけあのお菓子食べたんよ」
凛はクウの歯を磨く。
凛「明日からちゃんと自分でやるんで?」
凛はある程度磨き終え、次の段階に移る。
凛「いーってして」
クウ「いーっ」
凛「明日からやけど歯茎のとこまでちゃんとやるんで?」
凛はクウの歯を磨き終え、手を洗ってから手で器を作り、水道水を手の中に溜める。
凛「ごめんこれでぐちゅぐちゅぺっして」
クウは凛の手を両手で支えながら水を口の中に溜めてそれを排水口に吐き出す。
凛はしばらくの間体が硬直する。
クウ「…?」
凛(普通に可愛い!)
凛は少し呼吸を整えて洗面所とリビングの電気を消す。
凛「今日早く寝るぞ」
クウ「はい」
凛はクウと自室に入り、ベッドに寝転ぶ。
凛「上裸寒くないん?」
クウ「はい」
凛は自身の両目に手で覆う動作をする。
凛「うーん…羽で包んで寝るやろ?」
凛「暖かいん?」
クウ「はい」
凛「悪いんやけど試してもええ?」
クウ「はい」
凛「あ…えっどうしよ」
クウは凛を強く抱き締め、羽で凛の腰周りを包む。
凛「え?!なに?!」
凛「おっ…おおん…暖かいわ」
凛「あの…もう離れてええで」
クウはジャンプして両足を凛の腰の後ろに絡める。
凛「うわっ重っ!」
凛はそのまま後ろのベッドに倒れる。
凛「…痛ってぇ…」
クウ「あっごめんなさい!」
クウはすぐに離れる。
凛「いやいやええよ」
凛「大丈夫やけん」
凛「でも眠いけん」
凛はクウの頭を撫でる。
凛「寝るわ」
凛「おやすみ」
クウ「はい…」
クウ「おやすみ」
クウは端の方で丸まり、凛が目を閉じたことを確認するとそっと羽でおでこを撫でる。
2人は眠り、クウはある音で目を覚ます。
小石が窓に当たるようなコンコンという音に目を向けたが音よりもまだ暗い夜だと気付いて眠気のある内にまたクウは眠りに付く。
朝になり、少し遅めの10時で凛は目を覚ます。
凛「んん…」
隣を見るとクウがいないことに気付いて目を見開き、前日のことを思い出し、よく見てみるとベッドが凹んでいることに気付く。
凛「はぁ…」
凛はそっとクウの頭と思われる場所を撫で、すぐに身支度を済ませ、買い物に行こうと玄関に向かう。
扉を開けると横腹にそっと何かが通って行ったようなクウの最初と似た現象を感じ、無意識的に後ろの空間に手を伸ばす。
すると羽のような感触と共に天使の姿が現れる。
凛はその天使をぼーっと眺め、その間に天使はクウのいる自室へと向かう。
それを見た凛は訳も分からず急いで自室に駆け込む。
まだ見えない状態のクウを天使が抱っこするようにして窓へとゆっくり後ずさろうとしている。
凛「誰や!」
天使「ん…?!見えるの?」
凛は頷きながら答える。
凛「なんで持っていくん…?」
天使「それは…多分仲間だから…」
凛「待って…!何するん…?」
クウは目を覚ましたようで天使の腕の中で驚いたみたいに動く。
凛「…クウ!」
クウは天使の腕からするりと下から抜けて凛に駆け寄る。
そして天使はクウの動きを目で追い、咄嗟に手を伸ばす。
凛はクウの羽に触れて姿が見えるようになる。
天使はクウの腕を掴む。
天使「こっちに持ってきてください」
凛は天使の腕を掴む。
凛「何するん!」
天使「…何もしない」
凛「じゃあ離して!」
天使は一度クウの腕を離す。
凛「…おっ…」
凛はしばらく天使を見る。
凛「え?何が目的なん?」
天使「目的…?天使と会いたい」
凛「ん?会いたい?」
天使「うん」
凛「は?なんで?」
天使「天使だから!」
凛「待ってクウはこの天使知っとん?」
クウ「知りません」
天使「天使がいる気がしてここに来た」
凛「怪し」
凛はつい口から出た言葉に自分で笑う。
凛「ふっ」
凛「ごめん何もないんやったら一緒に住む?」
凛「なんなら」
天使「住む?!」
天使「いいの?!」
凛「クウもおるけ」
凛「あんま変わらん」
凛「あっ」
凛はこれからの電気代や食事代を考える。
凛「いや…余裕は…あるか」
凛「住まわせるけど先に名前聞いてもええ?」
天使「名前はカイ(海)」
カイ「君はなんて呼ぶ?」
凛「おっ凛でええよ?」
カイ「うん分かった」
凛「こっちの方の天使はクウっていう名前やけん」
凛はこれからすることを考える。
凛「カイは今日飯食べたん?」
カイ「コンビニのおにぎり」
凛「あー虫とかやないんや」
カイ「え?」
凛「でもどうやって買ったん」
カイ「盗んだ」
凛「ダメダメダメダメ!絶対あかんやつや」
カイ「大丈夫だよ。どうせ見えないから」
凛「それでもあかんねんっ」
カイ「うーん…考えとく」
凛「本間にそうしてくれ」
凛はクウを後ろから抱き締めながら地面に座る。
凛はしばらく目を閉じる。
凛(変な幻を見てる)
凛(多分…)
クウは凛の中で背中を丸めて縮こまる。
凛「ああごめん」
凛「洗濯機回してくるからカイとおって」
クウ「はい」
凛「あっ買い物行くか…」
凛は洗濯機を回して買い物に行く。
その一方でクウとカイは静かに互いに見つめ合っている。
カイ「やっと同じ天使に合えてさ」
カイ「遠くからでもあの女性と触れ合っていたのを感じたよ」
カイ「君は喋れる?」
クウ「うん」
クウ「同じ天使だよ」
カイは羽を広げて見せ、クウも同様に広げる。
カイ「君も透明に見えるんだよね?」
クウ「うん」
クウ「みんなから」
カイ「じゃあ同じだ」
カイはクウに近寄る。
カイ「やっぱり似てる」
クウ「うん」
クウ「似ている」
カイ「そっちは楽してる?」
クウ「恋をしてる」
カイ「…あの女性に?」
クウ「うん」
カイ「犬と飼い主みたいだけど?」
クウ「え?」
カイ「そう見えるよ」
カイ「あの人とまともに会話できそうだったけど」
カイ「ここの生活は悪くないんでしょ?」
クウ「うん」
クウ「凄く安心する」
カイ「じゃあ自分も一緒に住むからよろしくね」
クウ「うん。よろしく」
互いにしばらく雑談する。
玄関から扉を開ける音がし、クウは部屋の扉を開けてすぐに凛のところへと駆け寄る。
凛「おお帰ったよ」
凛はカイとクウの買ってきた追加分の日用品を色んなところに置き、ビールを冷蔵庫に入れる。
凛は洗濯物を干し、ベッドに腰を降ろす。
凛「あー…」
凛「日用品…結構した…」
カイ「お風呂入っていい?」
凛「まだダメ」
凛「みんな入る時間あるから」
凛の背中からクウが抱き締めてくる。
凛「え?どしたん」
クウ「なんでもないです」
クウは腕を羽と共に凛のお腹に回す。
カイもクウの後ろから抱き締めてくるが凛のお腹に腕を回せずクウのお腹に回す。
凛は後ろを見る。
凛「ふっ。いやなにしてん」
カイはそのまま後ろに傾けて凛からクウを引き剥がす。
クウ「あぁっ…」
凛は冷凍食品を温めてクウと共に食べ、洗濯物を干す。
凛「アニメ観るか」
凛はカイとクウを呼び出し、3人でソファに座りながらアニメを映し出す。
カイ「有名なやつだ」
凛「あっ知ってんだ」
カイ「流石に知ってるよ」
カイ「映画館行った」
凛「あー…普通に違法や」
カイ「うん」
何話目かを観てる内に凛はテレビを消してクウを前から抱き締める形で眠る。
クウは目と口を開けて硬直し、羽で自分の顔を隠しながら凛を起こそうと自分の足を動かす。
カイもソファの上で眠り、それを見たクウも自分の上半身を羽で包んで眠る。
凛が目を覚まして携帯で時間を見ると午後8時を回っており、カイとクウを寝かせたままベランダに干した服を部屋の中に入れて夜ご飯の炒飯を作る。
3皿に分けた炒飯と1缶のビールを机の上に置き、2人を起こす。
凛「ご飯できたよー」
クウとカイは眠そうに起き上がってゆっくりと歩いて椅子に座る。
クウは慣れたように素早くスプーンで掬って食べる。
カイもそれに続いてゆっくり食べ出す。
凛「カイはあんまり食欲ないん?」
カイ「まあそんなにお腹空いてないから」
凛「あーそうなんや」
カイ「2日くらいしないと食欲がない」
凛「ふっ…クウもそういって毎晩めっちゃ食べてるから」
カイ「食欲旺盛」
凛「私もいくか」
凛はビールを開けてグビグビ飲む。
カイ「自分もビール欲しい」
凛「絶対にやらん」
凛は食べ終えた皿を片付け、シンクで洗って湯船にお湯を溜める。
リビングに戻るとカイがリモコンを使ってアニメを映していた。
凛「カイ」
凛「私が家におる時だけな。アニメ観ていいの」
みんなでソファに座って更に1話を観終えたくらいにお湯が溜まり、着替えとバスタオルを持って洗面所に入る。
凛「風呂は分かるやろ?」
カイ「ん?うん」
凛「じゃあ2人で先入ってや」
凛「クウにも入り方教えたから分からんかったら聞いて」
凛は洗面台の横に着替えとバスタオルを置いてからリビングに戻り、携帯を触る。
カイとクウは服を脱いで頭や体を洗う。
クウ「分かるの?」
カイ「カタカナでボディーソープとシャンプーって書いてるし」
カイ「流石に分かる」
カイ「ボディタオル1つしか無いなら自分先使う」
クウ「うん」
クウとカイは頭と体をたらいのお湯で流し、湯船に浸かる。
カイ「そんなに熱くない」
クウ「いつも熱いの?」
カイ「温泉とかずっと熱いよ」
しばらくカイとクウの間に沈黙の空気が流れる。
カイ「明日他の家行く?」
クウ「行かない」
クウ「凛といる」
カイ「じゃあ自分もいようかな」
一方凛はまたビールを片手にグビグビ飲みながら兄に電話を掛ける。
凛「もしもしー」
琉生「はーいもしもし」
凛「今から確かめたいことあるから私の家来てくれん?」
琉生「え?いやもう夜だからダメでしょ」
凛「黙れ独身明日休日やろ」
琉生「お前も俺と同じ独身だけどな」
琉生「まあ暇だし、車で行くわ」
凛「おんアニメ観ながら待っとく。駐車場あそこね?前のいつものとこ」
琉生「分かったー」
凛は電話を切ってビールを飲みながらアニメを観る。
そうして1話が終わり、次のアニメを見始める28分程経ったくらいに玄関のチャイムが鳴る。
凛「よしよし来やがった」
凛はソファから立ち上がり、ドアスコープを覗く。
凛「どなたですかー?」
琉生「お前の兄ですー早く開けてくだせぇ」
凛は扉を開け、琉生は靴を脱いでリビングに上がる。
それと同時に着替えたクウとカイは羽から水滴を垂らしながら洗面所の扉を開けて廊下を歩いてくる。
凛「見て」
凛は琉生の肩を掴んで後ろを向かせる。
琉生「ん?何?靴揃えろって言いたいの?」
琉生「いやちゃんと拭けよ」
琉生は洗面所から廊下に繋がる水滴で濡れた跡を見る。
そして琉生は現在進行形で更に廊下の水が増えていくことに気付く。
琉生「水漏れ?」
琉生は洗面所のドアノブに手を掛けようと近寄るとみぞおち辺りに空中で止まったボウリングに当たったような感覚がし、1度離れる。
クウ「ん…」
もう一度琉生が洗面所に入ろうとすると何かにつまずいて転びそうになり、ドアノブに手を掛けて回したせいで扉が開いたまま洗面所の中に倒れるように転び込む。
琉生「いったっ!」
琉生「なに?」
琉生はつまずいた方を見るがつまずいた原因が見えず、凛は何も無い場所に対して謝り、何かをその何も無い空間から持っていくような動作をする。
琉生「…」
琉生はぶつけて赤くなった鼻を手で抑えながら目を開けてしばらくの間つまずいた場所をぼーっと見る。
すると琉生の股間に打たれたような激痛が襲い、咄嗟に股間を手で覆う。
琉生「おおぉっ…」
琉生は呻き声を上げながらもがき続け、やっとの思いで立ち上がる。
琉生「凛!」
琉生は股間を抑えながら何にもぶつからずに凛の自室に入る。
凛はベッドに座っている。
琉生「これ何?凛」
凛は琉生の方を向く。
凛「ごめん」
凛「一回来て」
琉生は凛の右隣に座ろうとしたが凛がそれを止めて左隣に座らせる。
凛「手出して」
琉生「え?なんで?」
琉生は手を差し出し、凛はクウの羽に触れさせる。
するとクウの姿が現れ、足にアザができている。
琉生はそのアザよりクウの顔に視線が寄る。
琉生「あ?」
琉生「え?!誰!」
琉生は咄嗟に羽から手を離す。
そうするとクウの姿が消える。
凛「あっ見えるんや」
琉生「ビックリした!」
琉生「凄い綺麗な人形が出てきた!」
凛「そう。今の天使」
琉生「あー確かに羽生えてたわ」
琉生「さっきのやつってどうやってやった?」
凛「知らん。今日はもう帰って」
琉生「は?いやいや来たばっかり」
凛「酔った勢いで呼んだだけやけ!早よ帰って!」
凛は琉生の両手を玄関まで引っ張っる。
凛「はいおやすみー!」
琉生「はぁ…酔いすぎやろ…」
琉生「もう水飲めよーおやすみ」
琉生は玄関扉を開けて帰っていく。
琉生「あ?なんだっけ」
凛はドライヤーで2人の髪を乾かす。
凛「ごめん、クウ」
クウ「大丈夫です」
凛「痛くない?」
クウ「痛いです」
凛「本当にごめん」
カイ「あいつクウの足を踏んづけたから怒って股間を蹴った」
凛「…あー、あいつ股間抑えてたな」
凛「やってもうたわ…呼ばんかったら良かった」
凛は冷風にして乾かし、干した後のラップタオルを持ってくる。
凛「どっちか使う?」
カイ「自分は暑がりだからクウでいいよ」
クウ「うん」
凛「分かった」
凛はクウの羽にラップタオルを包む。
凛「よし!オッケー」
凛は2人の頭を撫で、クウが凛の腕を掴む。
凛「お?クウ」
凛「ふふっ」
凛は頭を撫で続ける。
クウ「ふひひ」
クウは笑顔で撫でられ続け、腕を離し、羽を少し広げる。
カイ「撫でるな」
カイ「気持ち悪い」
凛の携帯から通知音がし、その間にカイはアニメを観るためにリビングに行く。
凛「おっ?」
携帯を開くと琉生から「ちゃんと寝た?」というメッセージが届いていた。
凛はそれに対して「寝た☆」と返信して通知をオフにする。
凛「ふっ…めっちゃテンポ良く通知オフにしたなぁ…」
凛は琉生の反応を少し思い浮かべる。
凛「ふははっ」
凛はベッドに座る。
凛「あー…風呂入ってない…」
凛「着替えるのすら面倒くさいー…」
クウが隣に座って凛の方を見ていることに気付き、凛はクウを抱き抱えながら寝転がる。
クウは抱き抱えられながら咄嗟に凛の肩に手を置いて、羽で凛をバシバシ叩く。
凛「いやー!絶対離さん!」
凛「この可愛い生物を保護しなくては!」
より力強くなる抱擁にクウは足をじたばたさせ、より羽が凛をバシバシ叩く。
リビングのカイが操作しているテレビの音量が大きくなる。
凛「…寝る時間なのにあんにゃろ…」
凛はクウを離してリビングに行き、カイがチラッとこっちを見るがすぐにアニメの方を観る。
凛「寝るぞー!」
カイ「嫌だー」
凛はリモコンを使ってテレビの画面を消す。
カイ「あっ」
凛は部屋の電気を消し、カイを抱っこしてからベッドに投げる。
カイ「え?え?!ちょちょ!」
カイ「げふっ」
そして座った状態のクウとカイを両腕で抱き締めにベッドに向かってダイブする。
凛「おらぁ!」
クウ「うわぁ!」
カイ「いやー!」
カイはすぐに抜け出してクウを助けようと腕を引っ張り、凛はクウをしっかりと抱き締め、クウの羽が大きく開く。
カイはすぐに諦めて凛と同じようにクウを抱き締める。
クウ「暑い…」
凛はすぐに眠り、カイはクウを抱き締めたままベッドの端に寄る。
カイ「…こっち…」
クウ「うん…」
クウはカイの目が閉じたことを確認して、羽で凛の頭を撫でて凛の手を片手で握りながら目を閉じる。
コメント
1件
わあ、読み終わりました!凛ちゃんのツッコミと、初めてのことに一喜一憂するクウの様子がすごく可愛くて、ほっこりしながら読みました。ご飯を作って食べさせたり、一緒にお風呂に入ったり…日常の描写が丁寧で、自然と二人の距離が縮まっていく感じが伝わってきました。最後にカイが登場してさらに賑やかになりそうな予感で、続きがすごく気になります!🕊️🍳