テラーノベル
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夕食を終えた後、ノワールは少しだけ疲れた表情で椅子に腰を下ろした。
簡単に用意されたスープとパンを口に運び、湯浴みを済ませたばかりの身体は、まだ温もりを保っていた。
ステラは彼のそばに立ち、柔らかい光の中で微笑む。
「疲れてない?」
ノワールは肩をすくめ、短く「うん」と答えた。
でもその声には、微かに緊張が残っていた。
ステラはその微妙な揺らぎに気づき、静かにうなずく。
「そう。じゃあ、もうすぐ寝る時間ね。眠くなるまで、少しお話でもしてからにする?」
ノワールは、視線を床に落とし、しばらく考えてから小さく頷いた。
彼にとって、自分から何かを選ぶことは、まだ小さな勇気だった。
夜の教会は、昼とは違った静けさに包まれていた。
石造りの廊下を歩く足音はひんやりと反響し、窓から差し込む月明かりが床に淡く光を落としている。
ノワールは壁沿いにゆっくり歩き、祈りの言葉や小さな像に視線を送った。
壊れ物を扱うかのように慎重なその仕草は、今も染みついた警戒心の名残だった。
「今日はここでおしまいよ」
ステラが寝室の扉を開き、柔らかく声をかける。
「おやすみなさい。何かあったら、呼んでね」
ベッドのシーツは清潔で、微かに石鹸の香りが漂う。
月明かりが窓から差し込み、室内を銀色に染めている。
ノワールはゆっくりとベッドに身を横たえた。
柔らかいシーツの感触に、思わず小さく息をつく。
でも、眠ろうとしても、目は冴えていた。
静かすぎる夜の空気の中で、頭の中はステラのことでいっぱいになる。
どうして、自分が何も言わなくても受け入れてくれるのだろう。
叱られないと言われたけれど、本当に何をしても怒られないのだろうか。
疑念が心の奥で小さくざわめき、ノワールは思わず唇を噛む。
ステラの声、表情、仕草が頭から離れない。
優しいその姿が、今の自分には眩しすぎて、でも目を離せずにいた。
(……僕、まだ、誰も信用できないのに)
(でも、ステラは……敵じゃないんだよな)
何度も自分に言い聞かせるように思う。
それでも、胸の奥は安心できず、警戒の糸をほどくことができない。
けれど、目を閉じると、自然にステラの顔が浮かんでしまう。
いつの間にか、瞼が重くなり、意識が薄れていく。
そして眠りの中で、ノワールは夢を見た。
森の中を無我夢中で走る夢。
背後では義母と義父の叱責の声が響き、胸が締め付けられる。
逃げても逃げても、追いかけられる感覚。
息が苦しく、心臓が破れそうに高鳴る。
目が覚める寸前、夢の中で自分の小さな手が空をかき、必死で前に進もうとするのを感じた。
喉の奥で声にならない声が上がる。
月明かりに照らされた寝室で、ノワールの小さな体はわずかに震えていた。
でも、その震えの中には、まだ希望の光も混ざっていた。
ステラの存在は、眠れない夜にも、彼を守る温もりとなって、少しずつ胸に染み込んでいるのだった。
じゃあここから、
月明かりに照らされた寝室で、ノワールの小さな体はわずかに震えていた。
でも、その震えの中には、まだ希望の光も混ざっていた。
ステラの存在は、眠れない夜にも、彼を守る温もりとなって、少しずつ胸に染み込んでいるのだった。
彼はベッドからそっと降り、夜の廊下へと向かう。
ペタペタと床を打つ足音は小さいが、確かに響いた。
──ステラは眠っているかもしれない。
それでも悪夢を見たあとで震える体は歩みを止めない。
ステラの部屋の前に辿り着いた時、ノックをしようとする手が止まる。
ステラの部屋の前に立つと、ノックをしようと伸ばした手が止まる。
──怒られたらどうしよう。
冷や汗が背筋を伝い、喉の奥が熱くなる。
身体が小さく震え、思わず手を引っ込めてうずくまった。
ガチャ
そのとき、扉が静かに開く音がした。
「ノワール?どうしたの?泣いているの?」
焦った声と、驚きと優しさの混ざった表情で、ステラはしゃがみ、目線を合わせるように顔を覗き込んだ。
「…ごめんさい…ぼくっ…」
声はかすれ、息が詰まるように震えている。
「怖い夢でも見たの?」
ステラは静かにそう尋ね、涙目のノワールの頭をそっと撫でる。
その手の温もりに、ノワールの身体は少しだけ力を抜いた。
「…っ…ん…ひっく…」
小さく頷き、涙をこぼす。
誰にも見せたことのない弱さを、ただ抱きしめられるように泣く。
ステラはその小さな背中を撫でながら、優しい声をかける。
「大丈夫よ、ここにいるから」
その言葉は、どんな叱責よりも力強く、ノワールの心に静かに届く。
胸の奥で、長く締め付けられていた何かが、少しずつ緩むのを感じた。
──誰も責めない。怒らない。期待もしない。
ただ受け入れてくれる人がいる。
その事実が、ノワールに小さな安堵をもたらす。
「……ありがとう」
震える声でつぶやく。言葉は短くても、心からの感謝が込められていた。
ステラは微笑み、さらにそっと抱き寄せる。
「ゆっくり休んで。私はここにいるから」
その温もりに包まれ、ノワールの身体は少しずつ力を抜き、心も沈んでいく。
月明かりが窓から差し込み、
二人を柔らかく照らす。
廊下も、部屋も、夜の静寂が染み渡る中で、ノワールは初めて、ほんの少しだけ安心して眠りの淵に身を委ねるのだった。
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