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正体が分かれば、ただの焼き物だ。
私は安堵のあまり、鼻で笑って余計な一言を放った。
「あんた……その図体のわりに、ずいぶんと『あそこ』は慎ましいのだな」
瞬間、音が消滅した。
分子の振動さえ止まったかのような絶対的な無音が訪れ、数千年の歳月を圧縮したような、永遠の時間が広がった。
意識は肉体を離れ、宇宙の深淵へと投げ出される。
ビッグバン、生命の誕生、銀河の終焉。
あらゆる記憶が濁流となって過ぎ去り、私は一粒の塵でありながら、全宇宙そのものとなった。
視界が白転し、巨大なタヌキは煙のように消えていた。
ただ銀色のススキが揺れる野原に、タヌキが残した最後の一言だけがこだましていた。
『お前もな』
直後、未体験の衝撃が肉体を貫いた。
痛い。
肛門の奥底を、燃え盛る槍で貫かれたような激痛。
私は崩れ落ち、ススキを掴んで震えた。
しかし、痛みとともに奇妙な解放感が訪れ、芯から溢れ出した何かが白い布地を真っ赤に染め上げていく。
月光の下、その色はどす黒い深淵の紫に見えた。
「ああ……」
私は恍惚の中で確信した。
私はいま、人としての境界を踏み越え、月と女性を繋ぐサイクルへと足を踏み入れたのだ。
この痛み、この出血。
これこそが「転生」の証に違いない。
私は悦びに身を浸し、夜が明けるまでうずくまり続けた。
*
数日後、私は病院の診察室にいた。
「――無理をしすぎましたね。内痔核が脱出して、ひどい炎症を起こしています」
医師の淡々とした説明だけが、虚しく診察室に響いた。
今でも、鋭利な月を見るたびに、お尻の奥底がかすかに疼く。
あの時のタヌキの嘲笑は、注入軟膏まみれの日々を予言していたのだろう。
それでも、舞台の幕はまだ下りてはいない。
私は今日も、左右で高さの違うサンダルを履き、冷たい夜風へと踏み出す。
今度は、替えのブリーフと、使い慣れた軟膏のチューブをポケットに忍ばせて。