「まさか!付き合ってなんかいないよ!」
「女史っていくつなんですか?」
「たしか29歳だったかな?」
「え~?いい感じだと思ってたの俺だけ?でもそうですよね・・・もうすぐ30歳みそじかぁ~・・・うん・・・俺も無理だな」
「もしかして・・・・女史って、あんな感じだから男知ってんのかな?どうなんですかね?編集長!」
「あれは処女だよ」
でた~~~~っ!「編集長悪い男だな!男を知らない文学年増女史をその気にさせて、書かせてたんですね!」
ガハハハハッ!「30歳でバージン?処女膜大丈夫?蜘蛛の巣張ってたりして!」
ワハハハ「蜘蛛の巣って!こえ~~~!」
彼らの笑い声が紗理奈の体に鎖のように絡みつく
紗理奈の中で・・・・・
落したグラスが床に割れて粉々になったかのように、彼への愛も信頼も、すべて粉々になった・・・・・
ショックで下に落下しているような、感覚に陥り
両のこぶしを無意識に握りしめて、息をしようとした
意識的に足を動かさなくては、一歩も前に進めなかった、そして何とかその場から逃げ出した
:.*゜:.
アハハ「さぁ・・・午後の会議の前に、ランチに行くか 」
「行きましょ!行きましょ!」
「ここの会議室電気切っときますね」
和樹と後編集部員二人が会議室から出て、エレベータ―に向かった時、編集部員の一人が言った
「あれ~?これなんだ?」
「どうした?」
「会議室の入口に・・・ケーキですよ!これ!」
一人の編集部員が会議室の入口に置いてある、20人分のスイーツが入った箱を、開けてマジマジと見る
スイーツの箱を見つめて和樹が言った
「・・・・誰か来たのかな?」
:.*゜:.
しばらく回想に入っていた紗理奈は、コンドミニアムのポーチの椅子に座り、静寂した真っ暗な海を見つめる
あれから1か月・・・・
紗理奈が和樹と再び言葉を交わす可能性は、一つも思い浮かばなかった、そして彼の出版局では二度と書かないと誓った
そこからは無意識に時間は進んだ、彼には体調が悪いのでしばらく休暇に入るとだけ、メールを書いた
本当は自分の気持ちを色々書きたかったけど、あの屈辱的な会議室での立ち聞き事件を、思い出すのも嫌だったので簡潔にまとめた
彼とのことはけりがついたのよ紗理奈・・・このメールを送っておしまい
メールを打つ紗理奈の手の甲に、ポタリ・・・ポタリと熱い涙が落ちた
でも振り返りたくなかった、振り返ってめそめそしたら今までの、自分の頑張りをすべて否定することになってしまう
全てを捨てて創作に打ち込んで来た、30歳手前、処女、女が、プライドまで捨てたら何が残ると言うのだろう
そこからは弁護士を雇って、紗理奈と出版局の契約解約に向かって、紗理奈は一切関与せずに事を進めてもらった
マンションもさっさと引き払った、彼に家に来られるのが嫌だった、顔も見たくなかった
故郷に帰るとたった一言姉二人にlineを、送ると意外にも家族は温かく、迎えてくれた
しかしあの騒々しい実家に帰る気はおこらず、すぐにこのコンドミニアムが売りに出ているのを知って購入した、東京のマンションの三分の一の値段だ
今の紗理奈にはヒット作3作のおかげで、富豪遊びみたいな贅沢さえしなければ、死ぬまで優雅に暮らしていける、ひと財産は手に入っている
自分で選んだ自立は最良の道・・・だけど必ずしも一番心地良い道だという訳でもない
全てのものには代価がある
紗理奈は自立を大いなる孤・独・地・獄という、代価を支払って買ったのだ
体をすっぽり包むラタンチェアーに膝を抱えこみ、夜空の星を仰ぎ見た
まるで黒いベルベットの布に宝石をちりばめたようだ、こんな景色は夜でもスモッグで曇った東京では、お目にかかれない
悔しいが彼らの言う通りだ、思い出すだけで屈辱で目に涙がにじむ
本当に蜘蛛の巣が張っていたらどうしよう・・・それともあれはどういう意味なのかしら?何かを揶揄しているような単語なのかしら?
「30歳みそじ、処女、蜘蛛の巣」で検索してみたが、何もヒットしなかった
紗理奈はまた泣きたくなった
いったいこの先30歳の処女の女を、どこの誰が相手してくれるだろう、もし奇跡的に素敵な人が現れて、いい感じになったとしても、とてもではないが自分がまだ処女だなんて言えない
それを聞いた男性にスタコラさっさと、逃げ出されたりしたらもう立ち直れない
処女なんかさっさと捨てたかった、でもそこらへんにいる男性を捕まえて、処女を捨てさせてくれなんて、痴漢行為もいい所だ
そこでマダム鶴子の事を思いついた、我ながら良いアイディアだった
そ・の・手・の・ことを職業とされている方なら・・・
プロフェッショナルの方なら、色んな女性を相手にしてるのだから、こんなどうしようもない女をバカにしたりしないだろう、現にマダム鶴子は懐の深い素敵な女性だった
ああ・・・マダム・・・
紗理奈は星に願った
出来れば明日の誕生日に、ここに送り込まれてくる男性ひとが、私の好みでありますように・・・・
..:。:.::.*゜:.
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