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「……いや、有り得へんやろ」
さっきから、貧乏揺すりが止まらへん。
はんちゃんを挟んだ両隣に、空と元がいる。
はんちゃんは、サメの泳ぐ大きな水槽を見ながら二人に話しかけるのに大忙しのようやけど、どこか楽しそうや。
でも、時折。元がこっちを気にするように振り返っては、俺と目を合わせてニッコリと笑う。
最初は勘違いかと思った。やけど、笑顔を向けられるたびに、確実に心臓がドキューンドキューンと音を立てている。
「……ちょっと疲れたから、休憩してくるわ」
そう言って、誰かが返事をする前に、俺はその場から離脱した。
そうして今、ここにいる。水族館らしい、水槽を眺めながら一息つけるカフェで、一人ブラックコーヒーを啜っている。
ここは、普通のカフェと違って周りの視線が気にならないのが救いやった。水槽と向かい合わせになったソファに座れば、目の前を泳ぐ魚たちを眺めながら、一人でゆっくりできる。
……それでも、貧乏揺すりだけは相変わらず止まらんけど。
「……もとちゃん、お隣いいですか?」
やけに塩らしい、甘さを含んだ声で話しかけられた。
振り返ると、そこには相変わらずニコニコとした元がいて、また心臓がドキューンと跳ねた。
「……うん、どうぞ」
これは、はんちゃんと空に気を使って離脱してきたタイプやな。
視線の先に好きな人の彼氏がいるなんて、心の底からは楽しめへんもんな。
「……すごー、いいね、ここ。なんも余計なこと考えんでよくなる」
「……うん、ええとこやな。来てよかった」
適当に返事をしたけれど、内心では元のことで頭がいっぱいやった。
全然、余計なことばっかり考えてるで、俺は。
いや、だってさ。遊びに来ただけならまだしも、温泉旅館にお泊まりに行くねんで。
しかも、露天風呂付きという、予測不可能なシチュエーションも兼ね備えてる。
はんちゃんは絶対どっかのタイミングで、空の部屋に行くんやろし。露天風呂付きの部屋に残されるのは、確実に俺と元だけで……うわぁ、まだ昼やのに、緊張してきた。
「……はんちゃんと空は?」
緊張してるけど、向こうには俺が意識してることはバレてへん。さっきまでと変わらず話しかけた方が、この先もバレへんやろう。
「はんちゃんがお土産屋さんを見に行きたいって。この時期だけの限定グッズがあるらしいよ」
甘ったるそうなアイスカフェオレをストローで吸いながら、俺に話しかけてくる。
いや、可愛いな。どこで、どこからそんなに可愛くなったん? どのタイミングでどんな魔法使ったんや。
「……そう」
どうしよう、可愛すぎて、なんて言ったかほとんど耳に入ってこんかった。少し冷たい返し方してもうたな。
「……もとちゃん、ごめんな? 疲れたやろ。俺とはんちゃんと空さんのこと、もとちゃんは一切関係ないのに」
「いや、そんなこと全然おもてへんで。はんちゃんが俺を選んでくれて良かったって、本気で思ってる。……元と出会えたのも……ほんまに……良かったって思ってる」
あー、歯切れが悪い。緊張してうまく笑えへんし、これはどうしたもんか。
「……じゃん! かわいー! もとちゃん、似合ってる!!」
「え、何これ!?」
急に頭に違和感を覚えたと思ったら、カチューシャらしきものをつけられたらしい。
目の前の水槽に反射して映る、俺の姿。頭の上でピカピカ光るお魚さんたちが、バネでゆらゆらと動いている。
「俺はこれ! 可愛いやろ?」
「……はんちゃん、それ猫耳やん。水族館関係ないやん」
元のツッコミに、はんちゃんは「可愛さ重視で!」と満面の笑みで返している。
さっきまでははんちゃんの方ばかり見てしまっていたのに、今は元の横顔ばかり見てしまう。俺の変わり身の速さったらないわ。
「くうちゃんと元はお揃いのイルカさんのピカピカネックレスな。仲直り記念!」
そう言いながら、はんちゃんは、すでに空がつけているものと同じイルカのネックレスを元の首にかけた。
「……可愛い。ありやな」
ぼそっと嬉しそうに呟く元に、少しだけ心臓がギュッとなる。
もし、これが本当に恋なら、この片想いは何年続くんやろう。
でもきっと、はんちゃんへの子供の時からの恋とは違う。
俺ら、もうええ大人やから。綺麗な恋ばかりじゃ、真っ直ぐ進んで行けへん。
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