テラーノベル
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「今日は、例の武器屋の本店に行こうとしたのですが――」
……ルークは今日の出来事を話し始めた。
私が錬金術師ギルド、エミリアさんが大聖堂に行っている間の話だ。
「まず場所がうろ覚えでしたので、先日行った武器屋に立ち寄ったんです。
詳しい場所を聞いてから向かおうと思いまして」
「うん。確か歩きだと、そのお店から1時間半くらい掛かるんだよね?」
さすがにその距離だと、場所は不安になるよね。
少し方向を間違えただけでも時間をロスするし、その挙句に辿り着けないなんてこともあるだろうし。
「はい。それで本店の場所を聞いてから、その店を出たところ――」
「出たところ?」
「女性が突然、体当たりをしてきたんです」
「ちょっと待って」
「はい」
「……何だかその話、聞き覚えがあるんだけど」
「以前……クーポン券で熊のぬいぐるみを交換してきたときですね。
あのときも同じことがありました」
「ああ、それと混同してるわけじゃないんだね。
ごめんね、続きをどうぞ」
「何でしょうね? ルークさん、体当たりされたい顔でもしてたんですかね?」
それってどういう顔。
「それでまた、今回もとっさに避けたのですが……。
驚いたことに、前回と同じ女性だったんです」
「確信犯だ」
「確信犯ですね」
「前回は手を貸して起こしたのですが、今回はどうにもそんな気分になれなくて……。
申し訳ないのですが、逃げました」
「あはは……。それは仕方ないんじゃないかな、怖いし……」
「まったく怖いですね。不気味と言いますか……」
「走ってる最中に大きな声で名前を呼ばれたので、周りの人がみんなこっちを見てきて……。
あれは恥ずかしかったですね」
……ああ、その気持ちは分かるなぁ。
私も錬金術師ギルドで、テレーゼさんに何回も大声で呼ばれて恥ずかしかったし……。
「それでそのあと、急いで馬車に乗ったんです。
乗り合い馬車は今までに何回も乗りましたが、街中を走る馬車も良いものですね。
まだ王都に来たばかりなので、観光気分が味わえました」
「へー、それは良いかも。機会があったら私も乗ってみようかな」
「大聖堂のように、観光地になっている場所もありますからね。
なかなか楽しいと思いますよー」
エミリアさんは現地の人だから、あまり観光気分は味わえなそうだけど……みんなで回ってみるのも良さげかな?
王都はかなり広いから、歩きだけでいろいろ回るのも限界があるし……。
「それで、しばらく馬車に揺られて目的の場所に着いたのですが……。
そこでまた、驚いてしまいました」
「え? 武器屋の本店で何かあったの?」
「いえ、お店の前にですね……。
体当たりをしてきた女性がいたんです」
「「えっ!?」」
何それ、怖い。え? ホラーなの? 白昼のホラー? うわ、怖い。
「彼女の後ろにはお付きの方がいたので、どこかの令嬢かとは思うんです。
服装も前回同様、高貴な感じがしましたし……」
「いやぁ……。いくら高貴な方でも、それはどうだろう……」
いわゆるストーカーっぽいよね。生まれる世界が違ったら、完全に犯罪だよ?
「それで、どうしたんですか?」
「はい、私もさすがに少し固まってしまったんですが……。
その間に、今回は礼儀正しく挨拶を頂きました」
「へ、へぇ……? 話せる人で良かったね……?」
「アイナさん、実力行使でダメだったから……って理由じゃないでしょうか……?」
「……そう考えると、やっぱり残念な方のような気はしますね……」
「それで、お茶に誘われました。
ただ相手の素性も分かりませんし、しっかりとお断りしました」
「うわぁ、積極的ですね!
でもルークさん、上手くやれば玉の輿じゃないですか?」
「私は人生の最後まで、アイナ様をお護りするんです。
ですので、そういうのは求めていないですよ」
「……アイナさん、今のは告白なんですかね?」
「いいえ? そういう話で、主従関係を結んでいますので」
「はぁ……。やっぱりそういう関係なんですね……」
はい、最初からそうです。何でそんな残念がるんですか。
とはいえ、私としてはそんなに厳密な主従関係のつもりはなくて、仲間のつもりだから――
……もし途中でお別れを切り出されたら、引き留めはするけど、拒否は出来ないかなぁ……。
そもそも寿命が完全に違うわけだからね。
ずっと連れ回していたら、ルークも結婚とか出来なくなっちゃうわけだし。
「……それで、諦めてくれたの?」
「お茶は諦めてくれましたが、武器を見ている間はずっと横にいましたね……。
お付きの方も3人いたので、気が気でなかったです……」
「……3人もいたんだ。それでそのお嬢様、結局何者だったの?」
「最後まで教えてくれませんでした……。そもそも名前も教えてくれないんですよ。
お付きの方からは『無礼を働くな』と散々言われましたが、正体が分からないので、無礼も何も無いと思いますし……」
……あ、ボヤいた。
でもそれは確かにその通りだよね。
「それじゃ、次に会う約束とかはしなかったんだ?」
「ええ、私としては興味がありませんので。
むしろそっとしておいて欲しいと言いますか……」
うーん、結局何なんだろうね?
ルークのことを気に入ったんだろうけど……それにしては挙動不審というか。
「話は聞かせてもらったよ!」
「「「え?」」」
突然割って入ってきた声の主を見てみると、それはジェラードだった。
「ジェラードさん、いつの間に!?」
「ルーク君の話が始まった辺りかな?
なかなかドラマチックな内容だったから、黙って聞いていたのさ」
「ジェラードさんはこういう話、好きそうですもんね。それに、強そうだし」
「ふふふ、上手くいこうがいくまいが、そこには男女の駆け引きがあるのさ……」
「いえ、私はそういうのを求めていないのですが」
ジェラードの言葉に、ルークは少し疲れた顔で言った。
下手にトラブルを抱えると、私たちとの同行にも影響が出るかもしれないしね。
「ふむ……。そういえば、僕はルーク君と出掛けてみたかったんだよ。
ほら、例の武器屋の試し切りのブースの件もあるし。
アイナちゃん、明日はルーク君を借りても良いかな?」
「構いませんけど、私とエミリアさんは大聖堂に行く予定があるから――
……それなら、明日は別行動にしますか」
「うん、ごめんね。それじゃルーク君、明日はよろしく」
「ご、強引ですね……。
しかしアイナ様が良いというのであれば、問題はありません。お付き合いいたしましょう」
おっと、これはなかなか珍しいパターンだ。
私とエミリアさん、ルークとジェラードの二組になるわけか……。
「それじゃ、私はエミリアさんと二人でお出掛けですね」
「レオノーラ様もいますけどね……! 明日はしっかり、勉強してきましょう!」
「そうですね! 勉強、勉強!」
……明日は遊びのような、勉強のような。
でも装飾魔法を覚えるのは王都での目的の1つだし、ここは真面目に頑張ろう。
あとでルークにも教えてあげないといけないし、ね。
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