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夏めく玉繭

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夏めく玉繭

1 - 夏めく玉繭

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2023年03月27日

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⚠腐注意

こちらの作品には軽いジュダル→白龍表現があります。苦手な方は自衛をお願い致します。



カイコが二匹で一つの繭を作ることを玉繭というそう。カイコって人の管理下でしか生きられないんですって。可哀想に。





ある日のこと。そろそろ昼ごはんが食べたくなる頃合い、例のようにジュダルは白龍に絡んでいた。

「白龍ー!!迷宮攻略に行こうぜ!」

「……」

ジュダルはムッとした。最近の白龍はジュダルに対して反発することすらせずに無視をするようになっていた。ジュダルにとって自身の存在を蔑ろにされるのはわりとムカつくことのひとつだ。わざわざ白龍の中に眠るものを見抜いてやってこうして誘っているというのに。それに白龍は力を欲しているはずだ。なぜ白龍がこうも頑ななのかジュダルには理解しかねることであった。だがしかし、今日のジュダルは一味違う。今日の目的は迷宮攻略ではない。

「何をニヤニヤしているんですか。また何か悪巧みを?」

「いーや、なぁ白龍。俺と迷宮攻略すんのは嫌なんだよな?」

「まぁ、そうですけど」

「じゃあさ!俺と昼飯食いに行かね?」

「は?」

白龍はまるでヤバい奴を見るような目でジュダルを見てきた。その視線をジュダルは大いに無視して言葉をつづける。

「だってよぉ、今まで散々俺の誘いを断ってきただろ?ならちょっとは俺に対して申し訳ないとか思えよ。そしてこの俺をいたわるために飯を奢れ。もしくは作ってくれても構わねぇけど」

「話の筋が一つも通っていないのですが」

「とにかく!俺はお前と飯食いてぇの!それにタダとは言わねぇぜ?もし昼飯一緒に食いに行くとなりゃ、こうしてお前に絡む回数減らしてやるよ」

「そこはなくすところでは?はぁ。とにかく、神官殿には構っている暇はないんです。失礼します」

白龍はとうとう歩きだしてしまった。肩にかけた槍をみるに今日も鍛錬するのだろう。ジュダルはふわりと宙に浮き、なおも白龍を諦めない。ちょんちょんと肩を突いてみたり、顔を覗き込んだり。すれ違う女中らは白龍の出す負のオーラにたじろぎ、脇に控えた。恐る恐る投げかけられる視線には不安の色がうかがえる。ジュダルはそれを白龍と共に浴びたが、普段と違って無視をすることが出来なくて、その事実が不満を加速させた。

夏の気配が城中に満ちている。日差しはカンカンと照りつけて、汗が伝う肌を風がすぅーっと通り過ぎて心地がよい。こんな日は、少し時期が早いがスイカやらの季節のものを摘んでぐうたら過ごすに限る。というのに

「なぁーんで、こんなクソあちぃのに運動する気になれんの?オレには理解不能だな」

とうとう鍛錬場にまで来てしまった。白龍はというとジュダルの言葉を気にせず一心に槍を振るっている。手持ち無沙汰だし、白龍は構ってくれないしでジュダルはヤケクソみたいにその光景を眺めていた。

青々とした葉をつけた木が風で揺れている。木陰に入って暑さをしのげばいいものを、白龍は日差しの照りつける中で槍を振っていた。だからジュダルは大きな木陰を独占することができていた。芝生にごろんと寝転がる。思考の波に落ちていく。

(イイ目、なんだよなぁ)

ジュダルが白龍に入れ込むのにはワケがある。「黒き器」としてのポテンシャルがあることはもちろん、何よりもジュダルはその目が好きだった。瞳の奥に己に近づけさせまいと振りかざす刃物のような鋭利さと、ある意味歪な信念と、それでも真っ直ぐな愛があった。

ジュダルは、マギで、アル•サーメンの一員で、戦争が好きで、真っ当な人間ではないけれど、その愛にどうしようもなく惹かれてしまうのだ。きっと、あるかもしれない未来のその先で、白龍が振り向いてくれる日には、すべてひっくるめて一緒に抱えてくれるんだろう。そうして二人でどこまでも駆けてゆくのだ。最後には、手を繋いで地獄に落ちる。見つめ返されたその瞳に、自分が写っていることを夢想して。

少女のような妄想をしてしまう位には、ジュダルは重症だった。それも無自覚だからよりたちが悪い。


「神官殿、起きてください」

「ん?……」

どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい。日が先程よりも傾いて、寝ていたところにはとっくに日陰はなくなっていた。

「あ!昼飯!」

「とっくにそんな時間は過ぎてます。もう夕食を待った方が早いですよ」

うっかり寝過ごしてしまったようだ。当初の計画が台無しである。ジュダルはなおも白龍に食いついた。

「でも、俺腹減った」

「何か間食でもして凌いでください。全くもう…」

ジュダルは白龍に縋りついて強請るも全然効いていなかった。白龍としては2歳も年上の、しかも男に動かされるような心は持ち合わせていなかった。不意に

ぎゅるるるる

とお腹の音がなった。ジュダルのものではない。とすると?ジュダルが白龍の顔を見ると、白龍は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。心の中では腹の虫にキレているのだろう。ジュダルにあれこれ言っておきながら、昼食を食いっぱぐれたのは白龍も同じ様だった。

「白龍〜!お前も腹減ってんじゃん!ついででいいからさ。俺の分も飯作ってよ」

おねがい、とジュダルはここぞとばかりに話しかける。そのときの表情は白龍が初めてみるものだった。猫のような大きな目をきゅっと細めて、二人以外には聞き取れない位小さい甘えた声を出す。心なしか瞳孔がいつもよりも大きくなって柔和な感じをさせていた。

これには負けてはいけない、なんだか新たな扉を開きそう!と白龍が抵抗していたのもつかの間。白龍はとうとうふーっと大きなため息を一つついた。この勝負、ジュダルの勝ちのようだ。

「……分かりました。夕食が食べられるように軽くしか作りませんよ」

「よっしゃぁ!!何作ってくれんの?俺桃まん食べたい!」

「リクエストは受け付けてません。出されるだけありがたいと思ってください。それよりも…」

「ん?」

「どうして今日はそんなに食事にこだわるんですか。別に俺とじゃなくてもいいでしょう」

不満を隠そうともしなくなった白龍はジュダルに問いかけた。ジュダルは少し考えを巡らせて、

「忘れた」

とだけ告げた。本当は、もっとちがう理由があるのだけど。ジュダルは今日散々白龍に意地悪をされたから、言ってやらないことにした。普段の行いは都合よく記憶の彼方にやった。白龍は

「やっぱり、神官殿は気まぐれだから、困ったものです」

と死んだ魚の目をして呟いた。ジュダルは、こいつも死んだ魚の目になるんだ、と失礼なことを考えたが、せっかくの食事が暴力に変わるのはイヤなので黙っておいた。





いつか、繭が羽化するその日まで。二人でいようね。

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